勇者召喚?誘拐の間違いだろ?
「勇者様、世界を御救い下さい」
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「だが断る」
魔王によって侵略され滅びゆく大陸の希望と期待を込めて召喚された勇者の返事は神速果断の即決回答だった。
「え?」
「え?」
しばし見つめあう召喚勇者と勇者を召喚した姫巫女。
召喚を行った姫巫女は王国の第一王女であり、魔王との戦により故人となった国王の一粒種でもある。
蝶よ花よと大事に育てられた王女は愛情に溢れ、溢れすぎた環境で大事にされ過ぎて育ったために筋金入りの箱入り娘だった。
「なっなぜでしょう?」
あまりにも予想外の即答に姫巫女は反射的に問いただす。
「なぜ?なぜと言ったか。俺は部屋で本を読みうたた寝していた。眩しいと思ったら部屋から魔方陣らしき発光する模様が現れ、第一声が『勇者様、世界を御救い下さい』と来た。いや、なんとなく状況には察しがつくさ。ここは異世界なんだろ?魔王だかなんだかが居て危機が迫ってるんだよな?で、困ったなーよーし勇者を召喚しようってなもんで勇者召喚とかやらかしたんだろ?」
全く何の捻りも無い王道的なテンプレ勇者召喚展開だった。
「はい。その通りです」
「された方にしてみればただの誘拐だ」
正論である。
「えっあっえっと」
あまりにも正論過ぎて姫巫女は回答に詰まる。
「元の世界に戻せるのか?」
「……無理です」
「元の世界に返せる方法は在るのか?」
「……在りません」
「俺はこの世界とは無関係だった。同意もしてない無関係な存在を誘拐した挙句に世界を救えとか恥と言う物を知らんのか?」
「でっですが……もはや勇者様に頼る他世界を救う術はないのです」
ここで勇者にそっぽを向かれては世界が滅ぶと必死になり説得を試みる姫巫女。
「そうか、そうか。それは大変だ。で?同意もしてないのに帰れない異世界に誘拐された可哀そうな俺の事は誰が救ってくれるんだ?突然息子が誘拐されて行方不明になった俺の両親は誰が救うんだ?」
姫巫女の必死の説得は逆効果だった!
「えっあっうっそっそれは……」
「俺の生活保障とかはどうなってるんだ?顔も名前も知らない見ず知らずの他人の為に命を懸けて戦えとでも言う気か?まさかとは思うが勇者だから当たり前だなんて言わないよな?俺は異世界に誘拐されただけの一般人だ」
勇者の正論ラッシュ!
「いえ!勇者様には特別なお力があります!」
姫巫女の反撃!
勇者なので特別な力があります!
「ほう。不思議パワーでも身に付くのか?実感が無いが」
「はい!勇者様は極めて強力な催眠術が使えます!」
信じられない程に勇者らしくないチート能力だった!
「催眠術とな?それはどうやって使うんだ?」
「文献によりますと人命じればその命令が当たり前の事と認識するようになります。効果のある対象は人族と亜人、獣人に分類されている一定以上の知的生命体に限り、言葉の通じない動物や魔物、魔族や魔王には通じませんが」
勇者に与えられたのは滅茶苦茶なチート能力だった。
「うん?勇者の役割はその力で魔王勢力以外を纏めてくれと言う事か?」
「はい。直接戦闘をして頂く必要はありません。下々の物を洗脳して死ぬまで戦い続ける自殺特攻兵にしていただければ」
姫巫女はどれらいぶっちゃけた。
「とりあえずお前が死ね」
勇者は思わず命令した!
「はい。悦んで!」
姫巫女は懐から自決用に持っていた短剣を喉に突き刺そうと動き。
「お待ちください!!!」
傍で控えていた巫女に必死で止められる。
「止めないで。勇者様がお望みなの。死ぬ事こそ私の使命なの。私は今此処で死ぬ為の存在だったの」
催眠の効果は抜群だった!
「勇者様!どうかお怒りを御沈め下さい!」
「姫様への御命令を解除してください!お願いします」
このままでは姫巫女に自殺されてしまうと巫女達は必死で懇願する。
「凄まじいな……これは引くわー。一個人にこんな力を与えるなんて馬鹿じゃねーの?マジで。まぁいいや。おい。そこの自殺しようとしてるバカ。やめろ」
「はい!悦んで!」
ホッとして力を抜く姫巫女の自殺を阻止するべく取り押さえていた巫女達。
「とりあえず、姫巫女とこの場に居るすべての巫女よ。汝らに使命を与える」
勇者は姫巫女と召喚を行う祭壇がる神殿の内部に待機していた総勢300名を超える総ての巫女に対して命令を下す。
「この世界、滅ぼすから手伝え」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「はい!悦んで!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
読んで頂き有難う御座いました。
チート過ぎる能力を誘拐した人に与えると碌な事にならないんじゃないかな?と言うお話でした。