第16話「亀裂」
「よくもまあ、のこのこと帰ってこれましたね」
部屋に入るや否や、マイティは早速メイヴィスから侮蔑の視線を向けられる。彼は罰が悪そうに視線を足元へ落とした。
「せっかく捕らえた遣闘士をむざむざ逃がすとは。MALUSの事が少しは解明されると皆で期待していたんですがね。他の銀将や自警団の方々から小言を聞かされる私の身にもなってほしいものですよ」
「申し訳、ありません」
「それに、逃亡者の捜索を部下に任せっきりにするとは……。呆れましたね。自警団が来るまであなた何をやっていたのですか? モニターを見ていましたが、あなたの首に付けたカメラからの映像は終始、誰もいない屋上を映していましたよ。そして自警団から聞いた話では、彼らが屋上に到着した時、呆然と突っ立っていたそうじゃないですか。普通は逃がしたら逃がしたで、すぐに歩兵・オルカの捜索へ向かうべきですよね?」
「……その通りです」
マイティは力無く答える。
メイヴィスが今言ったように、遣闘士を逃がした後、彼は呆然自失のまま屋上で立ち尽くしていた。気が付いたときには、自警団が現場調査を始めており、オルカは既に留置所へ護送された後だった。
「歩兵・キールも大変でしたね。遣闘士との戦闘ではあなたに置き去りにされましたし、歩兵・オルカを結局一人で探す羽目になってしまったのですから。ですが、彼女“の”おかげで歩兵・オルカを拘束することが出来ました。やはり入庁試験で優秀な成績を修めた人間は出来が違いますね。あなたには本当に勿体無い」
「そうですね」
「彼女も苦労しますね。こんな上司を持ってしまって……」
「……そう、ですね」
無気力に返事をする彼に苛立ったのか、メイヴィスは吐き捨てるように言った。
「全く……。これだから筆記試験すら出来ない人間は……」
マイティはグッと唇を噛んだ。
筆記試験すら出来ない人間は仕事も出来ない――彼女の決まり文句だ。過去にも彼は二、三度言われ、その度に「仕事の出来る出来ないは、入庁テストの点数じゃ計れない」と威勢良く返していたが、今回は違った。
「……」
何も言わず、ただ項垂れたまま、だ。この時ばかりは目の前でふんぞり返っている上司の言う通りだ、と本気で思った。
ふと、黒煙の中から現れた「歩兵」を思い出した。屋上に煙幕を仕掛け、遣闘士を解放したと思われる謎の武装棋士。
「あの歩兵は、何だったんでしょうか……」
「さあ。モニターでしか見ていないので何とも言えません。ですが、あの時間帯に浄水場へ向かった武装棋士は、あなた達三人だけだと思いますよ」
「俺達三人……」
つまり自分達の中の誰かが遣闘士を逃がしたってことか?
