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巡ル世界  作者: ムラツユ
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沈黙の金

 さて、さすがの少年も今回の一件については驚愕してしまいます。

 何故ならまだ指定の月日になってないにも関わらずに死んでしまったのですから、唯一わかったことと言えば別にその月日にならなくてもまた同じように時間が巻き戻されるということです。

 これが少年にとっていいことだったのか悪いことだったのかは、そのうちわかる事でしょう。

 少年は今回のことについても深く考え込みましたが、自分がどうして殺されてしまったのかはついぞわかりません。

 少年には人の心を真に思いやるという気持ちはもう欠落しているようでした。

 仕方ないので、今度は家にいる間以外はずっと気を張って、いつもより周りに注意しながら過ごすことに決めて次の候補に検討をつけることにしました。


 正直、以前の女の子以外には大した思い入れはなかったのでなかなか決めるのに苦労しましたが、以前の生でやけに突っかかってきた少女の一人を思い出します。

 その少女は綺麗な金髪をしていて、たしかハーフの富裕層の出だったことを思い出し。

 同時に自分が趣味に没頭しているときにやかましく妨害してきたことも思い出しました。

 当時は、そんな彼女を煩わしく思いながらも、なぜか心のどこかでその女の子に絡まれることを楽しみにしていた事もありました。

 まあおそらく彼女の公明で清廉潔白、誰に対しても平等に接する性格のおかげもあったのだろうと当たりを付けてそれ以上は考えることはありません。

 ただ、彼女は天邪鬼のような性質で、特に好意的な異性の前だと心にもないことをいって誤解を招くこともまれによくあったので、その思いを言葉にして伝えることができないのがネックです。


 -どうせなら、先に難しいものからやってしまおうか―


 それだけで思い立った少年はまた準備に取り掛かります。

 と言っても、依然と何ら変わりはありません。ただ今度はいつ襲われてもいいように前回よりも鍛錬の量を増やし、身なりや言葉遣いも、いつかの生で演じきっていた優等生のそれへと近づける、ただそれだけです。


 そしてまた少年の作戦が始まるのです。



 以前のように主人公さんと友好関係を結び、それとなく情報を仕入れます。

 この時、場合によってはなぜかものすごく警戒されることがあるのですが、今回の主人公さんは開放的でですぐにこちらを受け入れてくれるようです。

 このことからも分かる通り、主人公さんだけはどの生で会っても容姿や性格が変わっているのです。

 ただ、その根本は変わっていないようで、優しくそして曲がったことが嫌いだったりします。

 それでも少年はつかず離れず、しかし精神的に遠い距離で彼とつきあうことにしていました。

 どうも少年とはそりが合っても根本の部分では相容れないようであまり好きになれない、というのが前生までの感想でしたが、いまではそんなことを思うことすらしません。

 ただ機械的に、彼から奇特な情報を搾り取るのみです。


 そして次に行ったのは今回の目標の人物である金髪の少女との接触でした。

 ただ彼女は、自分から近づいてくる人間には警戒心が強く、彼女に気に入られるのは骨が折れるのは必至でした。

 ならどうするか、そこまで考えた少年は一つの妙案が浮かびます。


 -そうだ、あっちから近づいてもらえばいいんだ-


 その何とも人任せな案だったのですが、少年には一つだけ必ずと言ってもいいほどに成功するだろう術に思い当たるものがありました。

 ただ、いまからだと微妙に効果があるかわからないですがやれるだけやってしまうおう、ダメなら次に期待しようということで早速これからの進路を考えます。

 彼女はどうもダメな男に突っかかる体質の持ち主の様で、その姿を見れば一目散に飛んでいくような性格でした。

 その性質を利用してあちらから接触を試みるのが無難でしたが、すでに優等生として役作りをしてしまったためそうは問屋が卸しません。

 なので少年は『高校に入って勉学の壁を感じ、ノイローゼになってしまった気弱な青年』という設定で売り込むことにします。

 武術をやっている時点で、気弱なわけがないのですがそれでもその少女は少年へと声をかけます。

 

