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金曜日、いつものように、いやいつもより少々意気込んで花屋へ赴いた。歓楽街が活気付き、花屋の店内が少し静かになる頃。今日はちょうどホスト相手に接客中で花束を作っているようだった。相手のホストはここの常連なのだろう、店員と気安く話をしているようで店員の方も慣れ親しんだ様子だ。
俺に向ける顔と違って見えてしまい、少し、店内に入りにくい雰囲気を感じてしまう。どうしようかと覗いていると、店員の顔がこちらを向いた瞬間に目が合ってしまった。しまったと思うより早く、店員が笑顔で入って来いと手招きしてくれる。そろりと扉を開け中へ入ると、いらっしゃいませと声がかかる。覗いていたのがバレてしまいばつが悪い思いをしながら、軽く頭を下げ、いつもの様に店内を見て回ることにした。さすがに十一月も半ばを過ぎた頃だけあって、クリスマス向けの商品が並び始めている。
ポインセチアにプリンセチア、クリスマスローズ、シクラメン、それにシャコバサボテン。鉢物が多いのはなぜだろうか。そのほかにも、リースに小さめのツリーやオーナメント、鉢植えやアレンジメントに刺すクリスマスらしい飾りもある。普段と変わらない店内の一画だけがクリスマス仕様になりいつもよりさらに華やかだ。
もちろんクリスマスに購入予定のクリスマスブッシュもそこに切花として置いてある。ほかにも赤、白、ピンクを中心にした様々な種類のバラやガーベラもこちらに移動されている。それからグリーン、いわゆる葉物もある。どれもクリスマスに好まれる色合いだ。これまでの俺には縁のなかった、と言うより興味の持てなかった物たち。それが今では、あの店員に出会ってから、まだ十一月だというのにどう誘おうかとそわそわする始末。これまでの淡白すぎた俺を振り返り、両親が亡くなってから、いや、それよりも前からだったかもしれない。今更ながら、亡き両親と過去の恋人や友人に申し訳ないことをしていたなと思う。
もし、あの人に断られても今までの反省も込めて少しくらいはクリスマスらしいことをしよう。寂しいとは思うが、仏壇の前でせめて両親と過ごそう。花と、あまり得意ではないから小さめのケーキ、後は適当に惣菜と酒でも用意して。
だめだ、断られる前提で考えてどうする。とにかく、誘うことを、クリスマスの予定を訊かないと。
うだうだ考えている間にもお客のホストとあの人の会話が聞こえてくる。その会話の中にクリスマスという単語が混じる。そっと気が付かれない様に耳をそば立て、花を眺める素振りで二人の会話に集中する。
「店員さんはクリスマスも店に出るの」
「そうですね、クリスマスはギフトで忙しくなりますから。家族総出でアレンジや花束作って配達ですね」
ホストの質問に店員が丁寧に答えている。
「良かったら、ギフトの予約受付中ですよ」
ふふっと笑って、営業も抜かりなく行うところがあの人らしい。
「店長とクリスマス用と年始の飾り花相談してからなるべく早目に注文に来ますよ」
ホストも慣れたように返答する。やはりここいらの店の花はほとんどこの店が扱っているようだ。
「で、閉店後の予定はどうなの。恋人とデートでもしないの」
ホストがニヤニヤとあの人を見る。俺としては自分で訊かなくても良くなったことに、内心でホストに賛辞を贈った。
「デートなんて、そ、そんな相手も予定も無いですよ」
あわあわと、花を持たない手を振り首を振り否定をするが、その顔はほんのり赤い。やっぱり、好きな人とか居るんだろうな。店員の様子を盗み見て肩を落とす。
「でも、一緒に過ごしたい相手とか、実は居るんじゃないの」
ホストの言葉に店員は赤い顔のまま言葉を濁す。それでも花束を作る手に止まる気配はない。
「・・・それは、でも、相手の方も・・・きっと、迷惑です」
とぎれとぎれの言葉に胸が痛い。この人に、そんな風に思われる相手が憎い。それに、こんな言葉を聞いてしまったらとてもじゃないが簡単に誘えないじゃないか。
でも、クリスマスまではまだ一ヶ月はある。もしかしたら、あの人が一緒に過ごしたい相手と過ごせなくて、俺と過ごしてくれるかもしれないし。望みは最後まで捨てないようにしよう。
例えそれが、世界一薄いと言われる素材、グラフェンよりも薄かろうとも。
結局、俺はクリスマスの誘いをすることが出来ず、いつも通りに仏花を買って帰った。でもまだ時間はあるんだ。次の火曜日に花を一輪買って、そして誘おう。今度こそと、俺は固く心に誓った。
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