「もしかしたらあなた達以外にも武装棋士が来ていた、なんてこともあるかもしれません。可能性としてはかなり低いですが。しかしMALUSのサポートをする内通者として送り込まれた武装棋士がいたことは、これではっきりしましたね」
「そして、それがオルカだとあなたは疑っているわけですか……」
メイヴィスはさも当然に「ええ」と答えた。
「ここ最近、彼は本庁周辺を嗅ぎ回っていましたからね。泥棒猫みたいにコソコソと……。本当、目障り以外の何者でもありませんでした。まあ、こうも早く尻尾を出すとは」
「ちょっと待ってください!」
今のは初耳だった。マイティは顔を上げる。
「嗅ぎ回っていた? 何ですか、それ?」
「あら、もしかして気付いていなかったのですか? 彼は資料室のコンピューターをハッキングして、PNPの予算の動き、最近の任務の詳細、人員の経歴、挙げ句の果ては個人情報まで調べていたんですよ」
マイティは驚愕する。今のは全て銀将以上のランクの隊員しか閲覧を許可されていない情報だ。桂馬である自分はもちろん、最下級の歩兵が見ていいものではない。
だが、次のメイヴィスの言葉がマイティをさらに驚かせる。
「彼のした事はそれだけではありません。尾行もしていました」
「尾行だって!」
驚きのあまり、あんぐりと口を開けるマイティ。メイヴィスは「そうです」と続ける。
「私も以前、尾けられていたことがありましてね。中々のものでしたよ。かなり注意をしなければ気付くのは不可能でしょう。あれは間違いなく追跡のプロですね」
「追跡の、プロ……」
「私の他には銀将・ディーゼルが尾けられましたね。市街地で彼を見掛けた時に、偶然にも尾行の現場に立ち会えました。もっとも彼は歩兵・オルカの存在に気付かなかったようですが」
「それで? その後、どうなったんです?」
「歩兵・オルカは私を察知したのか、すぐに身を隠しましたよ。追跡しましたが、足取りは掴めませんでした。デスクワークのしすぎか、私も身体が幾分か鈍ったようです」
肩を竦める上司に、マイティは言葉を失っていた。ハッキングに尾行、まるでスパイではないか。いや、もはやスパイと見て間違いない。だから……。
「だから、あんな執拗なまでにオルカを内通者と疑っていたんですか……」
納得と、喪失感。
絞り出すようにして、マイティは呟く。
「サー・メイヴィス……」
「何でしょう?」
「どうして……、どうしてその事をもっと早く、自分に教えてくれなかったんですか! そうすればこんなことには」
詰め寄るマイティに、メイヴィスは顔色ひとつ変えない。
「私が見たというだけでは証拠として不十分ですから、ね。はっきりとは言えませんでした」
「ですが……ッ」
「しかし、警告はした筈ですよ」
う、とマイティは言葉を詰まらせる。そう、オルカのことについては過去に二度、警告されたのだ。にも関わらず、今回のような事態を引き起こしてしまった。
「遣闘士の捕獲未遂に、部下の敵前逃亡及び、スパイ容疑……。洒落になりませんね」
まったくその通りだ。
マイティは押し黙った。
「残念ですが、例え内通者であったとしても、部下は部下です。その責任は当然上司にあります」
マイティは身構え、上司の言葉を待つ。
「桂馬・マイティ。あなたに一週間の謹慎処分を言い渡します」
「謹慎、と言いますとやはり……」
「無論、場所は歩兵・オルカのいる留置所です。そして“謹慎”とはあなたも知っての通り、ただ静かに檻の中にいればいい、というわけではありません」
それは彼にもわかっている。身動きの取れない檻の中でされることは、ただ一つ。
尋問だ。
「異論は、ありませんね?」
あるわけがない。部下の責任は上司が取るもの。オルカの本性に気付けなかった自分が悪いのだ。給料カットが無いだけまだマシだ。
何も言わないのを肯定の意と受け取ったのか、メイヴィスはマイティに命じる。
「よろしい。では、桂馬・マイティ。今より留置所へ向かいなさい」
「了解……ッ」
くるりと上司へ背を向けると、マイティは急ぎ足で部屋を出た。「失礼しました」も言わずに出ていった部下の背中を見送ってから、メイヴィスは手元の書類に目を戻した。
「これで少しはボロを出してくれると嬉しいんですがね」
「…………はあ」
部屋を出た途端、重い溜め息が吐き出される。
裏切られた気分だ。
まさかオルカがスパイ行為をしていたとは、夢にも思ってなかった。自分の知らないところで、そんな事を……。
「いや、そうじゃない」
思い当たることがない、わけではなかった。
『何を読んでいたかまで、上司に逐一報告しなくちゃいけないのか?』
資料室から現れたオルカの脅すような、攻撃的な口調。今思えば、あれは資料を閲覧していたのではなく、本当はコンピューターをハッキングしていたのではないか?
何故あの時、もっと問い詰めなかったんだ!
