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Child Records  作者: 京兄
2/2

二話 母の思い出2

母の死後、莫大な遺産を放棄するように財閥から迫られる。

今更現れた存在に抵抗したい俺は、弁護士に依頼をするが断られる。

困り果てた俺は、バイト先の店長から聞いたWebサイトに依頼を出すと、変な男が現れる。

男に促されるまま目的地にやって来たが・・・。

   ギイと大きな扉が開く。

見た目より重い木製の扉が開くと、まるでホラーゲームの舞台になりそうな雰囲気の大広間が広がっていた。

「見覚えはあるかい?」

背後から薄ら笑うような声がした。

屋敷の雰囲気も有り、ゾクッと背筋が凍りつくようだった。

「いや、全く無いな。」

「そうかい、それは残念だよ。」

路地裏の件があってから、自称名探偵の何でも屋が、どうも怪しく感じる。

「それじゃあもっと奥に行ってみようか。」

男は薄暗い闇に溶けてしまいそうだ。

「ここに何があるんだよ?」

男は振り返ると、ついて来ればわかると言わんばかりの笑みを見せた。


 奥に進むに連れ、見覚えの有るような絵が飾られている空間に出た。

「この絵は・・・。」

綺麗な女性が描かれている。

薄暗いせいでよく見えないが、何処か母親に似ていた。

「少し残っているね、見てみよう。」

そう言って、男は銀色の金属片を取り出した。

ギラリと鈍い光が、薄暗闇の中でもはっきりとわかった。

「おい、それは」

言いかけたところで、一瞬で眩い光が辺りを包む。

何処か懐かしいような暖かい光の中に、ぼんやりと何かが見える。

薄目でしか見えなかったが、若い頃の母だとわかった。

「母さん?」

光はすぐ消えてしまった。

「ああ、君にも見えるようだね。」

男はふと思い出したように言った。

「今のは一体何なんだ?」

ニヤリと笑い答える。

「レコードだよ。」

男が言うには死者の残留思念だそうだ。

人は死ぬと、思い出の在る所に残留思念を残して行くらしい。

それを辿って行くと、その人の人生が見れるのだそうだ。

「今回の依頼には、どうしてもここに在るレコードが必要だったんだよ。」

少しばかり不思議な現象の後に見たせいもあって、男の薄ら笑いが照れ笑いに見えたのは、たぶん気のせいだったんだろう。


 一番奥の部屋についた。

「ここで最後の部屋だね。」

ギイと軋む扉を開けると、そこは子供部屋だった。

「・・・思い出した。」

そこはまだ俺が赤ん坊の頃に居た部屋だった。

「何で?覚えてるはずないのに・・・。」

確かに、そこは赤ん坊の頃に母親と住んでいた屋敷だった。

だが、そんな記憶は今まで無かった。

父親との記憶も蘇る。

部屋の中で幼い自分と若い頃の母と父の姿を見ながら、段々と苛立ちが強くなって来た。

「どういうつもりだよ。」

「何がかな?」

「俺はこんな事は頼んでいない。」

「そうだね。」

「俺の依頼とこの記憶と何の関係があるんだよ。」

「それは最後のお楽しみだよ。」

今思えば、この時すでに男の雰囲気がガラリと変わっていた事に気付くべきだったのかも知れない。


 屋敷を後にした二人は次の目的地に向かった。

納得の行かない俺は、道中で終始無言だった。

少し休憩しようと提案し、静まり返った夜空の下、やがて男が話し始めた。

「君は本当に父親を憎んで居るのかい?」

「当たり前だ。」

今更名乗り出て来て、しかもすでに死んでいるなんて。

遺言が遺産の放棄だなんてのはどうでも良かった。

ただ、母が死ぬ前に一目でも会って欲しかった。

いつも寝言で、俺ともう一人の名前を呼んでいるのはわかっていた。

「それじゃあ次の場所へ向かう前に、一つ面白い話をしてあげよう。」

男は財閥の話を始めた。


 まだ父親が母と結ばれる前、俺と同じ年齢の頃に一人の女性と出会っていた。

将来を誓い合い、やがて二人は結婚をした。

それが今の財閥の令嬢だった。

母は令嬢に仕える世話役だった。

見の周りの世話をしているので、母とも顔馴染みになったのだった。

二人はお互いに意識こそしていたが、一線を超える事は無かった。