『ねぇ、どうしたの?最近元気がないみたいだけど』

『え、ああ別にどうということはないですよ。ただ…一寸自分が不甲斐ないなって』

『もしかして、勉強がワカラナイの?なら、私が教えてあげる、一寸かして。』


 それだけ言うと彼女は先程まで睨み付けていた教科書をひったくりどこが分からないのか聞いてきました。

 その態度に少し難色を見せましたが、どこか懐かしい、温かい感じを覚えていました。

 一瞬そのままよくワカラナイナニカに身をゆだねたくなりましたが、ここで素直に助けを求めてはそこで彼女との関係が終わってしまいます。

 心を落ち着かせて頭のなかで作られた人物像に沿って行動することにしました。


『そんなことはいいから返してください、自分で解かなきゃ意味がないんです』


 そう言って彼女からわざと強引にかすめ取るように教科書を奪い返します。

 すると予定通りに彼女は、むきになって少年の手助けをしようといろいろとアプローチをかけます。

 しかし少年はそれをすべて断り挙句の果てにはちょっとした暴言まではいてしまいました。

 そこからは暴論に暴論を重ねた口喧嘩へと発展します。

 いつの間にか少年も本音を交えて彼女のことを罵倒し始めます。

 今思えばこれが初めての、そして最後の人とまっとうにぶつかった一生だったのです。

 結局のところ、彼らの無意味な言い争いは主人公さんの仲介により一旦の終焉を迎えます。

 久しぶりにストレスを発散させたおかげか幾分か晴れやかな気持ちになりつつも、一つ飛ばしで少女と主人公さんを近づけることに成功した少年は計算外の幸運に内心ほくそ笑みます。

 こうして一歩ナニカに前進しました。





 あれから少女と少年は会うたびに互いに反発して、互いに成績優秀者であったためか競争じみたことも多々繰り広げられました。

 それはその高校の日常風景へと変わったくらいに彼らはいがみ合いそして競い合います。

 傍から見れば子供の喧嘩、もしくは逆に仲がいいのではないかと勘繰るほど息がぴったりでした。

 それを主人公一行が止めにいくまでが一つの風物詩になっているとさえ言われているほどです。


 少年も少々やりすぎたかと後々で反省しますが、事態はよくも悪くも転がっていきます

 不意に、少女からこんな問いかけが持ち掛けられました。


『ねえ、一寸相談があるんだけど』

『突然どうしたの?いつもなら一言目が「勝負」で二言目がお互いの暴言なのに』


 少年はどうでもよさそうに心の底では待ってましたと言わんばかりの狂気に震えながらいつも通りの態度で応じます。

 少女はばつの悪そうな顔をしながらそれでも話を続けます、


『それは、悪かったわよ。でもあなたくらいだからね。こんな遠慮なく付き合えるのは』

『それはそれは、ありがたいこって。で何の用なのさ』

『なんか、迷惑そうね。別にいいけど…もし、さ気になる異性がいるとするじゃない?』

『ふんふん、それで?』

『元からカッコイイなとか誠実そうだな、て思ってたんだけど、一緒に行動して見れば気さくな面とか一寸危なっかしい面とかも見れるわけよ、そしたらだんだん惹かれちゃったのよ』

『ふんふん、ありがちな話だね、恋ってやつじゃないの』

『そうなのかもしれない、まあでも私こんな性格じゃない?どうしても伝えられなかったんだけど』

『そこは頑張ろうよ、いつもの押しの強さで一発じゃん』

『それができればこんなことしてないわよ、で話は続くんだけど』

『あのさぁ、結局本題は何なの。のろけ話を聞く気はないよ』


 未だに話をつづける少女にまどろっこしさを感じた少年は、単刀直入に話を聞きます。

 今までの経験で彼女との付き合いは直球勝負で言ったほうが早めに済むと感じたので遠慮を知りません。

 少女もあわてて少年に待ったをかけました。どうやら相当に大事な話の様です。


『わかったってば、手短に話すわよ。…気になる人が二人出来ちゃったのよ』


 さすがの少年もこれには驚きを隠せません。今生になってから驚くことが多いな、とは少年の心の声でした。


『それは、いったいどういう経緯で』

『気持ちを伝えられなくてもやもやとしているうちにね、一人の気に食わないやつと出会ったのよ。でもそいつと話していると気取らない自分で居られて楽しかった。そう、楽しかったのよ。』


