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適度に雑多な店内はクリスマスには少々不釣り合いな雰囲気ではあるが、この近辺の商店街の酒好きの常連たちや店員には心休まる場所なのだろう。みんな一様にリラックスし、明日への英気を養うように飲み明かしている。もちろん、その場に若いカップルなどは見当たりはしないが。
花屋は勝手知ったるなんとやらで、空いている四人掛けのテーブル席を選び俺を案内してくれる。飲み物はやっぱり芋焼酎のお湯割りで、俺は極力薄めに作ってもらうように頼む。以前初めて飲んでみて、味は嫌いじゃなかった。あの独特の香りと甘みがくせになる。ついでにお湯割りなら多少だがアルコールも飛んで飲みやすい。俺とは明らかに濃度の違う焼酎を片手に店員がグラスを掲げてくれたので、そっと俺はグラスを合わせる。
「乾杯」
二人の声が重なり、グラスの中身を一口煽るとかっとアルコールが体内を走り回る感じがした。
つまみは適当に頼んでもらい、突き出しの切り干し大根を肴にちびりちびりと焼酎を飲みながら二人でたわいもない話をした。お互いの仕事の話、好きな食べ物や本の話。日常の些細な出来事を話しているだけなのに、話が尽きることがない。花屋の話を聞いているだけでとても楽しいし、話し下手な俺の話を嬉しそうに相槌を打ちながら聞いてくれるのも嬉しかった。
俺はこの間のように飲みすぎることもなく、適度にほろ酔い加減で楽しい時間を過ごすことが出来た。花屋も同じように思ってくれていると良いな。もし思っていてくれたら、次は俺から誘いたい。
居酒屋を出て、生花店への道を二人並んで歩きながら話す。
「今日は誘ってくれてありがとうございました。とても、楽しかった」
自分も楽しかったと、店員は笑ってくれる。これなら大丈夫だろうか。歩きながらも尽きない会話にあっという間に店の前まで来てしまう。寂しい気持ちが湧き上がるのと同時に次を期待してしまう。二人して、なんだか名残惜しいのか、店の前で二人で向き合い話しを続ける。ふとした瞬間に会話が途切れ、無言の時間が流れた。誘うなら今しかないだろう。気持ちを落ち着かせ言葉を選ぶ。
「あの・・・、次は、俺から誘っても良いですか」
緊張する俺ににこやかな笑顔が向けられる。
「はい。誘ってもらえるの楽しみにしてます」
その言葉に嬉しくて顔が自然とにやけそうになる。照れ隠しにコートのポケットに手を入れると、プレゼントにとコンビニで買った箱に触れた。せっかくのクリスマス。一緒に過ごすという最高のプレゼントに、次は俺から誘うと約束もできた。こんな物でもお返しがしたい。
「これ、良かったら。たいした物じゃ無いけど・・・」
プレゼントです、と袋から出した箱を差し出した。店員は少し驚いたような表情の後すぐに、ありがとうございます、すごく嬉しいです、とたかだかコンビニで買っただけのお菓子を抱きしめて喜んでくれた。その姿に嬉しさ半分、申し訳なさ半分になる。
喜ぶ姿をかわいいなと思っていると、良かったらお茶でもと言って俺の袖口を引っ張り裏口から店内へと連れていかれた。薄明かりでいつもとは違う様子の店内のせいか、花の香りがいつもより強いように感じる。そんな店内をいつもの様にふらりふらりと眺めて歩く。しばらく花を見ていると、いつの間にお茶を入れたのかあの人がお茶の入ったカップを持ってやってくる。作業台の方へ行くと椅子が二つ並べて置かれる。二人並んで椅子に腰掛け温かいお茶を飲む。まだ話足りなかった様に二人して話し込む。ふと一息ついた時
、実は、と店員が立ち上がる。習って立つとフラワーキーパーの方へ向かった。キーパーを開き中から小さめの花束のような物が取り出される。店を出る前に作っていた物だ。
「さっき作ったんです。プレゼント、貰ってください」
スタンディングブーケです、と言って差し出された。見ると、開ききっていない赤いバラに白いガーベラ、緑のピンポンマム、そして、グリーンにアイビーが使われている。どうやら吸水スポンジを土台にしてそのまま立てて置いて飾ることが出来るようにされているようだ。
「こんなに素敵なもの、わざわざ作ってくれたんですか」
両手でそっと受け取り、ありがとうと、精いっぱいの気持ちを込めてお礼を言った。
クリスマスカラーのブーケ、花言葉に意味は無いと分かっていても、赤いバラについ意味を求めたくなってしまった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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