だが、父と母とが男女の関係になるのは時間の問題であった。

財閥の令嬢は、子供が産めない身体だった。

仕方無く、財閥の代表は跡取りを絶やさない為に、父と母との間で子供を設けさせた。

当然、財閥の令嬢は理解を示していたが、心の隅では母を憎むようになった。

長男が生まれ、長女が生まれ、跡目としては充分だった。

だが、次男が産まれた。

それが俺だった。

母と俺は、当然のように屋敷から放り出された。

父が顔を見せなかったのは、財閥から俺達を守る為、また財閥の秘密を守る為、お互いに干渉しない事を条件にしたからだった。

もし条件を破り、母と俺に何かあれば公の下に秘密を晒すと。

それが、屋敷の残留思念【レコード】から読み取れた事らしい。

スッと男が立ち上がると、空を見上げた。

「次で最後の場所だね。」

俺は次の場所が何処かは薄々気付いていた。


 見晴らしのいい土手に出た。

あの風景画と同じ風景だった。

「依頼者は誰だ?」

男はキョトンしたが、すぐに薄ら笑いを浮かべた。

「君の兄だよ。」

「・・・そうか。」

男は事の経緯を話し始めた。

兄は実の母と弟が違う場所で住んでいると、死に際の父から聞かされた事。

今まで母親だと思っていた人が、父の死後、自分の実の母と弟を殺すよう執事の男性に命令していた事。

育ての母に対しての愛情、実の母と弟に対しての複雑な気持ちをすべて考え抜き、財閥の次期代表としての道を選んだ事。

実の母は事故で既に亡くなっていた事は計算外だったが、弟は生きている事を知り、遺産を諦めるならそのまま放っておくように育ての母と交渉したらしい。

その結果、俺は遺産放棄を突っぱねたのだ。

せめて最期にと、兄は知らない父と母の今迄の記憶も見せるようにとこの男に託したのだった。

「あとどのくらいなんだ?」

男は薄ら笑いを崩さずに言う。

「もう長くないよ。」

「路地裏の時には既に死んでいたんだな。」

「いかにも。」

「なぜわざわざ屋敷やこの風景を見る必要があったんだ?」

ふと疑問に思ったので聞いてみた。

「それは実際に【レコード】を集めるのが目的だからね。」

男の言っている意味がわからなかった。

「俺の記憶は集める必要は無かったじゃないか?」

不敵な笑みに変わる

「君の【レコード】は集める必要が有ったのだよ。」

そう言って銀色の鍵の様な物を取り出した。

「これは本来見せびらかす事はしないが、今回は特別だね。」

男は鍵について語る。

「この鍵で開ける事ができるのは、生きていた頃の記憶そのもの。自分では思い出せない様な、幼い頃の記憶もね。」

記憶を開ける代わりに、代償として残りの命が無くなる事。

既に亡くなっている人間の記憶は、鮮明には読み取れない事。

「あの屋敷には、幾人もの記憶が有ったからね。」

少しだけ疲れた素振りを見せる男は、全ての記憶を合わせ、真相を話したのだと言う。

「さあ、最後の【レコード】を開こうか。」

風景画に鍵をかざす。

「ああ。」

光の中には母の姿が見える。

俺は母にすがり付き、泣き、そして最期に謝った。

そのまま記憶が薄れて行った。


 目が覚めると病室だった。

「君は運が良い。」

白いネクタイと、銀色のネクタイピンが目に止まった。

「俺は、死んだんじゃ?」

「確かに一度死んだね。いわゆる仮死状態って奴だね。」

胸元が痛むので、見てみるとそこには包帯がぐるぐると巻いてある。

途中で医者が部屋に入って来て、少しばかりの診察を受けた。

一週間ほどで、退院しても言いそうだ。

「君の遺産についてだが、僕が放棄の手続きを代行しておいたよ。」

「ああ、構わないさ。」

両親の思いは分かったし、何より最後に母に会うことができた。

「ただ、残念だね。」

そう言って男は請求書を広げる。

「ここまで運んだ分の料金を頂くまでは、死んでもらっては困るからね。」

そう言って笑う男の顔は、本当に心から笑っているようだった。

このあと、毎日請求と言う名目で、男がお見舞いに来たのは、また別のお話。

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