表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋の花し  作者: 犬犬太
21/33

21

結局、夜はあまり眠れなかった。そのせいでうっかりうたた寝をして、危うく待ち合わせに遅れそうになる所だった。

ばたばたと慌てて準備をする。クリスマスに着たジャケットは出来れば避けたい。クリーニングから戻ってそのままにしてあったシャツとジャケットをクロゼットから取り出す。パンツはチノを合わせ、クリスマスの時よりはきちんとした格好を選ぶ。それぞれを身に着け、鏡の前で軽く髪をセットする。ま、無難なところだろう。

外出の準備をすっかり整え、戸締りをして花屋へと急いだ。

花屋へ着くと、店員も外出の用意は万全で、その姿で店頭に立っていた。お父上とお客と話をしているようで所々相槌を打っている。お客もいる事だし、少しこのまま外で待とうと近くの電柱によし掛かり、店内を眺めていた。

俺以外の人間に向ける笑顔をやらやらとした気分で見ながらも、俺に見せる表情とはなんだか違和感を感じた。少し穏やかというか、大人しいというか、とにかく違うように見える。

ぼんやり見つめていると、視線に気がついたのか店員がこちらに振り向いた。そのとたん、いつも見せるふにゃりとした満面の笑みが向けられる。

お父上殿とお客に二言、三言何か告げると俺の方へと向かってくる。扉を開き、お待たせしましたと、少し申し訳なさそうに言う。寒かったでしょうと。

「大丈夫ですよ。行きましょうか」

また、二人で出掛けられることが嬉しくてにこにことしながら話す。今回も店員のおすすめの店へ連れて行ってくれるらしい。

大晦日の夜という事もあり、いつもよりも人通りが多い。目当ては俺達と同じだろう、年越しそばと初詣。この歓楽街の辺りは老舗の料理屋や知る人ぞ知る旨い料理屋も並んでいる。しかも、そこからほど近い場所に観光地としても有名な神社がある。大晦日にはもってこいの場所だ。

店員はこの人混みを楽しむようにゆっくりと歩く。その横に並ぶように歩きながら、今から行くそば屋の話などとりとめのないことを話す。店員の足は歓楽街から横に入った細い路地へと向かう。少し行くと、醤油と出汁の旨そうな香りがしてきた。

変体仮名でそばと書かれた暖簾をくぐると奥に伸びた店内は手前から四人掛のテーブルが三つ、さらに奥に六人掛のテーブルが一つの狭い店内で、入口の横にある空間で調理をしているようだ。

空いているのは六人掛のテーブルだけで、それも相席。どうやら相手は花屋の店員とは顔見知りらしく、快く空いている席を勧めてくれた。話を聞く限りでは、以前一緒に行った飲み屋の常連仲間のようだ。

天ぷらそばを二つ頼み、暖かいお茶でほっと一息つく頃には店の外で行列が出来始めていた。

そばが出来上がるまでの間、俺達はすでに次の行事の話に花を咲かせる。実は、初詣などに興味の無かった俺は、今までほとんど初詣へ出掛けたことが無く、大晦日の神社がどのような感じなのか想像もつかない。そのことを話すと、花屋は楽しそうに色々と教えてくれた。

神社のある通りから本殿までの参道にはたくさんの屋台が並び、参拝客で賑わうらしい。花屋は毎年、商売繁盛を祈願しに近所の友人達などと詣でているらしい。そうして、おみくじを引き、後は適当に屋台を楽しむようだ。

「今年は俺と一緒で良かったんですか」

もし、一緒に行きたい人がこの人に居たのなら・・・。俺はさり気なさを装いながら、内心どきどきしながら尋ねてみる。

「友人と言っても商店街の集まりみたいなものですから」

大丈夫です。むしろ、誘ってもらえて嬉しかったです。なんて、天にも昇ってしまいそうなほど嬉しい言葉をくれる。心の中でガッツポーズを決めながら、じゃあおすすめの屋台とか教えてくださいねと、二人きりで楽しむ予定を立てた。

目の前に置かれたそばは、花屋のおすすめ通りとても旨かった。ここいらのそば屋らしく、麺は田舎そばでそばの香りが口の中で広がる。暖かいそばが体を温めてくれた頃、店の中も外も人で混雑していたため二人して早々に店を出ることにした。

初詣をするには少し早いかとも思ったが、道すがら二人で屋台を眺めつつ、帰りに買って帰って酒でも飲もうと盛り上がる。そのためにも、どの屋台で何を買うか二人して真剣に相談しながらゆっくりと神社へと歩みを進めた。

神社の参道はすでに多くの人で賑わっていて、御神酒や甘酒を配るテントまで出ている。

二人で手水舎で手を清め、少しずつ進む参拝客たちの列に並ぶ。ゆっくりと進みながら二人で子供の頃の新年の誓いのことや、書き初めについてなどの話で盛り上がる。俺が実は書道を習っていたとか、店員が新年の誓いは元旦しか実行されないとか。歳は違っても似たような正月の過ごし方をしていたみたいだ。

賽銭箱の前へ二人並んでたどり着く頃にはすでに年をまたぎ、二人で新年の挨拶を終えていた。二礼二拍手一礼で願い事を心の中で唱えた。


この恋が上手くいかないまでも、今のこの関係まで失いませんように。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

楽しんで頂いていると幸いです。


次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