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アレンジメント教室が終わり、さり気なく店員と二人きりになりたくて片付けの手伝いを申し出る。夕方近くに終わった教室は、店の開店準備や夕飯の準備などのある他の参加者たちが既に帰った後で、必然と俺と店員の二人になれた。
「今日はどうでしたか」
店員が床を掃きながら尋ねてきた。せっかくの教室なのに全然教えて差し上げられませんでしたけど、と少し申し訳なさそうにする。俺としては店員に俺の気持ちを伝えるためにアレンジを作って贈りたい気持ちもあったので、返って良かった気もするが。
「フラワーアレンジがこんなに難しい物だとは思いませんでした」
あなたがいつも簡単そうに作ってるのしか見たことなかったので。笑って言うと、慣れてるだけですよ、と照れくさそうに笑顔を見せる。そして、でも、初めてには思えないくらい綺麗です、なんて言いながら改めて俺の作ったアレンジをまじまじと眺めている。
「あの、良かったらそれ・・・貰ってくれませんか」
この時の俺は、きっと今までに無いくらい表情が硬くて怖いくらいだったと思う。店員は俺の顔を見て不思議そうな顔をするも、すぐにいつもの笑顔になって、ありがとうございます、嬉しいです、と受け取ってくれた。
結局、送った花の真意を伝える事は出来ないまま、その後は黙々と二人で片付けをし、一通り綺麗になった所で一息を吐いた。冬の夕暮れは早く、辺りはもう暗くなっている。良ければ夕飯でもと、店員からの嬉しい申し出に気持ちを伝えるチャンスを得たとばかりに、俺は力いっぱい頷き、花屋と共に公民館を後にした。
歓楽街へ戻り、二人でいつもの飲み屋へと並んで歩く。花を贈った後のせいか、いつもより緊張してしまう。そんな俺の姿に違和感を感じたのか、花屋が心配そうに俺を気遣ってくれる。お疲れなら今日は帰りますか、と問われ、まだ気持ちを伝えることの出来ていない俺は慌てて首を横に振る。ここで帰ってしまってはきっと一生気持ちを伝えられないかもしれない。大丈夫だと伝え何としても夕飯を共にしなければならない。俺のあまりの気迫に店員は驚いたような顔をした後すぐに噴き出すように笑う。
「じゃあ、行きましょうか」
飲み屋の暖簾を潜り、適当な席に座り適当に注文をする。もちろん俺は烏龍茶で店員は芋焼酎を頼む。たわいもない会話、今日のフラワーアレンジメント教室の感想や今度作ってみたいアレンジの話。本当に伝えたいと思っていることとは全く関係の無い話題ばかり話していた。
そろそろお開きにしようと、二人で揃って店を出る。少し寒いと思えば、空からはちらちらと雪が降っていた。
「これから帰ってまた今日の片付けですよね」
お疲れ様です、と店員を労うと、準備よりは楽ですよとにっこりと返される。まだ伝えなければならない事を伝えていない俺は、良かったらお手伝いさせてください、なんて勢いでつい言ってしまう。すると、店員もきっと疲れていたのだろう、嬉しそうに笑ってそれじゃあお言葉に甘えますね、なんて言ってくれた。雪のちらつく歓楽街を並んで歩く。コートの袖からちらちらと見える手を握れたらと思いながら花屋への道を行く。
花屋へ着くと、早速二人で片付けに取り掛かる。とはいえ、俺は店員の言いなりに動くしか出来ないので、手伝いになっているのかすら怪しい気もするのだが。一応二人でやったおかげか、それなりの早さで片付けも終わり、店員がこれまた恒例のようにハーブティーを淹れてくれる。冷えた体と手にハーブティーがじわりと染み渡っていくのが心地好い。ほっと一息吐くと、店員から改めてお礼を言われる。正直、下心でしか動いていないため改めて礼を言われるようなことは何一つしていない。少々戸惑っていると、
「花、嬉しかったです」
と、俺の贈った花への礼だと分かった。
「花屋なんてやってると、プレゼントで花を貰うことも無いですから」
凄く嬉しかった、そう言って俺が贈ったアレンジを嬉しそうに眺めてくれる。
多分、今が俺の気持ちを伝える時だろう。ここを逃せばきっとチャンスはもう無い。俺は勢いよくハーブティーを飲み干し、一気に捲し立てる。
「あの、その花達は俺の気持です・・・嫌なら捨ててください」
お茶、ご馳走様でした。そう言って一礼すると、俺は一目散に逃げ出すように花屋から出て行った。花屋を出た後も、しばらく緊張が治まらず、歓楽街を駆け抜けるようにして家まで走り抜ける。普段ろくに運動もしない三十路男が思い切り走ったせいなのか、告白なんてものをしたせいか、心臓の動悸が痛いくらいに止まらない。震える手でなんとか鍵を開け家の中へ入ると、靴を無理やり足から脱ぎ捨て廊下に倒れ込む。寒いはずの家の中なのに、未だに解けない緊張で寒さを感じない。あの花達は俺の気持ちだと伝えた。けれど、あの人に愛の告白だと伝わっただろうか。白のトルコキキョウには「良い語らい」、オレンジのスプレーバラには「信頼」、そして、スプレーマムには「謙遜」なんて意味の花言葉もある。ただの友情か、教室のお礼だと取られる可能性の方が高いかも知れない。少しずつ冷静さを取り戻してきた頭と心に不安が生まれてくる。せめて、すっぱりと振られてしまうならまだ諦めも付くというもの。だが、贈った花の意味を取り違えられて、これからも友人として対されるのは辛いかもしれない。
きちんと言葉にして伝えるべきだった。しかし、この歳になるまでまともに人と関わるようなことをあまりしてこなかった俺にとって、花を贈ることだけでも精一杯の告白だったのだ。とりあえず、根性無しな俺はしばらく様子見をしようと決めて、素知らぬ振りで次の金曜日に仏花を買いに行くことにしようと決めた。
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