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ダメだ、このままでは本当に亡き両親の前でケーキをひとり寂しくつつく事になる。
もういくしかないんだ。いつもよりほんの少しばかり仕立ての良い服を選んで着替える。とはいえ、コートの下のジャケットがいつもより良いだけで、あとはいつも通りシャツとジーンズといった服装。あまり気張って断られでもしたら立ち直れない。
クリスマスの今日はきっといつもより客が多いはず。歓楽街がにぎわいを見せ、花屋の客脚が途切れる頃合いを見計らい、ゆっくりと家を出た。
外は暗く、かなり寒い。吐く息は白く、澄んだ空気に身が引き締まり、気持ちも引き締まった。
明るい店内を覗くと今はあの人一人きりで、いつもの様に花の手入れをしている。
『 店が終わったら飲みに行きませんか』
心の中で何度も同じ言葉を繰り返し練習する。自分の頬を両手で叩き、もう後が無いぞと気合いを入れ、一つ深呼吸をしてから扉を開いた。
「いらっしゃいませ」
言いながら振り向くあの人の笑顔が驚いたような顔になる。しかしそれもほんの一瞬で、ぱっと花が咲いたような笑顔に変わる。いらっしゃいませ、とあらためて言って側へ来てくれる。
「似合いますね、その服」
店員はクリスマスだからだろう、上半身と頭上にサンタの衣装を付けた姿で、それを褒めると恥ずかしいから言わないでくださいと顔を手で隠す。ちなみに父上殿はトナカイらしい。
クリスマスブッシュを買って、『 店が終わったら飲みに行きませんか』と誘う。ただそれだけ。なのになかなか出来ずに店内をあてもなく店員と雑談しながら見て回る。
クリスマス用の花たちの一画にはすでに正月用の飾りや松なども売り出されている。こういうのも買いに来たら会う回数が増やせるな、などとこの後の約束も取り付けられていないのに考える。
どうやって言い出そうかと考え、二人の間に沈黙が流れた。
「良かったら、今日・・・飲みに行きませんか」
語尾が消えそうな声で、ずっと、ずっと俺が言いたかったことを店員が口にする。あまりの出来事に口が動かず、はい、と返事したいのに声が出ない。そんな俺の態度に、ごめんなさい、忙しいですよね、と店員が言って頭を下げる。その姿をみてやっと動いた口で慌てて返事をした。
「いや・・・その、すいません。俺が言いたかったことを先に言われたんで、なんて返事したら良いのかとっさに思いつかなくて」
俺と一緒に飲みに行ってください。そう言って俺は必死に頭を下げた。
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