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目が覚めるとそこは見覚えは無いが、何となく匂いに覚えがある場所だった。酷く痛む頭を抱えなんとか体を起こし、ここへ至るまでの記憶を何とか探ろうとする。記憶には無いが、可能性としてあるのはたった一つで、あの人に迷惑をかけただろう事は分かった。早く謝らないとと思っていると、耳に心地好い声が聞こえて来た。
「おはようございます」
声のする方へ体ごと向くとすぐに、大丈夫ですか、お水飲みますか、薬の方がいいかな、とあの人が心配そうにぱたぱたと動き回る。俺が呆気にとられていると片手に水の入ったグラス、もう片手に胃薬を持ってやってくる。少し慌てたように渡される薬と水を飲み干すと、ほっとしたように笑ってくれた。
「おはようございます」
落ち着いてくれたのを見計らい、俺はやっとあいさつを返す。
「ご迷惑をおかけしたみたいで。すみません」
布団の上に正座で頭を下げると、目の前の人から慌てたような気配がする。頭を上げると、
「迷惑なんて、こちらこそすみませんでした。」
一緒に飲めるのが楽しくて飲ませすぎてしまった、なんて嬉しい言葉で謝られてしまう。俺も楽しくてついつい飲みすぎちゃったんです。今度からは気をつけるのでまた一緒に飲みに行きましょうねと笑うと、はいと言って笑ってくれた。
何だかんだと朝食までご馳走になってしまった。炊きたての白飯、味噌汁は大根、俺好みの甘く無い出し巻き卵にイワシのみりん干し。どれもこれもすごく美味い。いつも朝食なんて食べずにギリギリまで寝ている俺はこの時初めて、朝飯って大切なんだと感じた。まあ、それも目の前にいるこの人が作ってくれて、一緒に食べているからだと分かってはいるのだけれど。
しばらくして父上殿が朝食を食べにこられる。酔って潰れて泊めてもらい、朝飯まで頂いている状態に申し訳なくなる。
「昨晩は大変お世話になりました」
言って頭を下げると、父上殿は笑って、どうせこいつが周りを気にせず飲んだんだから気にするな、と店員を指さして笑ってくれる。見た目通りの豪快でおおらかな笑い方。見た目はあまり似てないのに雰囲気は親子なんだなと思わせられた。
朝食後お茶まで頂き、改めて仏花を組んでくれる。相変わらず菊だけで組まれたとは思えないほどの組み花が出来上がる。会計を済ませ花を受け取ると、店はまだ開店していないからと裏口から見送ってもらう。そこでいつもならありがとうございました、の言葉をもらう。しかし今日は違った。
「それじゃあ、また」
にこっと笑って手を振ってくれる。俺も慌てて手を振り、また、と笑った。
こんなこと今まで一度もなかった、昨日の事で少しは距離が縮まったと思って良いのだろうか。酒の残った気だるい体で人気もまばらな歓楽街を歩く。今までならこんな二日酔いの体は後悔しか生まない物だったのに、今はこの二日酔いが幸せの証のように感じられた。
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