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火曜日、今日こそクリスマスに食事でもどうですかと誘うんだ。花屋の扉を心持ち強く押し開き店内へ。いらっしゃいませのたった一言で、その笑顔一つで、俺の誓いは脆くも崩れさった。この声と笑顔を失いたくないと、頭も体も心も言っている。
それでも何とか嫌がる気持ちに喝を入れ、少し落ち着こうとふらふらと店内を見て回る。相変わらず丁寧に手入れされた花々に、心が安らぎ、それと同時にあの人に大切にされている花たちに軽い嫉妬を覚える。お前達は良いね、あの人に愛されて。心の中で花たちを眺めながらつぶやいた。そして、花にまで嫉妬するほどあの人が好きなんだとあらためて自覚して、クリスマスをどうしても一緒に過ごしたいと気合が入った。
今日はエリンジウム。花言葉は「秘めた愛」。小さな花がボール状になって集まり、そのボールがスプレー咲きになっている花だ。花を片手にあの人の元へ。この間一緒に酒を飲み、少し距離が近づいたところでまた、こんな花言葉の花を選んでは嫌がられるかもしれない。それでも、やめてくれと言われるまでは続けたい。
花を手渡し包んでもらい、会計を済ます。店員の表情は少し俯きがちのためか、よく分からない。どことなく気落ちしている様にも見えるし、今日は目もあまり合わせてくれないようだから、クリスマスの誘いは次回にしよう。断られるのが怖いわけじゃないぞと、自分に言い訳しながら店を出た。
そして金曜日。今日こそと、また意気込み店の扉を開く。それでもやっぱり、あの笑顔を見てしまうと覚悟がゆらゆらと揺れてしまう。仏花片手にクリスマスを一緒に過ごそうとも言えない、などと心の中での言い訳だけは上手くなる。そんな自分にため息つきながら店員を見ると、にこにこと楽しそうに菊の花を選んでいる。隣に立つとにこりと笑って、どれがいいですかね、なんて笑顔が向けられる。
「先週はこの色だったから、今週はこれなんてどうですか」
良いですね、なんて無難に返事をしても内心ではすごく嬉しかった。仏花なんて買う客が俺だけで、自分で選んで組んだ花だとしても、先週買った花の色をわざわざ覚えていてくれた事がすごく嬉しかった。
そうして俺はものすごく幸せな気分で店を後にしていた。
気が付けばもう十二月。早く誘わないと、あの人が誰かに取られてしまう前に。
今月の一日は木曜日、翌日の金曜日に仏花を買うことにすれば二日連続で会える。そうだ、まだチャンスはあるんだ。落ち着いて、言葉を選んで、せめて断られても嫌われないように。
これももう何度目か、気合いを入れて扉を開く。まるでデジャブのような気分で、違うのは手に持つ草花だけ。ついでに、やっぱり誘う勇気が出ずに店内を見て回るところも同じだった。
そうこうする間にあれよあれよと時だけは過ぎ、翌日の仏花、翌週の仏花、第二火曜日のアネモネ、その週の仏花、そして前日の二十三日も仏花を買うだけで終わっていった。誘えず終いで残るは明日、クリスマス当日の二十四日のクリスマスブッシュのみとなった。ちなみにアネモネはクリスマスの誘いに乗ってもらえることを期待して選んだもので、花言葉は「期待」。茎がゆるくくねった花で、一重咲きや八重咲きの物がある。今回は一重咲きの物を買った。
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