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3話 美人の前じゃヘタるよな



煌びやかな装飾のなされた装飾品の数々。

名のある石工が仕上げたのであろう柱と壁。

中世ヨーロッパとでも、ファンタジックとでも言えるそれらの中にいて、何ら違和感の無い貴族然とした人達。


さらにその奥にはこれまた素晴らしい装飾のなされた王冠を被ったまさに王様と言えるお方。

おまけに足元の魔方陣っぽい幾何学的なお絵かきの各角にはなっがい杖を持った怪しいフードさん達が配置されている。



先程の老人とのやり取りの後、視界が開けたと思ったらこれだ。


もう、疑うべくも無いだろう。

俺は元いた世界から別の世界に飛ばされた。

いや、連れてこられた。


恐らくは召喚という方法によって。



(あーマジかぁ...あー!マジなんか!!

ああ...もう、なんか...はぁ...)



ざわざわと貴族様方が騒ぎ出す。

俺の憂鬱とした気分を悟ったからでは無いだろう。


皆それぞれ怪訝な表情をしている。


意外と距離感のあるここからでは正確には聞き取れないが、表情から察するに「えー、あれが勇者なの?」「マジ?ありえないんですけど...」とでも言っているのだろう。



いや、そうであってくれ。

願わくば、リリースまたは返品という選択肢に至って頂きたい。



俺に勇者など、できっこ無いのだ。




「お主は...平民の勇者なのか?」




眼光鋭すぎるぜ王様。

ビームが出そうだね王様。

普通なら震えて泣き出してたかも。


だが泣き土下座は思ったより俺のMPを削ったようだ...何の反応も出てこねぇ。


しかしどう答えたものか。


老人は確かに最後「期待しておるぞ、平民の勇者よ!」と言った。

間違いなく俺に向けて。


ならば俺は平民の勇者ということになるだろう。



ってか、今それ以外の答え俺持ってねぇし。



「はい」



腰に差した大きめの剣がやたら似合う王様に肯定の意を示す。


しっかり目をみる事も忘れない。

こういう人の問いには多分、とか恐らく、とか不確定な言葉は使っちゃダメだ。


バッチリそうだと言われたのだから、自信を持って答えよう。

間違ってたら知らん。

あのジジイが悪いのだ。




「そうか...ならば良い」




見つめるだけで人を殺せそうなおめめをすっと閉じる王様。


答えに満足して頂けたご様子。


...と思ったらカッ!と目を見開いてお言葉を頂戴。


流石にちょっとビビった。




「これにて召喚の儀は完了とする!

平民の勇者を部屋へ案内せよ」




命令口調の際は眼力もさらに増すようだ。


あの目からはビームが出る、絶対。

確信に変わった瞬間である。



コツコツと近づく特徴的な足音一つ。

王様の言葉通り俺を部屋に送ってくれる誰かだろう。


対して王様や貴族様方、フードさん達まで俺以外のここにいる全員は動こうとしない。


儀式後のミーティングでも有るのだろうか?


