美柑2
◆
美柑はずっと待っていた。
凛は初めての友達でもないし特別に大切なわけでもない。
でも、凛のことを見ていると憧れるのだ。自分もああなりたいなと。
「美柑さん、お昼一緒に食べませんか?」
美柑に親しくしてくれる友達が寄ってくる。その子とは住んでいる家も一緒だし入学当初親切にしてもらった。
「ごめんね、今日はお弁当を忘れてたの、代わりに食堂のパンを買いに行ってもらった千歳君を待ってるんだ」
「あーあのサイレントフェイスを?」
サイレントフェイス。時折、周りの人が千歳のことをそう呼ぶ。
意味はわからない。
「千歳君はサイレントフェイスっていう名前じゃないよ?」
美柑はそう言い返す。凛から聞いた話、千歳はロボットだという。
ロボットだからそんな名前で呼ばれるのか、いままで名前が無かったからそう呼ぶのか。
なんにしても千歳が変に長い名前で呼ばれているのは少し嫌気が差す。
そう呼ぶ人たちの顔にはいつも馬鹿にしているような気味がるような色が見えるからだ。
声をかけてくれた友達の服の裾を引っ張って「もういこ……」と囁いている人がいる。
「それじゃあ……」
「うん、また今度ね!」
美柑だって嫌われたくてそういったんじゃない。でも、人それぞれ様々な捉え方があるのだ。
それは千差万別に否応なく絡み合っている。
――もっと、みんな仲良くできないのかな?
例えば、あの親しくしてくれる友達も美柑と一緒に凛を待ち続けるとか、あの服の裾を引っ張った人は小声ではなく大きな声で正直と「この子は私のもの!」と宣言しちゃうとか。
人間関係は美柑の思っているように簡単には出来ていない。
くぅ~。
お腹が鳴った。机に突っ伏す。顔を教室の扉が見れる位置に固定。
「早く来ないかな?」
千歳はすこし遅い。おかげで元気が空っからだ。いつもの調子が崩れてしまう。
美柑はいつもお弁当派なので食堂には入ったことはないが、全校生徒五百人超えの食堂はきっと人ごみだらけでゆっくりできないはず。
そういえば食堂でパンは人気の品物だと気づいた。長い列を作って買うらしい。
特に惣菜のピザパン。
あれはまず最初に売れ切れて、取り置きもしているみたいだがピザパンを手に入れたいという熱意がある人じゃないとそれを貰えないらしい。先輩がそう言っていた。
食堂のパンはクリーム系が多いので大抵そちらを買う人が多いという。
普通の食堂なら金額安めの質量を重視したコッペパンとか、濃い味付けの焼きそばパンを優先して買うのだろうが、生憎この学園に売ってあるものはすべて無料なのでそういうのは気にせず美味しいものを買う人が多いのだ。
くぅ~くぅ~。
「ダメだ……食べ物のことを考えたらお腹が鳴っちゃう……」
――目を閉じたらすこし我慢できるかな?
意識して瞼を閉じてみる。そのせいで今日の朝の千歳を思い出す。
美柑が起きた時、そこには千歳の顔があった。
凛がなにやらその顔に手を当てていたがいつものことなのだろう。
それから、布団を持ってうつ伏せの千歳と一緒に寝ていた。
急いでベットによじ登った。
千歳は全く動かなくて本当にロボットなんだなと思ったけど、その後急に動いてビックリした。
料理もすぐ作ってくれて、すごく美味しくて、たくさんの幸せを作っていた。
でも、そんな千歳に感情が芽生えて名前があって、さらに人だったのだ。
ロボットじゃなくて人。
だから、凛と千歳は一緒に居るべきなのだ。どんなことがあっても二人は一緒に。
「凛ちゃ~~ん……うぅ~」
「なによ?」
「凛ちゃんと千歳君はね、お似合いなんだよぉ~~うぅ~」
「は? ちょっと美柑何言ってんのよっ」
美柑の口が塞がれる。甘いパンで。
「ほぇ?」
そこでやっと目を開ける美柑。目の前には待ち続けた赤毛の少女。
「やっと起きた?」
「凛ふぁーん!」
凛は千歳の席に座ってパンを食べながら美柑を見ていた。
まるで急に目の前に現れたみたいだ。
口にくわえた甘いパンをもぐもぐ食べる。それはうずまき螺旋を描いていて、チョココロネの後ろの方だと気づく。
「まずは食べましょ? お腹鳴ってたわよ」
「うん!」