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5話 出会い




「ふぁぁ....はぁーあ」




距離にして二歩ほど先を歩く昨日の金髪メイドさん、欠伸をしながらそれに付き従う俺ことスーツマン。

昨日に引き続き、城にお邪魔しているお眠な私。




どうも皆さん。

私です、水野真也改めステータス曰くシンでございます。



ただいま一徹真っ最中。

私、寝ておりません。


ああ眠い。

一徹ってーのはこの朝の時間が一番眠いんだよなぁ。




こんな見ず知らずのヤツが勇者として召喚されたとなれば、お国様はきっと確実な手綱を作りたい筈。

昨日も考えていたその理論に従い、今度は実力行使、異世界転移のテンプレ。

禁忌:奴隷落としが待ってるのでは無いかと考えたわけですよ。

今回の一徹は、そんな俺の妄想力に任せた結果の行動だったんだけども...だーれも来なかった。



まぁ、来られても困るんだけど。



ってな感じで、意識朦朧半醒半睡の状態でウトウトしててね。


んじゃま、このメイドさんが訪ねてきてさ。

言うわけよ。


「他の勇者様との顔合わせです」って




...キタコレ、マジキマシタワこれ


平民の勇者だとか言うからもしやとは思っていたけど、本当にそうならこれはでかい。



まだ人数、勇者というシステムの仕組み、その認識と俺は全くわかっていない。


だが、人数=比重の分散という当たり前の事実だけはわかる。

という事は、だ。


俺...もしかしたら戦わなくて良いんじゃね?

俺の能力はモロ支援系だし、俺自身戦闘経験皆無な一般市民の平民だ。


普通にあり得る。


もしそうなら、最高だ。

今思う一番良い結果だと言える。


いや、勇者が戦わないただのお飾りだってのが一番良いか。


偶像象徴お人形。

よっしゃ任せろバッチコイ。




大勢の人の前で喋るのは些か苦手だが、殺し殺されの世界よりかは100倍マシだ。


有る事無い事、いくらでもしゃべれる自信がある。




まぁ全てはこれからのお楽しみってことだ。

メイドさんに案内される先に答えはある。


少なくとも勇者が複数いるのは確定なのだから、凄く気が楽になった。



テンション上がったおかげで目もあらかた覚めたし。




「どうぞ、こちらです」




ん?ついたらしいな。

おお、なんだか威厳のあるドアでいらっしゃる...


なんだか緊張してきたな

服はスーツで一様正装だし...まぁいっか。



どうとでもなるよな。

深夜明けのテンションプラス良い知らせで今めっちゃ良い気分だし。

なんでもできそう。


ガチャリ、とメイドさんがドアに手をかけ...


装飾たちの煌びやかな光が隙間から瞳にあたり、だがすぐに白くなった視界は開け、その向こうが見える。


瞬間、俺は笑みを噛み殺した。

脇役というには特徴的な姿をした人の数たるや、想像よりも遥かに多い。


ある者はローブにとんがり帽子

ある者は半裸状態に大剣

ある者は宝石があしらわれた剣と特殊な刺繍が入ったマントに鎧


人間だけではない。

耳が長く尖っている者や、特定の動物を思い起こさせる尻尾や耳を持つ者も須く全員何かしら特徴のある服装と装備、武器や防具を身につけている。

召喚された時にいたような貴族っぽい人達は一握りで、いても何か雰囲気が違う。


間違いない、あの言葉通りであるならばここにいるのは全員須く勇者だ。


その数はパーティーでも開けそうな会場に、ざっと見ても100人以上はいるだろう。



確信した。

おれ、いらない。



(きたっ...!これで勝つる!!

...でも昨日した対策無駄になっちったなぁ)



勇者複数なんて憶測でしかなかった昨日のおれは、『想定される最悪の事態』に備え、一様準備をしていた。

昨日見たボックスの中身、「経験値引換券」を使用して。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

シン Lv:101 job:平民の勇者 ランク:S


称号:普遍の勇者


生命力S-

筋力S+

体力S-

素早さS

技量S

魔力SSS+

頭脳B+


スキル:付与魔法EX(Lv:MAX)

アイテムBOX(Lv:MAX)

弱点看破(Lv:MAX)

毒耐性(Lv:MAX)

短剣術(Lv:MAX)

察知(Lv:MAX)

隠密(Lv:MAX)

俊敏(Lv:MAX)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



これが今の俺のステータス。

経験値引換券の枚数は全部で5枚...効果は見ての通りだ。


スキルに使えばお好きなスキルをレベルMAXの状態で取得でき、レベルに使えば100固定でレベルが上がる。


なぜこのスキルを...ってのは他のアイテムBOXの中身が関係しているわけだが...

くっそー...贅沢言える立場じゃないけど、こんな便利なもん入れとくなら他のももーちょいサービスしてくれたっていいのに。


ま、これが便利すぎるしなぁ。

あんま動かなくても良さそうになったからいいか。



取り敢えず入ろう

今はみんな気にしてないみたいだけど、つっ立ってて目線が集まるのは恥ずかしいし怖い。

今でももう2、3人から視線を感じるのが我慢ならない

早めに溶け込まねば...


