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異世界転生 お師匠様と、魔法使い!  作者: 松本隆志
■第0部完結■~記憶~
32/43

ジーク・ザイフリート・シグルズ

私は15歳となった。この国では女性は16、男性は15で成人とされる。

私は成人を迎え、師弟より祝いの言葉を頂いた。


「おめでとう。スズキ・リョウイチ」


鈴木遼一? あぁ……私の事だった。そうだ、私は鈴木遼一。

グレッタ村で師匠に拾われて今に至る。そこからの記憶は鮮明に思い出せる。

だが、それ以前の記憶が曖昧で、思い出そうとすると頭が白くなり混沌としてくる。そのため、私は過去の記憶を積極的に思い出そうとはしなかった。

……この日が来るまでは。


胸騒ぎがするんだ。思い出せと、心の底から湧き上がる焦燥感が溢れてくる。

少年の記憶もはっきりと持っているが、なぜか違和感を覚える。

何かが違う、何かがおかしい、その何かが分からなかった。


村の人々は魔物に斬り殺された、目の前で……。


私の父さんと母さんと妹は、殺された。あれ? 誰に殺されたんだ……。

私に家族はいない、殺されたのだから……どこで?

それで私は床下の保存庫に隠れて、生き延びたんだ……何時?

だが、首を吊った記憶も持っている……前世の?