 金色の少女は噛みしめるように、それでいて頬を少し赤らめながらはっきりと告げます。

 それがなんであるのか、その行為が何を指すのかが分からないほど少年は無知ではありません。ですがどうしてこうなったのかは少年にはまるで見当がつきませんでした。

 それは俗に呼ばれる『告白』に近いものであることは少年も勘付いてはいましたが、何よりもおどいたのはその行為がおそらく自身に向いていたということです。

 少年は廻ってきた生の中で、一度たりともそういった感情を向けられることが無かったのもあり、気が動転してしまいました。


『その気に食わない奴ってのは一体誰の事なんだ?』


 心にもない言葉が口をついて出てしまいます。

 すると少女は慌てた様子で『教えないわよ!』と語尾を強く強調して教えることを拒みます。

 あるいはつい真逆の事を言ってしまったのかもしれませんが、それは彼女のみが知ることです。

 

『まぁ、ウン誰でもいいかそんなこと、そんなことより続き、話してよ。』


 少年は少女に話の続きを急かします。内心未だに気が気でなかったとしても、それを悟られないように。

 少女も気を取り直して、話の続きを語り始めました


『最初は、なんて頑固な奴なんだろうって思ってただけなんだけど、そのうち目で追っちゃってたのよね、なんか危なっかしく見えてつい』

『危なっかしいって…でもそこから恋愛感情につながりにくそうだけど』

『そう…ね。私だってやけに突っかかってくる…悪友程度にしか見てなかったわ、あの時までは』

『あの時?』

『夕方、そいつが一人で教室に残っていたところを見かけたんだけど、その時の顔が初めてみる表情で…儚げな表情のまま「早く終わらないかな」てつぶやいてたの。もう下校時刻は過ぎてたし、彼が何かをやっていたわけでもないのに…』

 

 その様子は、まるで今にも消え入りそうで放っておけなかったと少女は語ります。

 そしていつもと違う謎めいた雰囲気に惹かれて、もっといろんなことを知りたくなった、とも。


 その言葉を聞いて、少年は焦りを覚えます。

 誰にも知られるはずのなかった秘密の、その一端を目の前の少女に暴かれようとしていたのですから。

 少年自体、なぜこんなに隠そうとしていたのかはこの時考えても答えは出ませんでしたが、少なくともそれがばれたら拙い、ということだけは頭にあったみたいです。


 -でも、此処でばらしてしまったほうが楽になれるんじゃないだろうか-

 そういう思いも無きにしも非ずでした。

 今まで一人で戦ってきたようなものです。いつまで続くかワカラナイ不安と恐怖、そして繰り返されていく時間の中一人で生きていくことにどこかで疲れを感じていたことも事実。