「くそッ……!」
通路の壁に拳を乱暴に叩き付ける。「ガンッ」と鈍い音と共に、痛みがじわッと拳全体に広がってゆく。
情けない。誰にだってプライバシーがある、などと引き下がった自分が情けない。あの時は最もらしい理由で自分を納得させたが、要は嫌われるのが恐かっただけじゃないか。
拳を握り締めたその時、ふと、前方に人の気配を感じた。
「マイティ?」
顔を動かすと、心配そうな目をした彼女と目が合った。
「何だ、グレイスか」
マイティはホッとして――、
ホッとした理由に自分で気付いて、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
「何だ、とは失礼ね。私よりもあの子のほうがよかったかしら」
「あの子?」
「キールよ」
僅かに目を反らし、マイティは言う。
「お前の方が、マシだ」
「マシ、って……。まあ、いいわ。そんなことよりも――」
マイティの顔色を窺いながら、グレイスは言いにくそうに言葉を紡いだ。
「大変、みたいね」
「大変? ……ああ、遣闘士のことか。確かにあの禿げ頭には手を焼いたな。キールのお陰で何とかなったけど。そういや他の連中はどうなったんだろうな。確か、あと二人ほどいた気がするんだが――」
「そうじゃなくて」
グレイスがマイティの言葉を強引に遮った。
そうじゃなくて? そうじゃなくて、何だ? そんなことは決まっている。こいつが言おうとしてるのは、
「……あんたの部下の事」
オルカの事だ。
「庁内で噂になってるわ。その、あんたの部下がMALUSのスパイなんじゃないかって」
なるほど、この手の話題はすぐに広まるものらしい。おそらくオルカを護送した誰かが、そう漏らしたんだろう。
眉一つ動かさないマイティに、グレイスは続ける。
「あんた達が浄水場へ行っている間、私も含んだ、桂馬と香車の待機組は映像を見ていたわ。チョーカーのカメラから受信されてくる、現場の映像をね。それで――」
「オルカが急にいなくなるところを目の当たりにして、奴がMALUSと何かしらの関係にあると見たわけか」
「そう見る人がほとんどだったわね。私も信じたくはないけど……」
「疑ってしまう、と」
マイティが続けると、グレイスはきまり悪そうに「ごめん」と呟いた。
どうやら噂だけではなかったようだ。映像という決定的な“証拠”がある以上、周りがオルカへ、そして奴に関わった人間へ向けられる目が悪い方向に変わるのは、容易に想像が付く。
口をつぐんだまま項垂れる同僚を脇目で見つつ、マイティは頭からゴーグルを取り外した。遣闘士戦の時に付着したのだろう。レンズは微かに曇っており、その縁には灰色の土埃が入り込んでいた。さすがに指で拭き取るわけにもいかないので、彼はポケットからハンカチを、くしゃくしゃのシワだらけのハンカチを引っ張り出した。
息を吹きかけ、ハンカチでレンズを擦る。曇りが拭き取られる。
「無理もないさ」
再びレンズに息を吹きかけ、マイティは言う。
「任務中に突然姿を消せば、誰だって疑う。普通はな。別に悪いことでも恥ずべきことでもない。至極当然なことだ。気にする必要なんかない。現に俺だって、あの時は“裏切られた”って思ったくらいだ」
レンズの掃除が終わり、彼はゴーグルを頭につけた。
何であんな奴が俺の隊に配属されたんだ? あいつが来なければ、こんな面倒なことにならなかったのに……。
自分が悪いと頭でわかっていても、そう簡単には割り切れない。「あーあ」と溜め息をついて、彼は通路の壁に寄り掛かった。
「マイティ、気にしないでって言うのは無理だけどさ……」
落ち込んだ同僚を励まそうと、彼女は慎重に言葉を選んでいく。
「信じようよ」
「…………は?」
彼女の言葉に、マイティは一瞬呆気に取られた。今、安物ドラマでよく聞く、寒い台詞が流れたような……。
「確かに彼は任務中に姿を消した。その真相は明らかにしないといけない。でも、まだ彼がスパイと決まったわけじゃないわ」
「……」
「拘束中の遣闘士を解放した、あの歩兵。あれの正体がはっきりしていない以上、彼をMALUS繋がりのスパイと断定するのは早すぎる。だから」「……いや、もう十分だろう」
低く、諦めきった声でマイティは否定した。彼の投げやりな態度に、グレイスは驚いた。
「じ、十分って、何よ。あんた、彼の上司でしょ! そんなこと言って……ッ!?」
「グレイス、お前わかっているのか? あの場にいた武装棋士は、俺とキールと、オルカの三人だけなんだ。あれがオルカでなかったら何だ? キールだとでも言いたいのか?」
「それは……」
「俺は彼女がやったとは考えられないな。自分に拘束を仕掛けた相手の耳をもぎ取るようなことをしておきながら、その相手を解放するなんて行動を取るのは矛盾している。となると、遣闘士を解放したのは、やっぱりオルカしか考えられない」
そうだ。本庁でスパイ行為を平然とやってのける、オルカだからこそ、煙幕なんて姑息な手を使ってくるんだ。そうに違いない。なんて奴だ。自分達二人を敵地のど真ん中に置き去りにした挙げ句、遣闘士を逃がすなんて……!
