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7話目 ザル警備




なんじゃこりゃ。

予想外過ぎるわ。


今城の中隠れて進みながら帰還を試みている訳なんだが、想定外の事態が起きた。

俺は結構考えすぎな所があるはずなんだけど、これは流石に想像も出来なかったわ。



何かしらの事件ってわけじゃない。

ただこの城にとって致命的な部分を垣間見てしまった。


何があったって?


そうだな...一言で言うならばそう...




警備ザル過ぎ。




いやマジで、どうなってんだってレベルで。


壁の陰に隠れてるのに気がつかないのはまだ良い。

横を素通りされたのもスーツの黒が保護色になってたからと言い訳がつく。


けど真後ろで物音たてて気がつかないのはもうわけがわからん。

ちゃんと振り返ったろ。

俺の方見ただろ。

真ん前に立ってたじゃん。



物音には反応早かったのに俺を視界に入れた瞬間キョロキョロしだしおって。

視界に入ってもダメってんなら、逆にどうやったら気付くんだよ。


これはあれか?

警備の人全員で俺をからかってやがるのか?

まだドッキリ仕掛けられるほど仲良くなった覚えなんてねーぞ。



それか王様か?目からビームからの御達しなのか?

お食事会で寝てた俺への悪戯的な何かか?



くそぅ...良い茶目っ気出しやがって目からビーム...


...本当にそうなら良いんだがなぁ。

親しみやすさ満点で。


あーあ、ここまで来たら流石にもう気付いて欲しいわ。

全力で道案内頼みたいわ。



飾られた鎧をコンコンと小突きながら暗い通路を進んで行く。

松明や照明じみた魔法的な明かりは所々に見られるが、完全に照らされているのは城の要所だけらしい。

少なくとも、俺が歩いてきた通路は殆ど暗かった。


その代わり、と言っては違う気もするが、見回りの兵士さん達はそれぞれ皆松明やランタンのような光源を持って巡回を行っているようだ。



だから近づいてこれば大体わかる訳だけど、まぁ見渡しの良いただの通路に隠れる場所などそうある筈もなく。


見つかっちゃうぅぅ!と焦って取り敢えず壁に張り付いた俺を警備の人が素通り。



続く第二陣の人は明かりを持ってなくて、さらには曲がり角でバッタリ。

例によって真横に来るまで俺が気付けず。

ビックリして足音を立てたらそれに第二陣の人が反応。

バッチリ俺の方を見るも、キョロキョロした後にスルーして去っていかれた。



そうして今に至り、もはや大手を振って通路を歩き回っているわけだが...



「ここどこ...」


迷った、それも完全に。



元々方向音痴な所があるのは自分でもわかっていた筈なんだけど...



マジ、ここ、どこ。



扉は両側均等に配置されているものの、先程まで疎らにあった明かりがついた部屋は無く、辺りには光源も、窓さえ存在していない。


それでも辺りが見えるのはこの世界でのレベルアップの恩恵か。



ん?待てよ?

レベルアップ...?


あ、そうだ。

もしかして兵士さん達が俺に気付かないのって...!?



「ァ...ァ..ァァ.....」



ファ!?


こ、声....?

悲鳴...遠いな...女の人か?



声の方向を見つめ、唾を飲む。

この時間に、それも悲鳴ときたもんだ。

何かが起きたに違いない。



マジかよ...行かなきゃダメか

何もなければ道を聞けるかもだし....何かあれば、助力しなきゃな...


アイテムボックスの中身を思い出す。

いつでもとり出せるように、練習はした。


しかし...


(怖ぇなぁおい

やっぱ様子見だけに...でも襲われてたら...

いや、でも予想が当たってたらなんとか...)


迷いながらも、一歩踏み出す。

二歩目からは止まらない。


試さなければならないところではあるし、何より声を聞いてしまったのだ。


誰かが危険に見舞われたのであれば。

それに気付いてしまったのであれば。

助けぬわけにはいかない。

かくも普通とは、一般常識とは、有益ではない行動に縛られる場合もある。



何より後味が悪い。

これで明日城の中で殺人が〜などと噂になってみろ。


多分その後悔は一生ものだ。


(ああー...ううー...不安やなぁ...怖いなぁ...)


でも、でも、と言い訳しながらも歩みは止めない。



ただ思い過ごしであってくれと願いながら、シンは通路の暗闇へと進んだ。



◇◇◇



「うぅ...なんでここの見回りなんか...」



独りごちる。


ゆっくりと、何かに脅えるようにして、彼女は暗い通路を進んでいた。


名はメイ。

王宮付きの兵士とは名ばかりの、しがない見回り要因だ。


日本の時間で言えば、丁度日付が変わったくらいの時間であろうか。

城全体が静まり始め、既に始まった今日の為に皆思い思いの休息をとっている頃合いだろう。


しかし、例によってメイの心は一ミリたりとも休息してなどいなかった。



「よりにもよって2番倉庫なんて...」



田舎者ゆえに持っていた夜目スキルにより見回りを任され、

新人ゆえにそれを断れず、

ほんの少し腕が立ってしまった為、こんな嫌がらせを受けるハメになってしまった。


2番倉庫。

城にいるものには「出る」と有名な所詮心霊スポットである。


奥ばった位置にある為にいつも薄暗く、何かを感じさせる雰囲気がある。



そんなところ、だれが好き好んで見回りなどするものか。

入ったばかりの新人は皆そう思う。


長年勤めた古株の先輩方であってもそれは例外ではなかった。


と、来れば新人いびりに使えそうだと一部の人間が言い出すのもまた必然であり。

半ば恒例と化したそれに、自身もまた通った道だからと、誰も口を出さずにいた。


なんと悪しき風習だろうか...