 もうそろそろ人の輪に入ってみてもいいんじゃないか、そう思った少年は息を漏らすように言葉を紡ごうと、口を開いたときある一つの考えに至ってしまいます。

 -もし話してしまったら、彼女は軽蔑するかもしれない。だってズルをしていたようなものだから-

 以前真逆のことを思っていたはずでしたが、それもかなり昔のこと。

 それに彼女は、本格的に巻き戻りの人生を謳歌してから初めて好意を抱いてくれた異性です。

 そんな少女に、少しでも嫌われてしまう可能性があるというだけで恐れるに足る案件だったのです。

 いってしまえば、少年のほうも少女に気があったということで

 さらに飽きるほど人生を巡った中で、初めて人と向かい合ったものですからうまく考えがまとまらなかったようです。


『そいつがいったい何を考えているかなんて他人には分からないだろうさ。』

『アンタねぇ-!』

 まだしらばっくれるつもりか、そんな言葉を少女は続けようとしたのでしょうが、そこにかぶせるように少年は話に割り込みました。

『大体周りに隠し事してるやつなんて絶対ろくな性格してないよ、ダメ人間のにおいがプンプンするね。』

『-は?』

『まぁそんないじいじしていたら、その間に両人ともいい人見つけて結ばれちゃうかもね。ぷくく、普段ド直球な君のそんな様が見れて失笑を禁じ得ないよ。』

『んなッ笑うか呆れるかどっちかにしなさいよ!』

『おっと僕としたことが失敬失敬、本当に君らしくないものだから。それにしても君が好きになった異性ねぇ…もう一方もきっとダメ人間まっしぐらな人なんじゃないの?』


 

 少年があざけるように言葉を放つと、間髪入れずに頬に平手打ちが決まりました。

 それでも怒りが冷めやらないようで、少女は肩で息をしながらも少年の瞳をこれでもかと言うほどに睨み付けていました。

 それも当たり前です。

 自分が好きになった人を貶されるのは誰にだって許せませんし、その言葉を放った少年もすぐに失策だったと思っているほどです。

 ですが、ここまで来ては後戻りはできません。

 少年は逆に好都合と思い込み、肩を落としながら話を続けます。


『いくらなんでも叩くことはないじゃないか。ボクも言い過ぎたかもしれないけどさ。…珍しく君のためと思って言ってるんだよ?』

『…どういう意味よ』

『君は見る目はあるほうだと、僕は思ってる。でも他ならぬ君が告白を渋るっていうことはその心当たりでもあるんじゃない?』

『そんなことは…ない』

『本当に?…だったらなんで『悪友』のボクなんかにこんなこと話すのさ。こう言うのは同姓のともだちに相談するものでしょ?』

『だから―!』

『あ、そっか!『彼』のほうは有名人で人気者だもんね!

そんな人と付き合うなんてことになったら周りの嫉妬とか凄そうだし、身近で手軽な人で済まそうって魂胆なんだ!

そうすれば角がたたないし、友達とも仲良くできるもんね。あったまいいなぁ君は―』


 そこまで言い切ると同時に、今度はきれいな正拳突きが少年の右頬を捉えます。

 その威力が強かったのか少年の体は大きく吹っ飛び机へとドンガラガッシャンと漫画のような音をたてて突っ込んでいきました。

 対する少女はさらに息を荒らげて少年を睨み付けています。

 少年も、無様な体勢になりながらもその睨み返しました。


『ふざっけんじゃないわよ!いつ誰がそんなこと考えてるって!?』

『いま、君が考えてることなんじゃないか!?図星だからこうやってきつく僕に当たるんだろ!』

『それはアンタが態々人の神経逆撫でるようなことを言うからでしょう!』

『それを言うなら君もだろう!』

『ハァ!?私がいったい何を言ったっていうのよ!』

『僕に〈じぶんの〉恋愛相談するってところだよ!どうしろってんだ一体!』


 その人ことを最後に、二人とも口をつぐんでしまいます。

 二人とも自らの浅慮さに気付き、何を言えばいいのかわからなくなってしまったのです。

 それが気まずい沈黙が流れ、


 最初に口を開いたのは少年のほうです。

 先程の苛烈さをすべて抜けきった、脱け殻のような声音でした。

『あのさ、もうどうするか決まってるんじゃないの?』

『そんな、こと…』

『僕には、君の告白がまるで最後の一押しをしてほしいっていってるように聞こえたんだ。

それこそ友達の話も含めての色々なシガラミをどうにかしてほしいって言うさ。』

『そう、かもしれない。でも私は―』

 饒舌に持論を話してしまおうとする少年に、半ば圧倒されながらも少女はじぶんの思いを告げようとします。

 しかし、少年は言わせまいと言葉を被せてしまうのです。

『この際はっきり言うよ。そんなことで二の足踏んでるアンタはかなりダサい』

『―な!?』

『ボクはさ、妥協を許さずどんな困難にぶち当たっても諦めない君だから仲良くなれたと思ってる。そりゃ濃い付き合いしてたわけだし君の弱いところとかも知ってるよ?

