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オウム人間

階段は20段ほどで終わり、下のフロアにはまたもや薄暗い廊下が前後に延びていた。ただ、この階にはご丁寧にも火の灯った燭台がポツンポツンと等間隔に置いてあったので、先ほどの階。すなわち、目覚めた部屋、ピンクの空が見える窓、 素敵ランプが佇むインテリアデスク、おいしい緑茶の亡骸などが現在も各々の役目を果たしているであろう上フロアよりかは、幾分か視界が良好だった。



ただ、私の好きな上のランプと比較すると、この燭台はやや気味が悪く、嫌。あの、有機的なおどろおどろしさを放つ最初のドアと同じカテゴリーに属しているな、と、感じたほどだ。

揺らめく灯り。不安な色。妖怪。いじめオーラ。

そんなものが半無限に私の前後、等間隔に列んでいるのだから、遠近感がすこぶる刺激され、頭脳吸引。この暗い廊下を永遠的に感じさせたのだった。


また、それと同じ頃、腹が減った事にも気づいた。思えば、目覚めてから中途半端に茶しか飲んでいない。

空腹時に水分だけを胃に入れると、余計に腹が減る。

と、いうか、思えば、私はいつから飯を食べていないのだろう。


そんな事が頭を過った為か、空腹により麻痺したのか、先ほどまで廊下のブラックホール的不気味さに飲み込まれそうだった私の精神も割りと全然平気になってしまい「なにか食べたいな」などと、愚鈍としか思えない状態ながら、ブラックホールに向かって歩き出す事にした。

とりあえず。闇に向かって、空腹。





やや歩くと、変化が、事が、起こる。


私は階段下降を終えて、このフロアに到達した時に前後に延びていた廊下を「前」の方向へ歩き出したのだが、今、後方、つまり。「後」の方角から、なにやら、物音が聞こえて来るではないか。

思えば、私が上のルームで起床してから初めて、自ら以外が鳴らすサウンド・エフェクト。それ故にか、なんだか、大変驚いた。


具体的にどんな音かというと、なんというのか、チャッチャッ、というか、ツァンツァンと、いうのか。

5本指の爪で畳を叩いているような、硬いような柔らかいような、ようなような、微妙な音に重量を加えたような音。だった。ような。


なにやら、よく解らないのだが、そのヒューマニックなリズムから推測するに、二本の脚によって地面を歩行し、移動する「足音」であるような、気がした。


しかし、足音なら。違和感。


私は今シューズを履いていないので、ほぼ無音を歌っている。

シューズ有りならば、かつんかつん、とか。こつこつ、と歌うはず。


しかし、この足音丁の音は、どう考えても、それとは違う。

逆立ち、右足と右手で側立ち、頭と両手で三点立ち、尻と手で…。などと、思考。しかし、どうやっても、この音は出せない。

強いていうなら、とんがりコーンを指にはめて逆立ち。


私は、怖くなった。冷や汗がたっぷり出た。背骨が凍る。髄が、電気風呂に浸かったように痙攣。とんがりコーンな、わけは無いし。

私の中に在る、サウンドの仮答は、まさに


「人間ではない何か、がこちらに向かっている」


という事だった。



私は今までピンク人間やピンクワールド想像していたが、何色であろうと、それは結局人間なので、人間の話なのである。だから、話はできるし、上手く行けばフレンドになったりしてしまう、なんとか生きていける、と考えていた。


しかし、それは人間だった場合、の、話なのである。甘かった。


例えば、ここがケダモノワールドだったら。白亜期のように、弱肉強食、ケダモノワールドだったら。私はたちまちジュラシック共の圧倒的な攻撃力・スケールに淘汰され、五臓六腑を食い千切られて絶命、魂は消滅し、バラバラ。はみ出た残内蔵、筋肉の繊維、神経、めだま、脳等らは、プテラノドン系空中生物に啄められ、砕かれた骨と食べ残しの肉で何がなんだかわからない、醜い塊に成り果てた後は、昆虫類と草木土壌の養分になってしまう。


いや、それならまだ、良いのかもしれない。


そういう流れ・変化・所業は自然の摂理というか。納得がいく、というか。私は、今の精神常態だからか、むしろそういう展開の方が良い気さえしてきた。


なぜなら、殺戮し、補食し、というのは私もやってきた事だからであるし、先ほどのおいしい緑茶だって、生命なのであるから。ね。


平等に、私がおいしい人間として飲み干されて、その空き缶をどこか訳のわからない館に放置されても、文句は言わない。今は。



しかし、無意味に遊ぶように、怨霊的というか。マーダーチックに殺戮されるのは一番耐えがたい運命であると感じる。

例えば、人の形、ケダモノの形をしていない意味不明の物体。に、殺害されるのは私は耐えられない。



私が恐れているのは、この足音の発主。


私はこの足音の発主は、そういう、私の認する、生命ではないと感じている。

怖いのではなく、恐いのだ。

そういう、オーラ。知らないやつが来る。とんがりコーン系の音を奏でながら。




しかし。



私は覚悟を決めて、というか、もう逃げられない。その発主と対峙する。

枯れ果てた喉、鼻、濡れた体。冷たい吐息。震えた黄色い眼。肺から流れた空気でホルンのように鳴る気管。エイトビート、心臓。体、最期を予感し、シンフォニー。自分にレクイエム。脳内・サイケデリック分泌。血液、乱れる。


逃げられない。



来た。

ぼんやり、浮かぶ、そいつ。



ああ、絶句。

予感、半分正解。



オウム人間。

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