22
お節があるからと、結局花屋で飲む事にした俺たちは、参道に軒を連ねる屋台で酒のつまみになりそうな物をいくつか買い込み、花屋への道を歩く。年始の歓楽街はいつもとは違い、一部の店舗を除き静かなままだ。いつものきらびやかな看板の光が無いだけで少し寂しく見える。
花屋へ着くと、父上殿と母上殿もまだ起きていたようで、突然お邪魔した俺も笑顔で迎え新年の挨拶をしてくれる。せっかくだから皆で飲もうと、店員と母上殿は俺を居間に通すと手際良くお節と酒の用意をする。俺もそれに習うように、買ってきたつまみを広げていく。
「明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします」
改めて新年の挨拶をし、皆で乾杯をする。目の前に広がる正月の光景に、こういうのはいつぶりだっただろうかと、お節をつまみながら考えた。全体的に甘みを抑えた味付けが、俺好みで酒によく合った。懐かしいな、とそして、今こうして好きな人の側に居られるのは幸せだと思ってちびちびと熱燗を舐めていると店員が急に慌てだし、父上殿と母上殿が驚いたような顔をする。
「大丈夫ですか」
ティッシュペーパーを目の前に差し出され、初めて目から暖かいものが零れていることに気が付いた。どうやら亡き父母を思い出し、俺は泣いていたようだ。
「大丈夫です」
死んだ両親を思い出しただけですから、と涙を拭いて笑ってみせると三人はほっとしたように笑顔を見せてくれる。そうだったの、と母上殿は言って、またいつでも遊びに来て良いのよ、と言ってくれる。父上殿も横で頷き、盃を傾けた。
しばらくして、父上殿と母上殿がもう寝ると言って、店員と二人きりになった。俺もそろそろお暇しようかと思ったが、泊まっていけという父上殿の一言で酒盛りの続きが決まった。
「さっきはびっくりしました」
急に泣きだしちゃったから、何か気に触ることしたかと思って心配しました、と店員が話す。俺は心配をかけて申し訳ないと謝り、多分あれは懐かしかったのと、嬉しかったのが混ざった涙だと伝えた。
「嬉しかったんですか」
店員がほっとしたうな顔でこちらを見るので、はい、と、そしてあらためて、嬉しかったんです、と伝えた。店員は俺の言葉に喜んだのか、どこか機嫌良さそうにグラスを煽る。店員が初め飲んでいた熱燗はいつの間にかいつものように芋焼酎に変わっている。俺はチャンポンなんてした日には目も当てられない状態になるのが分かっているので、相変わらず日本酒を舐めている。熱燗は燗にするのが面倒なので止めたけれど。
「誰かと過ごす正月は久し振りだったから」
にこりと笑う俺を見て店員は一瞬はっとしたような顔をした。しかし、すぐに俺の好きな笑顔を見せて、それじゃあ次は節分でもしましょう、と笑った。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
楽しんで頂いていると幸いです。
次回もよろしくお願いします。