あの王様が「はーい、今回の反省点について意見がある人手ぇ上げてー」と言うところを想像してみる。


いやいや、「そこの大臣!ちゃんとやって!」も欠かせない。

続く言葉は「寝たやつは斬首だからね!」だろうな。



いかん、笑える。



歪みそうになった唇を噛み締める。

これ、意図的じゃなく俺の一種の癖なのだが、どうにも苦虫を噛み潰したような表情に見えるのだそうな。

直そうとは思うのだが、今日まで一向に修正される気配がない。


まぁ、この場で笑うよりはずっとマシだろうが...いやぁ、これはいかんな。

いろんなことの連続でテンションがおかしくなっているみたいだ。




「失礼します、勇者様。

部屋までご案内いたします」




足音の主さんからお声がかかる。

顔を向けると、無茶苦茶綺麗なメイドさん。


金髪ロング色白スタイル良し。

金色のクリクリとした瞳がこちらを見つめている。

どちらかと言えば可愛い系か...いや、飛び抜けて可愛い系だな。


むしろ可愛い系を極めていると言っても良いほど可愛いなこれは。


異世界人女性、しょっぱなからレベル高すぎ。



「こちらへ」



促されるままついて行く。

扉を抜けて、廊下を歩いてその先へ。


こんな美人、普通なら見かけた途端に告白するレベルである。


初対面初顔合わせからの「俺、ずっと君のことが...」なんて言葉がスラスラ出てくる野郎共の姿が容易に想像できる。



しかし、今は普通に非ず。

この状況で美人を俺に接触させる理由、1つしか無い。

オタク文化にも理解のある俺の魂が叫んでいる。


もし、普通の反応通りに俺がこの美人さんにベタ惚れして、言うことほいほい聞いちゃうミツグ君になってしまった場合、間違いなく良い結果にはならない。


何が言いたいか?


簡潔に言おう。


ハニートラップ待った無し。


貢ぐ先は彼女ではなく、お国と王様という事になる。

目の前の彼女なら兎も角、先程の目からビームに貢ぐ君などまっぴら御免である。



いきなり何を言っているんだって?

まぁ待て、そう的外れというわけでも無いだろう。

浅はかではあるかもしれないが。



仮にも勇者たる俺への情報を持たない王様がすべき行動。

そう見てみれば、まあ簡単なことであってだな。


そうなれば、使うは実力行使か搦め手か、俺ならどちらか。

俺ならもちろん搦め手だ。



証拠も無いし、少し自意識過剰気味な気もするが、既にここにいる事自体が先程までの俺からしたら考えもしなかった状況なのだ。

考えすぎなくらいで丁度いいだろう。


それを思えば、自ずと告白欲も萎える。

まぁそうでなくとも自分に自信が持てない普遍的な存在ゆえ、告白などする筈が無いのだが。



因みにこれ、上がこじつけで最後が本音なんてことは全くない。

豊かな想像力で美人に話しかける恐怖を正当化してるなんて全くもってありえないさ、うん。



わかってた?


そっか。




そんな事を考えながら、トコトコ歩くこと約10分。

廊下歩いて、エレベーターらしき箱にも乗って下へ下へと。

今は居住スペースと言った所だろうか?


会話無し。

ハニートラップに...というよりは美人に話しかけるのには気が引けるが、喋りたがりの性分もあってどうにもそわそわする。

まぁ外の様子も観察していたのでそこまで気にならなかったのが救いだ。


でなきゃ会話が始まって惚れてたかもしんないし。

相槌打たれて微笑まれてみろ、多分一発だ。




最初からそうかなとは思っていたが、やはりここは城らしい。

高い丘の上に立っているらしく、窓に目を向けると開けた景色と城下町が一望できた。


いい景色だった。

現代なら文化遺産などに登録されていそうな建物ばかりで、主は石と木のようだ。


普通に観光して回ってみたい。

いや、店などをまわるより散歩して景観を楽しむ方が、この街には合っているのかもしれない。




また、驚いたのは城の階層移動にエレベーターらしきものが用いられていた事だ。


一昔前の高級ホテルのような手で締める型の編み編みドアで、階層指定のボタンはレトロなタイプライターの入力ボタンのようになっていた。

細々とした所にも装飾がなされており、これまた小一時間見ていても飽きないであろう芸術品だった。


レトロに趣を感じる男の子の身としては、実際に1時間ほど鑑賞会を開いて頂きたい所ではあったが、勿論そんな訳もなく。

メイドさんに促されるまま、普通に入って降りた。



ファンタジーならお馴染みの魔法の類かと思ったが、所々にきっちりとした機械仕掛けも見られ、興味が尽きない。


今は魔法か機械仕掛けかどちらで動いているのかわからないが、いずれ知りたいものだ。



主な移動中の感想としてはこの2つが目に留まったことくらいか。

後はなんだか想像通りのお城といった感じだった。



重要な事としては後1つ、移動中に少し考えたことがある。

どうにも引っかかっていた事だ。


あのジジイと目からビーム。

両方とも、平民の勇者って言ったよな?

『平民の』勇者って言ったよな?


これってまさかだが...



...俺以外にも勇者様、いるんじゃね?


評価感想お待ちしてます。


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