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巡ル世界  作者: ムラツユ
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終ワラナイ世界

もし、自分が死んだあとも世界が続いたと仮定しよう。

 え?そんなもの当たり前じゃないかって?

 そうだね、たとえ人が死んでもその他の生物が死んでも世界は続いていくだろうね。

 でも、それは自分が死んだら認識できないじゃないか。それを誰が証明できるっていうんだい?

 見えないものを証明したとしてもそれが本当にあるかなんて誰にもわからないじゃないか。

 悪魔の証明と同じさ。

 もしかしたら今見ている世界しか存在していなくて、認識した瞬間世界が生まれるのかもしれない。

 いわゆる卵が先か鶏が先かの論争ではあるけどもこういう話は案外好きだ

 そんなのは屁理屈だって?

 ハハ、たしかに屁理屈だね。でも、当の本人に至っては生きてから死ぬまでの、視界に入った現実/仮想が唯一絶対の世界なのであってそれ以上のものはないよ。断言しよう。

 一体何の話をしているのかって?

 そうだね、これからしようとしているある一人の少年の狂おしくも儚い人生のお話の、一寸した戯れ話さ





 あるところに一人の男の子がいました。


 その男の子はある晩とても怖い夢を見ましました。それは、何かに追いかけられて必死に逃げる、そんな夢だったそうです。


 あまりにも現実味があったものですから、男の子は一人で家から出ることが出来なくなってしまいます。


 その様子を見た両親は一計を案じてその子を護身術の道場へ通わせることにしました。


 ひとえにちょっとした親心と一人立ちを促すための半ば苦肉の策でしたが、そんな家族の心境とは裏腹に身の丈に合わない護身術の練習を一所懸命にやる男の子の姿がありました。


 それは単に、未だに頭の中から離れない悪夢を必死になって取りはらおうとする少年の涙ぐましい現実逃避の努力だったのです。


 もしかしたら少年の好きなバトル漫画にも影響を受けたのかもしれません。


 しかし、その甲斐あって少年は少なくとも自分の身を守るだけの力を持つことができました。


 体を動かしていたおかげもあって、その性格もだいぶポジティブで快活なものとなったのもうれしい誤算です。自らの心の底に眠った夢はあきらめるしかありませんでしたが、その代わりにたくさんの友人に囲まれるようになりました。


 こうして、少年は心も体、は微妙に成長しなかったものの頑強に育ち、充実していつしか青年の一歩手前にまで成長します。そのころになり実力は頭打ちになったとしてもそれでも日々の鍛錬を忘れることなく毎日続けていました。


 ときどき、寝坊したり宿題を忘れてきたりと一寸したお茶目もありましたが、先生も友達も笑って呆れてそれでも彼のことを赦し一緒に笑いあいました。


 友達と笑いあい、よき師にも出会えて、少年はそれこそ毎日が幸せでした。


 できれば可愛い彼女が欲しい、そんなことも考えましたが、ないものをねだっても出てこないことをすでに理解している少年は、それでもみんなと笑っていつまでも過ごしていたいと、こんな時間がいつまでも続けばいいのにと、それこそ叶わぬ夢を抱きながら毎日を過ごしていました。




 …少なくともその日々が少年にとっての狂おしく愛しい日々だったのは幸運だったのか不運だったのか、それは少年にはついぞ分かりませんでした。




 少年が自らの友人と別れを告げて家へと帰宅する中、事件は起きます。


 突如、乾いた音がすると少年の身体からポトリ、ポトリと命のしずくが零れ落ちていきました。そしていつの間にか自分が倒れていることに気付き、必死に起き上がろうともがきました。


 しかし力が入りません、誰かがこちらへと歩み寄ってくる気配がします。それでもうつ伏せに倒れてしまった少年にはその人物を見る気力も、ましてやその場から逃げる体力ももう、持ち合わせていませんでした。


 そしてその足音が自らの頭上まで来たときぴたりと立ち止まりました。


 少年もついには観念してただ目をつぶり最後の瞬間を待ちます。


「アナタがイケナイノ」



 そんな言葉を少年は最後に耳にした気がしましたが、少年には関係のないことでした、何故なら次の瞬間乾いた音が鳴った時にはすでにこと切れてしまっていたからです。









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