集まる視線に軽い会釈を返し、そのまま部屋に入る。



後ろからガチャリ、という音

メイドさんが扉を締めたのだろう


その音を合図としたかのように、聞き覚えのある声が部屋全体に響き渡った。




「皆、揃ったようだな」



あ、王様

いたのか怪人目からビーム。


ってかおいおい、俺が最後かよ。

平民の勇者だぞ、平民の。


重役出勤は許されないでしょ、順番頼むぜメイドさん。


小心者の心臓がキュってなっちゃう。

キュって。



ほんのちょっとの非難を込めて軽くメイドさんを見つめてみるが、普通に目を合わせられて自分から逸らしてしまう


くそぅ...美人だけあって意識して目を合わせちゃうとダメだな



「本日は皆の顔合わせだ...全ての勇者がここに揃っておる

このような機会、滅多にあるまい

堅苦しい挨拶は抜きだ

皆、存分に交流を深めてくれ」



目からビームが杯を掲げ、一気に飲み干すと周りの皆も食事を始めた。


なるほど、朝飯兼ねてるわけね。


鳥の丸焼きっぽいのと...焼いた何かしらのステーキとかと...高級そうな菓子細工と...あれは噂のパイではないか?


...朝飯の割にはめちゃめちゃ重いもんばっか並んでんな



朝はフルーツ派なんだがなぁ...

果実は何処かに無いものか


忙しなく動き始めた周りに混じり、果実を求めて場所移動を開始する



歩く歩数と同じだけ特徴的なコツコツという音が聞こえるあたり、メイドさんもついてきてるのか


周りの人らは召使とか連れてらっしゃらないけど...このメイドさんは別に入ってきてよろしい決まりでもお有りなのかな?


いや、俺が「平民の」勇者だから何か粗相をしないように見張ってるのかも。



そんな事を考えながら、できるだけ壁沿いを歩いて移動し、散策する。


少ししてやっと果物らしきものが置いてあるコーナーに来たかと思えば、女の子グループが集っていて俺が入っていっていい空間ではなくなっていた。


次いで周りを見れば、既に幾人かの打ち解けた、または元々知り合いだったのであろう面子でグループが出来始めていた。


こういう初対面の場合、先んじる事がとても大事だ。

雰囲気で大丈夫そうな奴に声をかけ、一人でなくなれば取り敢えず浮くことは無い。


だが...見るからに身分の高そうな方達か、そうでなきゃ力自慢の怖そうな奴らばっかりでどうにも声をかけにくい。


女の子も美人ばかりで俺からは話に行けない。



...果物コーナーの方から「朝から肉ってどうかしてるわよねー」「そうよね〜、肌も荒れちゃうし」「もぐもぐ...どっちも食べる」等声が聞こえてくる


ああわかるぜその気持ち

あんな美人達でなけりゃ「やんなぁ?俺も朝はフルーツ派」って会話に混ざるのに。



後探してみたが、同郷の仲間も居ないっぽい。

ってか普通の奴がおらん


男も全員顔良すぎだし。

タイプは違えど全員まごう事なきイケメンだわ。



あーあ、日本男子も全員ああならいいのに。

一気に少子化解決すると思うんだけど。


自分に自信なくすこともなくなって、いいことづくめなのになんで人間の遺伝子ってのはこんなにも不条理なのか。



「正直最初はやばい奴だと思った」

「後ろ立つなよ威圧感あるわ」

「お前の顔見たぞ、ポリ公のポスターで」

友人たちの言葉が蘇る。


こっちも好きでこんな顔してるわけじゃねぇっての


くっそー、どうせリア充ばっかなんだろうな

盛大に爆発してくれ



自身の空想で舌打ちが出そうになった所をクッと堪える。

そんなある意味周りの人間に後ろめたい空想をしていたからだろう。




「君、ちょっと良いかな?」




突然肩を掴まれ、かけられた声に俺の体はピシッと固まった。


(っとービビったぁ!

まじ勘弁してくれよ...心臓に悪いわ...)



「ふぅ...はいはい、なんでしょ?」



一泊おいて緊張を解き、返答しながら振り返る。

顔には笑みさえ浮かべて驚いた事などおくびにも出さない。

本当はびっくりしてない状態だとオーバーにリアクションするのに本当にびっくりしてるとなんだか逆にすましちゃうよね。

かくも不思議な人間心理。


見ると、そこには最初に見かけた宝剣とかっくいい刺繍のマント装備のイケメン優男が妖しい笑みを浮かべながら立っていた。




「いきなり悪いね」


「ほんとに、びっくりしましたよ」




近くで見るとこの人宝石の数がやばい。

イヤリング、バングル、ネックレスの小物や鎧の端々まで色取り取りな宝石がその存在を主張している。


それでも妙に様になっているのはやはりイケメン故か。


さらりと流れる黄金色の髪も宝石のように輝いて、なんとも眩しい奴だな。



「君も勇者なのかい?」


「まぁそうらしいですね」



「その服...珍しいね

だけど悪くない、何処で手に入れたの?」


「生まれ故郷の正装でして

何処でっていうのは...ちょっと言えないですわ」



「理由でもあるのかい?」


「んまぁ、一様」



何が可笑しいのか、ニヤニヤと会話を進める宝石男。

何処で買ったとか聞かれても日本の地元としか言いようがないんだが、この世界では向こうの事って知られてるのかな?