再びオルカを内心でなじり始める彼へ、グレイスは言う。
「でも、マイティ。あんた達三人以外にも武装棋士がいたとは考えないの? 私は映像しか見ていないけれど、あの歩兵が彼がどうかなんて、あの状況じゃ判断しようがないじゃない」
彼女に言われ、マイティは思い出す。周囲に黒煙が立ち込めていた、あの状況を。視界が塞がれた状況下で聞こえてきたのは、「斬ッ」という金属を焼き切る音。今思えば、あの音は遣闘士の手錠を切断した時に生じたものに違いない。あの特殊合金で作られた手錠を断ち切るとなると、かなりの高温を要する。それは――
「RSのプラズマモード、か」
「プラズマモード? どうしてその言葉が今出てくるの?」
「RSを専用武器としているお前なら知っているだろ? 水晶部の抵抗値を操作して、表面に高温プラズマの刃を纏わせる、別名“殺人”モードを。それを使えば、遣闘士の手錠を瞬時に切断できる。そしてそれが出来るのは、俺達の中では――、オルカだけなんだ……」
なんてこった。考えれば考えるほど、ますますオルカが怪しく思えてくる。普通は逆なんじゃないのか?
マイティは壁から背を離す。
「あの歩兵はオルカで間違いないだろ。これだけ根拠があれば……」
更に上司の証言を合わせれば、と内心で続ける。そんな彼の心境を知らず、彼女は呆れ顔を浮かべる。
「根拠も何も……、全部こじつけじゃない。あんた、どれだけ彼を内通者に仕立てたいの?!」
いい加減にしてくれ。お前こそ、どうしてそんなに、あいつを助けたがるんだ? 自分に黙って、陰でコソコソとやっているような小汚ない奴を――。
直接言ってやりたいところであるが、仮に言ったところで話が余計にこじれるのは目に見えていた。苛立たしさを募らせつつも、マイティはなるべく感情を抑える。
「仕立てるも何も……。他に考えようが無いじゃないか。じゃあ聞くが、仮にあの場に俺達以外の武装棋士がいたとして、そいつはどうやって浄水場に来たんだ? MALUSの宣戦布告を受けて、本庁は非常体勢に移行したんだ。そんな時に戦力である武装棋士が、しかも下っ端の歩兵が、桂馬や香車の目を盗んで、自由に単独行動なんてできるわけがないだろ?」
「……確かに、その通りね」
グレイスは視線を床に落とした。
そう、その通り。本庁が非常体勢下に置かれた場合、隊員、特に武装棋士はいつでも出動できるよう、本庁に待機しなければならない。つまり、あの場には自分達三人以外の武装棋士がいないのはもちろんのこと、向かうことなんて出来るはずがないのだ。となれば、やはり上司が睨んでいる通り、内通者はオルカということに――
「普通はそうね、普通は。でも、“あいつ”なら……」
……“あいつ”?
