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美柑3

 ――うわーなんかすごいことになって来たー。

 生徒玄関を過ぎると学園正門前、たくさんの生徒が帰路に着く中を走っていく。

 帰りは先生が道の端に立っていないので広場のように学園正門前には人が散っていた。中には楽器で演奏、路上ライブや大道芸人のように箱とボールを積み重ねた上にバランスよく立つ者までいる。

 いつもならそういうのを見てしまう美柑だが、今日は通りすぎて走り去る。

「ちょっと美柑! なに急いでんだよ! おーい!」

 美柑はたくさんの生徒に紛れているのに千歳はその後を正確についてくる。

 追いつかれそうだ。足の回転数を上げる。人にぶつからない様に気をつけるけど驚かせてしまう。

「はぁ、はぁ……疲れちゃった……」

 ショッピングエリアがある西を目指してエスカレーターに乗る。

 ここからは自動で進んでいくので休憩タイムなのだ。

「なんで急に走ったんだよ?」

 千歳は息切れもせずにそこにいた。

「……君がうじうじしてるからだよっ!」

「うじうじ?」

 ――でも、ちゃんと追ってきてくれた。

 千歳はうじうじの意味を考えているのか腕を組んで上を見ているがその意味は分からない。

「今日は何食べよっか?」

「へ? 食べるってご飯?」

「君が作ってくれるんでしょ?」

「俺が?」

 千歳は泊まる代わりに食事を作る約束をした。

 路線バスに乗って昨日の食料品が売ってある施設に行って今日の夕飯を買いに行く。

 買うのは今日の夕飯の献立とか、明日の弁当のオカズとか、間食のお菓子とか。

「あー! そういえば凛ちゃんの部屋に駄菓子忘れてきちゃってたよ」

「そうなのか?」

「そうだよーあと傘も」

「傘ね」

 千歳は美柑が忘れないようにそれを記憶しているようだ。

「君が壊したんだよ?」

「え? 俺が?」

「雷にぶつけてね、ほんとすごかったんだよ」

 千歳は自分のやったことを覚えていないので何とも言えないがそれは悪いことをした顔をする。

 夕飯の献立は千歳に任されているが何を買えばいいか分からないようだった。

「今日は何作ってくれるのー?」

 美柑は千歳に期待を寄せる

「逆に美柑は何が好きなんだ?」

「んー、お肉が食べたい、焼肉しようよ」

 昨日は大量の美味しそうな肉を見て、一応凛の部屋でステーキにして食べたがそれでも満足感は足りず、

「ホットプレートでお肉を焼くの、んでタレをつけてご飯と食べるの」

 ステーキだけじゃなくてご飯と一緒にそうやって食べたかった。

 千歳の手料理ではないが美味しいことには変わりないだろう。

「じゃあその路線で行こう、でも肉だけじゃなくて野菜も買おうな」

「いいよーでもピーマンは買わないでねー」

「なんで?」

「苦いからに決まってるじゃん!」

「焼けば別に苦くないだろ? それにタレもあるんだからさ」

 そう言って、千歳が野菜コーナーに突っ込んでいく。

「あーやだーピーマン嫌いなのぉー」

「苦いのがうまいんだよ、ナスもいいな」

「ナスはもっとやだよぉー」

 千歳は嫌がらせのつもりなのかピーマンにナスを手に取る。それから人参と玉ねぎに椎茸。

 使わない分は弁当に使うことにする。

 肉は豚を手にとった。

「安いのを買うのか?」

「ううん、安いって意味じゃなくて昨日は牛で朝は鳥だったから」

「そういう感じなのか?」

「うん、そういう感じ、えへへ」

 これで、一通りの肉を食べれる。次は羊を食べたい気分だ。

 タレも買って会計を済ませたらホットプレートを買いに電気屋へ。

「雑貨類になっちまうけどいいのか?」

 それは捨てられないゴミのことだろう。

「うんいいよ、うちあんまり荷物ないし。それに、これから何回か使っていくんだもん……捨てられないよ」

「そっか」

 だから、一番値段が高いのを選んだ。

 たこ焼き用の丸い穴がついた板とか、キャリーケースみたいな車輪がついたケースにパーツを簡単に収納できるやつを。

