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あの人の寂しそうな顔が気になり、初詣に誘うのをうっかり忘れていた事に店を出てからしばらくして気が付いた。慌てて花屋への道を引き返す。軽く走ってしまったせいで息が上がり、その勢いのまま花屋の扉を押し開いた。驚いた表情で店員がこちらにやって来る。
「大丈夫ですか。何かありましたか」
ぜいぜいと、体全体で思い切り息をする俺の背をさすってくれる。水でもどうかと勧められるが、声を出すことが出来ず、ただただ首を振る俺を急かすことなく椅子を勧めてくれる。呼吸が次第に整い、ありがとうと息も切れ切れに礼を述べるとにこりと笑顔が返ってくる。
「よかっ、たら・・・初詣、一緒、に・・・」
そうして、完全には整わない呼吸のまま勢いで初詣に誘う。本当ならもう少しスマートに誘いたかった。こんな、呼吸もままならないような状態では何を言っているのかも伝わっていないかもしれない。息を整えながら店員の表情を見上げると、一瞬きょとんとした顔を見せた後、一気に破顔する。
「はい」
誘ってもらえて嬉しいですと、そして、約束守ってくれたんですねと、言われた。
約束。クリスマスにした、今度は俺から誘うという約束。この人も覚えてくれていた。その事だけでも嬉しいのに、初詣も一緒に行けるのか。目の前の笑顔に釣られるように、喜びでいっぱいの俺も笑顔がこぼれる。
「そうだ、良かったら大晦日、明日ですが、夜に年越し蕎麦を一緒に食べませんか」
思いがけず棚ぼたな誘いが、店員から掛けられる。と言っても、すぐそこの蕎麦屋で食べるだけですけど、と頬をかく仕草が可愛い。
「じゃあ、蕎麦を食べてから初詣に行きましょう」
店員の提案に笑顔で答えると、はい、と笑顔が返ってきた。
結局、それからしばらく明日の予定について二人で相談し、またお茶をご馳走になった。
ああ、今から楽しみで仕方ない。俺、今日は興奮して眠れないかもしれない。
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