マイティは眉を潜める。
「おい、“あいつ”って何だ?」
彼女は答えない。
だんまり、か。簡単には聞けないことか、あるいは確信の持てないことなのか。話の流れから察するに、あの歩兵に関することだと思うが……。
グレイスは何かを考え込むかのように俯き、質問に答える気配を見せない。人の意見にはやたら否定的な意を示し、自分の意見については、言い出した身でありながら詳細を話そうとしない――その態度がマイティを更に苛立たせた。
苛立ちを募らせた彼がもう一度「おい」と呼び掛けたところで、彼女は再び顔を上げる。
「とにかく! あんなに正義感の強い彼がスパイだなんて、きっと何かの間違いよ。だから落ち込まずに彼を信じてあげて。ううん、信じてあげなきゃ駄目! だって彼はあなたの、
部下なんだから」
その時、それまでマイティの心につっかえていた何かがポロッと取れた。
「簡単に言ってくれるな……ッ」
ギリッ、と歯を噛みしめ、彼はグレイスを睨みつける。
「信じてあげなきゃ駄目、だ? よくもそんなことが言えたもんだ。何も知らないくせに、自分だけ全部わかっているかのような面して……」
「え?」
「いいよな、お前んとこは。上司に噛み付いてくる奴はいないし、ムカつくくらいに偉ぶるような奴もいない」
「マイティ?」
「そんでもって問題起こすような奴もいなければ、上司に隠し事する奴もいない! ほんと羨ましいよ!」
募っていた苛々が次々と吐き出されていく。急変した彼の態度に、グレイスは戸惑う。
「ち、ちょっと、どうしたの?」
「で、なんだ? そのスパイの疑いがかかった部下を持つ俺を冷やかしに来たってのか。はっ、いい性格してるな、全く!」
決壊したダムから溢れ出す水のように、次から次へと罵声が飛び出る。支離滅裂な罵声を浴びせられ、グレイスは絶句する。
「な、何も私は、そんなつもりじゃ……」
だが、マイティは追撃の手を緩めない。勢いに任せて、彼は言い放った。
「前から言ってやりたいと思っていたんだが、お前、見てて苛々するんだよ。強引に世話を焼こうとする、その姿勢が。点数稼ぎのつもりか? いい人ぶりやがって……。大体だな、これは俺の問題であって、“よそ”のお前には何の関係もない話だ! 余計なお世話なんだよ!!」
「……ッ!?」
あ……。
一瞬、泣き出したんじゃないかと思った。
グレイスは顔を伏せ、視線を反らした。
「……ごめん」
微かに震える声で彼女はそう呟いた。
何やってんだ、俺。
我に返ったマイティ。心の奥底で“言ってやった”という妙な爽快感が、“言いすぎた”という罪悪感に一気に塗り潰される。
彼は彼女のさらりとした紫髪や、廊下の白い壁へ視線を泳がせる。
彼女の表情はわからない。
見たく、ない。
「…………ほんとに、ごめん」
呆然としている彼にもう一度言うと、彼女はそのまま小走りで駆け出した。
謝るタイミングを完全に失った彼に、彼女を止める術など無かった。だから、自分の横を走り去っていっても、ただ立ち尽くしているだけに終わった。
彼女の足音が聞こえなくなっても、マイティはその場にいた。
「あの人でしょ? 裏切り者の上司って」
「部下に愛想尽かれる時点で、上司としては駄目な人間なんだろう」
「信頼関係ゼロ、ですね」
たまに聞こえてくる、仲間達のささやき。
チクチクと針で刺されるような錯覚を覚えながら、マイティは思う。
後でちゃんと謝らないと……。
彼女の世話焼きな所に、たまに苛々していたのは本当だが、それによって訓練生時代から何度も助けられているのも本当のことだ。事実、彼女には数えきれないほどの借りがある。
「俺はそれを、最低な形で踏みにじったわけだ……」
自嘲気味に呟くマイティ。
彼は、グレイスが走り去っていった方向とは逆方向へ歩き始めた。
「とりあえず、留置所へ行こう」
話はそれからだ。




