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恋の花し  作者: 犬犬太
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翌月初め、もう秋も終わりに近づき色付いた木々の葉が散り始める頃。榊を買う為にいつも通りに花屋へ向かう。この間向けられた硬い笑顔を思い出し、寂しい気持ちになりながら店の扉を開いた。

「いらっしゃいませ」

想像とは違い、俺に向けられる満面の笑み。扉の開く音で反射的に出たのかと思ったけれど、その笑顔が強ばる事はなく、むしろ俺と話すたび柔らかくなっていく。いつもの様に少し花を眺めていっても良いかと訊ねると、これまたいつもの様にごゆっくりどうぞと返ってきた。店員の様子はいたって普通で、むしろ俺の方が挙動不審だったかもしれない。

店内にディスプレイされた完成品のアレンジメントや寄せ植えされた鉢物を眺め、時間を過ごす。合い間に店員の方を振り返ると、機嫌良さそうに花の手入れをしていた。

この間のぎこちない様子や硬い表情はなんだったのだろうか。それとも、今の様子が作られた物なのか。

手に榊を持ちレジへと向かう。瞬間、店員の目が伏せられたことに、俺は 一抹の寂しさを覚える。それでも、いつもの様に繰り返されるやり取りにほんの少しの寂しさは薄れてしまう。互いににこりと笑って、俺は店を後にする。残る違和感は見ないふりで、もう一度笑ってくれた事を喜ぼう。


金曜日もいつもと変わらない。仏花を買うため花屋へ行くと笑顔が待っていた。そして、この間の様に何も言わずに花を選ぶことは無かった。今日はどのマムが良いとか、珍しい色なんですよとか、以前までと変わらない様子で相手される。すすめられた花を中心に色のバランスをとって組み花を作ってもらう。これまたいつも通り、こんな感じでどうですか、と掲げで見せてくれた。

ここ最近の違和感は一体何だったのかと訊きたくなるくらい、以前と同じのまさにいつも通り。

それでもどこかに感じる違和感は、俺が気にしすぎなのか。やっぱり会計時に伏せられた目に寂しくなる。そしてまた俺は、その違和感に目を瞑り笑顔で店を出た。もちろん俺が笑顔を向けた相手も優しい笑顔をしていた。


月の第二週目の火曜日、一輪挿し用の花を買いに花屋へ。

この火曜日という日は、月曜日に休みの飲食店が多いからか、俺以外の客によく会う。そして、少し早めに行くとあの人がアレンジメントを作る姿や持ち込みの花器に花を生ける姿を見ることが出来た。真剣な表情だか、楽しそうな様子も伺える。花を手入れする時とはまた違った雰囲気をまとっている。ついその横顔に見惚れてしまう。

俺以外の客がいなくなり、注文品を作り終えたのを見計らい俺は一輪の花を手に取る。花の名はリンドウ、花言葉は「さびしい愛情」。筒状の花が縦に並んだ紫の花で、そういえば、白いリンドウをお盆の時に仏花に入れてもらったなと思い出す。店員に花言葉を訊くことはしなかった。けれど、その人の表情で花言葉を知っているのだと分かった。でも、その顔にはここ最近見せる寂しさ以外の何かを思わせた。

この人はきっと、店で扱う花の花言葉、特に愛や恋に関するものを全て覚えているのではないだろうか。そもそも、以前チューリップの花束を作った時、迷う事なく愛を告げる花を選んだのだ。花を誰かに贈る時、花に意味を求めるのなら、ほとんどの人が親愛の気持ちを贈りたいだろう。でも、俺が花言葉を訊ねる時はいつも図鑑を開いていた。チューリップの事もある、たまたま知らなかったなんていえない。だからもう訊かない。ただ、心の中で想うだけ。あなたのその寂しそうな姿はどうしてなのか、あなたが寂しそうだと俺も寂しくなると。


いつも読んでいただきありがとうございます。

少しでも楽しんで頂ければ幸いです。


感想、レビュー、いつでもおまちしております。


これからもよろしくお願いします。

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