 それをこれから何回も使うんだ。

「そういえば君、明日着る服とかシャンプー、に歯磨き? あとタオルとかあるの?」

 千歳が両手をあげて首を振る。「あるように見えるか?」と言っているようだ。

「だったらそれも買わないとだね」

「そうだよな、なんかいろいろ付き合せてごめんな、ていうか風呂まで借りていいのか?」

「え? えーと……いいけど、でも最初はわたしからで、君は後だからね!」

「え、そ、そりゃあ」

「しかも掃除もちゃんとしてよねっ!」

「まぁそれくらいは……」

 それならよし。美柑は大事な会議が終わったような気分になる。


 千歳の着る服も買って帰る頃になると日は落ちて暗くなる。

 その道を千歳が二つのカバンと買い物袋を持って、美柑がホットプレートを引きずっていく。

 先ほど、誰がどれを持ち歩くか検討したのだが千歳の持っているカバンは重すぎて美柑には持てなかった。全教科を入れているらしい。美柑カバンでも四つ位の教科が入って結構重いのに大変なことだ。

 でも平気そうなので美柑がホットプレートを引きずることにして、後は千歳に全部持たせることに。

 力仕事は千歳の領分だ。

 エスカレーターを通り過ぎ、学園正門前に来る。

 夜も近いので生徒の数は少なく、西地区に向かうために横切るのは容易かった。

「んー? あれって凛ちゃんじゃないかな?」

「そうだな」

 暗闇の中で目立つような赤がある。それは髪の色で、凛が歩いていることに気づく。

 その凛に美柑が近づいていく。俯いているようだった、元気がないようにも見える。

 それなら、元気を与えればいいのだ。美柑は息を吸った。

「どうしたのーー! 凛ちゃーーん!」

「きゃっ!」

 美柑が大声を出したから凛がしゃがんで耳を塞ぐようにしゃがんだ。

 こちらを見て立ち上がる。こほん、と調子を整えている。

「どうしたの? 凛ちゃん?」問い直す。

「……今更だけど、あなたたちの現れ方は急すぎるわ、もう少し静かに出来ないの?」

「それ、俺も入ってるのか?」

「当たり前よ、でも美柑の方がひどいわね」

「うーん、そうかなー?」

 それなら今度からは気をつけよう。凛に声を掛けるときは静かに声を掛ける。覚えておこう。

「んで、今から帰りなのか?」

「ええ、あなたたちもなのね」

「じゃあ偶然だね、学園長とのお話長かったの?」

「……まぁ、雑談が多かったかしら」

 雑談。きっと凛はお嬢様なのだから偉い地位の学園長と趣味が合ったのだ。

 昨日、千歳が買っていた包み箱も美味しそうなクッキーやいい匂いの紅茶の茶葉が入っていた。美柑の感覚に例えればそれがおやつなのだろう。

 質より量を選ぶ美柑にはよく分からないが、そういう気分を味わいたいというのはなんとなくわかる。

「あのね、凛ちゃんも夕飯一緒に食べない?」

 引いているホットプレートを見せつける。千歳もそれに習い、買い物袋を掲げた。

「何を食べるの?」

「焼肉だよ、わかる? や、き、に、くぅ~」

「……それはキャリーケース?」

「ホットプレートだよ、すごいよね今はこうやって持ち歩けるなんて、もしかしたらレジャー用なのかも」

「ホットプレート……熱い鉄板、かしら? それで焼くの?」

 凛は焼肉のことをあまり理解していないようだ。

 それなら、なおさら凛を招待したくなる。

「すごい楽しいんだよっ! とにかく百聞は一見にしかずというか、ねっ?」

「ああ、タレが焼肉との相性抜群でご飯が進むというかんじだったような」

「みんなで焼いて育てて、一緒に食べるんだよ」

 そんな話を聞いて凛はうなづいた。

「そんなに楽しいならお邪魔しようかしら」

「なら凛の部屋か?」

「どうしてそうなるのよ?」

「だってでかいだろ? 美柑の部屋は狭いって」

「狭くないよー失礼だなー三人くらいなら余裕、余裕」

 今日の夕飯は三人一緒に焼肉となった。

 それが美柑には楽しくてしょうがなく先を早歩きで歩く。


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