メイはため息をつき、それに応えるように。


カサリ...音がした。



「だれ!?」



ランタンを向け、声をあげるメイ。

兵士たるもの故に叩き込まれた気迫の声量。

へっぴり腰でさえいなければさぞや勇ましいものだったに違いない。



人だろう、人に違いない、人以外がいるわけがない、人ならば切らないと。

恐怖から混乱した思考で剣を抜こうとするメイ。


しかし、照らされた影は手のひらサイズ。

小さな肢体で一声鳴いた。



「チュー...」



ネズミだった。



「な、なんだぁ...脅かさないでよ」



屈んでヒョイと捕まえる。

全体的に白く、不潔感の無いネズミだ。

このような倉庫にいるには珍しい種類だった。


(かわいいなぁ...)


チッ...チチッ...と鼻をピクピク動かす仕草に、彼女は心奪われてしまっていた。


そして何よりも、この空間にいる生物が自分だけではないのだという安心感がある。

恐怖で固まっていた体が急速に解れていく。



「ビックリさせた罰として、君にも巡回についてきて貰おうかな」



首元を優しく撫でながら、そんなことを呟く。

チュー!と、ネズミも返事をするように一声鳴いた。


頭の良い子だ。

頼もしくも思える。



(こんな子と出会えるなんて、噂よりは良いとこなのかも)



もはや震えなどなかった。


しかし、メイが恐怖を排する事が出来たのは、実害がその身に降りかかっていないからだ。


雰囲気で感じる怯えなど。

噂で聞いただけの恐怖など、たかが知れている。



例えば怪談を皆で語り合った時、1人はいるだろう。

別に怖くないけど、と言う人物が。


皆の前で虚勢を張ったのか

はたまた本当に怖くなく、周りの空気を読めないだけなのか

それとも語り部の話が、皆が共通して思う程怖くも面白くもなかったのか



だが、もしもだ。

その人物が、実際にその怪談を体験していればどうだろう?

これから体験する事になればどうだろう?


はたして、それでも「怖くない」と言えるのだろうか。




倉庫の扉が独りでに開く。

ギギギ...と音がする。


瞬間、倉庫の中から重く、冷たい空気が吹き出し、通路を抜けていく。



同じくギギギ...と音がなりそうな身振りでメイも振り返り...



目にした。



長い前髪に隠れた顔

ひたりと踏み出した足

笑んだ口元


黒い影を纏う少女



「おねえちゃん...だぁれ?」




◇◇◇




...気分が悪ぃ

いや、またお腹を壊したとかそういうわけじゃなく


声のした方へ近づくたびに...なんだろ、雰囲気が悪くなるっていうか...

理由は無いんだけれども、ヤバいって第六感が告げてるような気がする


俺の六感こんな感度ビンビンだったっけ?



これまで「ん?終わった?」くらいだったのにいきなり「んほぉぉぉおおおおおいいのぉぉおおおお!!」ってくらいには何か次元が違うレベルで感度が違う。



出来れば早く帰りたいが...ん?



「...ヒック...ウゥ...」



お...居た.....なんか泣いてる?


どう声をかけるか...普通に駆けつけた体でいいか。



「すみま「キャァアアアア!!」...」




「おちつ「来ないで!来ないでよぉ!!」




おおぅ...剣を振り回して随分と錯乱してらっしゃる

なんでこんなに...あ


もしかして...この子にも声だけ聞こえてる状態なのかな?

近く足音、聞こえる声。

なのに姿は見えないとくれば...確かに軽くホラーだわ。



どうすれば俺はこの子に見えるんだろうか?

声かけもダメ、視界に映るのもダメ

とくれば...もう触るしかないのでは?



じゃ、邪念なんて無くってよ!?




「ひっ」


肩に手を置く。

ピクリと震え、ぎゅっと目をつぶる兵士さんかわいい。



「大丈夫ですか?

私は勇者です。貴方を助けに来ましたよ」



「え...」



は、恥ずい...私は勇者ですって何だよ。

言ってて恥ずか死しそう



「ぁ....」



小さな声を出してカクンと倒れこむ兵士さん。

慌てて支え、床にゆっくり寝転がせる。


気ぃ失うとは、よっぽど怖かったんだろうな。

まぁ、何ともなくてよかった。

だがなぁ...。



ここに来た時から、いや、多分来る前から察知していた予感は収まってなどいない。

むしろここに来てどんどん強まっている。


その発信源はどこか。

感じるままに目を向ければ、容易く見つけることができた。

黒い霧のような物さえ漏れ出て見える倉庫の扉。



あれ?ここってもしかして。




出るって噂の物置なんじゃ?





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