いや、知られてたらスーツが珍しい、なんて言われるわけないか。



やっぱり俺以外の勇者は日本から召喚されたってわけじゃないらしい。

取り敢えず隠しとくか、説明が思いつかないし、言う理由もないしな。



「ところで、なんだけどね...」



いよいよ本題か

ニヤニヤすんのやめたら答えたるわ、と言いたくなるが、そういうわけにはいかない。


他人をみだり不快にしない。

言いたそうにしている事は言わせてあげる。

普通に生きるコツってのはこういう簡単な所にあるのだから。


でも一体なんなんだろ?


やけにキメ顔で溜めるから何か重要で決定的な事を言われるんだろうが、全く予想がつかない。

ここにきてまだ2日目だ。

何かをやらかした記憶もない。


頭中を?で満たす俺に、宝石男が遂にドヤ顔で言い放つ。



「君は『何の』勇者なんだい?」



時が止まる。

周りの騒めきも気がつけば止まっている。


またしても俺は驚いた。

てっきり答えられない問いが待っていると想像していたのに、しっかり自分は答えを持っている。


応えることは容易だった。



「『平民の』勇者です」



こうなれば意識は宝石男との受け答えなどではなく静まる周囲に向けられる。

なぜ静かなのか、皆こちらを見ているのか、わからない、居心地が悪い。


しかし、なおも宝石男の問いは続く。




「認証の儀は何時だい?」


「昨日ですね、昼過ぎ...というにはやや夕方寄りですか」




城から見た街は夕陽に染まってはいなかった。

日はあの角度からは見えなかったが、暫くで暗くなったため、その辺りだろう。


ってかそんな事はどうでも良い

なんだこの空気は、やばい雰囲気がプンプンする


早くこの場を離れねば。




「あれ?おかしいね...最後の認証は1週間前だった筈なんだけど?」


「まだあなたが知らないだけでは?」




うっセーなこいつ、注目されてんのわかんねーのかよ

何が言いたいのかもわからないし...いっそ強引に離れるか


それでも話したいんならついてくるだろ

取り敢えずここを離れたい



「いいや、これは正しい情報さ

フッ...いい加減認めなよ

僕に見つかった時点でもう君は終わっていたのさ」



「あぁ、はいはいわかったわかった」




やっぱりついてきてほしくねーなこいつ。

何言ってっかぜんぜんわかんねぇ

これが電波って奴か...



どうやってか逃げれないか...お?

この音は...



コツコツと響く特徴的な足音

こりゃメイドさんだ。


あの人に助けてもらおう。



「あ、すみません」



振り返り声をかける...が、そこに思い描いた顔は無く、メイド姿の別人がトレイに高そうなグラスを1つ乗せて運んでいる所だった。



向こうも呼び止められると思っていなかったのか、「あ...」という顔でこちらを見ている。



あぁ...こりゃあ気まずいぞ...




「それ...貰っていいですか?」


「え...?」




逆三角形の形をしたグラスにちょこっと入っているそれを指差す。


とっちゃいけない気配がビンビンするが、他に何も思いつかなかった...



「いや、ですがこれは...あ!?」


さっとグラスをとってその中身を飲み干す。

これ以上恥はかきたくないんだ...すまん、名も知らぬメイドさん...


...ん?おお...高そうなだけあってこりゃなかなか....うげぇ!?


なんだこりゃ!?

スッと入って飲みやすいかと思えば、このワイン(?)後味がエグすぎる。



喉に粘っこく残って焼け付くように痛い。

どうも思ったより強い物だったらしい...




それでも気合いで流し込み、グラスを戻す。

クッソー、今日は厄日だ



「...ありがとうございます」



別人メイドに礼だけ言ってその場を離れようとすると、誰かに前に立たれる。



「あ、あの...!」



メガネをかけてて、もっさりとした服を着た女の子だ。

妙におどおどしている。



「だ、大丈夫ですか...?」



それは度数の高いお酒の事だろうか?

それとも宝石男との言い合いだろうか?


どちらにしろ大丈夫だから退いてほしい。

水と人がいない場所に行かねば色んな意味で死にそうだ。


これ以上多数の視線に耐えられない。



「問題ないですよ」



素っ気なく答えて足早に去る。

心配してきてくれたであろうに...ごめんね

今は余裕無いわ



何処からか現れた本物メイドさんが俺に水を渡してくれる。



「ありがとうございます」



でももうちょっと早く来てほしかったな。


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