でもさ、それも踏まえて今の君はらしくないと思うんだ。いつもなら、こうと決まれば条理に反しない限りテコでも動かないんだから。』

 そこまで一気に言うと少年は深く深呼吸して話を続けます。

『それに、君は最初に『彼』の話をしてから、本題に移った。これってさ聞き方を変えれば今から振ろうとしてる前文句だよね。最初に嬉しそうにのろけちゃってまぁ…てこれは関係ないや。

あとさ、すでに優先順位とか決まってたんでしょ。故意にじゃなくて無意識に。だからあの順序で話した』

 途中からすこし口からでまかせのように出てきましたが少年は言いたいことをすべて言い切ります。

 そして少年が言外に同意を求めると少女はなにも言えなくなってしまいました。

 そんなことはないと頭では否定していても、心の片隅に引っ掛かってしまったからです。

 その様子に少年は肩を落としつつ、口を開きます。


『なに、大丈夫だよ!君が誰が好きで誰が好きだったかはボクにはついぞわからないけど、それで友達と疎遠になるなら逆にそんな縁は切っちゃえばいいんだし、

君が告白して誰かと付きあうことになろうと君とボクは生涯のライバルってやつには代わりないんだからさ!』


 そう言って彼は話を締め括りました。

 締め括ってしまいました。

 その意味を、真意を聡明な少女が理解できないはずもなく―

『―そう。そうね。

あーあ、なんでこんなバカに話したのかしら!話をした私もバカだったってことなのかしらね。

確かにらしくなかったわよ、もう、迷わないから。だから―』

 ―これからも、いつまでも友達でいましょう―

 少女も、これ以上話を引っ張ることはなく二人しかいなくなった教室を駆け足で出ていきました。二度と、振り替えることなく。


 教室に残ったのは、なんとも滑稽な格好の道化師、もとい一人の少年のみ。

 彼は離れていくその姿をただ見つめたまま、もしくはただ定まらない視線を遊ばせています。

 唯一、その人影に聞こえないように

『ああ、それは無理な相談だな。』

 とそっと呟きました。

 少年は今回の件でかけがえのない悪友と、好意を持っていた少女の両方を失ったのでした。



 そして、件の少女は無事に告白に成功して、主人公と結ばれます。

 その一方で、少女と少年の競いあいはなりを潜め疎遠になっていきました。

 少女は日々を楽しく謳歌している様を見て、少年はそこに茶々をいれるのをためらったからです。

 もともとその意義も意味ももうないのですから必要のないことですが、少年は途端に空虚になっていく自分を認識し始めます。

 ふと、誰もいない場所で黄昏たくなり屋上へと足を運びます。

 屋上はもともと出入り禁止になっていて、それを律儀に生徒が守っているものですから、フェンスの設置もされていないようです。

 沈みかけの夕日を近くで見ようと、縁沿いまで移動して脚を宙にぶらつかせながら少年は黄昏ていました。

『あー、こんな状態で一生生きてくのかぁ。ちょっとやだなぁ…』

 ―いっそ飛び降りてしまおうか―

 そんな思いも一笑にふして口から笑みをこぼします。



 その時、またもや魔の手がかかったようです。

 軽く押し出されるような感覚がした途端、少年は足どころか全身を宙に投げ出されていました。

 それは、誰かに押された気もしますし、突風に押し出されたのかもしれません。少年にはわからなかったし、もはや関係のないことでした。

 ただ、落ちていく間に思ったことが

―これなら、余計なこと考えなくてすむ―

 これひとつだけだったからです。


 そして、今日また人生に終わりを告げたのでした。


no■■oa■in■g

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