そして、その記憶は突然襲ってきた。

まるで、真実を隠す「何か」が壊れたかの様に。



頭が痛い、胸が苦しい……。

あの時の記憶が蘇り始める。

私が異世界に飛ばされて、目を覚ましたあの時を。


「「いいえ」「理想なのですね?」」


若い女性の声がする、子供の頃に聞いた声だ……いや、少し違うな。

私が前の肉体を持っていた時に聞いた言葉だ、言葉が少し変わっている気もする。

それで私は少年になって……頭が痛い。


「「成功しました」「自殺した事により」「呪いを受けました」」


あぁ、そうだ、私の前世は日本人だったんだ。

それで、気づいたらこの世界で目が覚めた。

そうだった、忘れていた。そうだったはずだ。でも違和感がある。

何故、今更思い出しているんだ……。


「「その子の姿と」「環境が貴方の」

「人生をお過ごしください」「では、新たな」」


頭が痛い、女性の声がする。こんな言葉だったか? 何かがおかしい。

あの頃は、混乱の中で焦っていたので深くは考えなかった。

そして師匠に拾われて、私は何もなかったかの様に人生を歩き出した。

なぜ今更、思い出すんだ。なぜ……体が動かないんだ。


―――何かが溢れてきた


「「では、新たな」魔石が完成したのですね?」

「ああ、お前の要望通りに作ってやった。だが、こんなモノを何に使う?」

「その子に埋め込み、実験したいのです」

「魔人に滅ぼされた一族にか……? 皮肉が過ぎる」


―――記憶が蘇る


「300年も眠らせて、破棄するよりはいいでしょう」

「復讐の可能性を作るつもりか?」

「昔に滅びた国の幼子に何ができると? 殆ど覚えてもいないでしょう」

「可能性の話だ」


―――よく分からない話をしている


「それで実験とは?」

「「その子の姿と」は相反する姿を持つ、架空の記憶を魔石に刻み込みます」

「それで?」


―――あぁ……私が眠っていた時に聞こえた会話だ。


「この架空の記憶は、「自殺した事により」人生を終える記憶となっています。

 その記憶を持った魔石を子供に埋めることによって、自身の記憶と架空の記憶、その両方を持つことになり、記憶の不一致から著しい混乱に陥るでしょう」


「だろうな……それで?」


「幼い子供であれば、柔軟な脳が記憶と記憶を都合のいい様に繋ぎ合わせ、

 混乱が収束していくはずです」

「ふむ、可能性は高いな」


「どこまでの記憶の差を脳が繋ぎ合わせられるのか、それが知りたいのです。

 相反する記憶だからこそ良いデータになるでしょう」

「データは何に使うのだ?」

「……息子のためです」


―――嫌な予感がする


「この世界には死んだ人間を完全に蘇らせる魔法はありません。

 人の願望により夢想された戯言に過ぎません」

「肉体は回復しても、死んだ脳細胞の記憶は元に戻らないからな」


―――何が言いたいんだ


「私は死んだ息子を生き返らせたかった。でも、このままでは無理です。

 それでも、忘れられないのです。息子と過ごした幸せな日々を……」


女は沈んでいくような暗い声色で言葉を紡いだ。

彼女は息子を愛し、忘れる事ができない愚かな女だった。


「300年前の事を、まだ引きずっているのか? 完全な蘇生は不可能だ、諦めろ」

「「いいえ」、諦めません。そのための新しい魔人の実験なのです」

「魔人は魔石で蘇生できるが、生前の記憶までは回復できないぞ」

「確かに、肉体・・では記憶や人格は回復できないでしょうね」


彼女の声色が強いものへと変わった。

決意や確信を持った人間が放つ気配を感じる。


「……まさか、魔石自体に息子の記憶と人格を?」

「その通りです」

「馬鹿がッ! そんな物は、お前の願望で作り出された架空の人格の息子でしかない。肉体は保存されている本物でも、中身が別物ではないか!!」


男は激昂した。その愚かな執着に、死んだ者を完全に蘇らせようとする願望に。

まるで、過去の愚かな自分に向けて放った言葉の様に……。


「オリジナルの記憶と人格しか認めない。それが貴方の「理想なのですね?」」

「当たり前だ! 己の解釈で作られた人格など、自分自信でしかない」

「それでも、それでも私は息子と暮らしたいのです」 

「……苦しみと後悔の呪いを背負うだけだぞ、私の様に」

「息子が死んだ時に、私はすでに「呪いを受けました」」


―――記憶、人格、まさか。


「……あれから、実験はどうなっている?」

「「成功しました」。

 記憶の混乱はありますが、辻褄が合うように記憶を解釈しますね」

「予想通りだな。だが、この実験は息子の蘇生に役立つのか?」


「はい。息子の肉体は死んで、ほとんどの記憶と人格は戻らない状態です。

そこに新しい魔石を埋め込むことで、私が作り出した記憶と人格を忠実に再現させます。しかし、息子の肉体にも脳は残っており、死んでいない脳細胞に記憶もあります。すると、記憶が刻まれた魔石との間で、情報の差異から混乱が生じます。

その差異を少なくし、記憶の辻褄を早急に合わせるための実験なのです」


「……なるほど。それで、此奴はどうする?」

「この子も哀れな境遇です。

 一人だけ生き残り、300年の眠りの末に実験体にされたのですから」

「生かすのか? ここの記憶を持ったままにはできんぞ」

「わかっています」


―――そうか、私は……。


「貴方の協力のお陰で息子が生き返るかもしれません。

 本当にありがとうございました」


彼女はそう言うと、魔石の影響で佇む少年の頭に手を乗せた。


「そして、ごめんなさい。救ったとはいえ、実験体にしてしまい。

 今から貴方に埋め込んだ魔石の力で、ここでの記憶は全て消します」


―――あぁ、せめて魔石は取って欲しいけど無理なのかな。


「魔石に刻まれた記憶は消せませんので辛いでしょうね。

 再び2つの記憶による混乱が起きますが、

 辻褄が合うように記憶が作られるはずです」


佇む少年は静かに彼女の声を聞いている。


「いずれ、新しい「環境が貴方の」記憶を安定させるでしょう。もしかしたら、

大人になった時に本当の記憶を取り戻せるかもしれません。

さぁ、グレッタ村に行きましょう。そこで、新しい「人生をお過ごしください」」



「どうしたの!? しっかりしてください」

「リョウ! どうしちゃったの!?」

「あっ、目を覚ましましたわ」

「あらあら、本当に心配をさせますわね」


先程まで重かった瞼を開けると、そこには慣れ親しんだ顔があった。

私は心からの安堵のため息を吐き、彼女達の顔を見る。

師匠とプリシャの目には涙が浮かび、ハリティの表情には笑顔が浮かんでいる。

セドナさんは、いつも通りのすまし顔をしている。

良かった……私はここにいる。


「ごめんなさい。心配をかけました」

「もう! 驚いたよ~、もう大丈夫?」

「はい、もう大丈夫です」

「本当ですか? 具合は大丈夫なんですか?」


プリシャと師匠が心配そうに訪ねてくる。

本当に私は愛されているな、そう思うと嬉しくなる。

いや、突然の事で私が一番驚いたけどさ。


「本当に大丈夫ですの?」


今ではハリティも不安そうな顔になってしまった。

下から私の顔を覗き込んでくる。

そんなに顔が近いと照れるから、離れて欲しい。


「大丈夫です。あと、皆さんに言うべき事ができました」


そう、言わなければいけない。私の本当の事を……。

今では気分が落ち着いている、何時も感じ続けていた違和感が消えていた。

記憶を巡らせると起こる、漠然とした不安と混乱が今では嘘のように無くなってしまった。


「言うべきこと? 何かしら」


セドナさんが不思議そうな顔をしている。

そりゃ、そうだ。私も不思議だしね。

少し本当の事を言うのが怖いけど、知ってほしいんだ。

本当の仲間になるために、知って貰いたいんだ。

もっと皆に伝えたかった俺の思い……。


「何を言うのですか?」


師匠があごに手を添えて、何時もの様に可愛い顔で聞いてくる。

首を少し傾げるそのポーズ、ずっと好きでした。ずっと言いたかった。

私はずっと貴方が好きだった。


「私の本当の名前を思い出しました」

「え!? リョウは、スズキ・リョウイチという名前でしょう?」

「確か、日本から来たと言っていましたわね」


ハリティと師匠が驚いた様子で私に尋ねる。


「私は……いや、もう辞めにしたいです。本当の自分のまま話がしたい。

 ずっと皆と打ち解けたかった! それがやっと、できそうなんです!」


彼の突然の変化に、彼女達は愕いた。彼の目からは涙が溢れている。

初めて見せる彼の涙に、どうしていいのか分からなかった。

そして、泣いている本人もどう伝えればいいのか分からず、

支離滅裂ではあるが、今まで見せられなかった本心を吐露し始める。

彼は真実の記憶を取り戻し、自らの真名を口にした。



の名前は、ジーク。ジーク・ザイフリート・シグルズと言います

 皆には信じてほしい。今までの事、これからの事、本当の俺を知ってほしい。

 やっと、それが伝えられそうなんだ!」

              


―――俺は、異世界の人間などではない。



        今、真実の記憶を話そう……。

次回、ジーク

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