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第14話「決着」




 まっしろ


 何もかも、真っ白だ。

 自分を葬った敵もいなければ、囚われの部下の姿もない。茜色の夕陽も、夕闇の中で瞬く星も見えない。

 真っ白。

 前も後ろも上も下も右も左も、みんな白。

 一面、真っ白。

 白以外何もない。

 でも不思議と恐怖は感じない。むしろ安らぎを覚える。全身から力が抜けていって、何というか、“ぬるま湯”に浸かっているような、ゆったりとした感じだ。


 このままずっと……




「ッ!?」

 突然、轟音が耳を突き抜けていった。

 マイティは我に返った。

「あれ? 俺」

 生きてる?

 この事実に一瞬気を取られるが、マイティはすぐさまあることに気付いた。

 轟音、いや爆発音の音源は――、自身の遥か後ろからだ。爆発音の正体はおそらく屋上の縁にある壁が砕け散った時のものなのだろう。

 ということは、まさか……、

 まさか、外れたのか?

 この距離で?

 身動き取れない自分に、敵は狙いを定めた上で砲を放った。それが外れた、なんてことがあり得ようか?

 マイティはゆっくりと顔を上げる。

 するとそこには、驚愕の色に染まった敵の姿が。

「な、に?」

 何が起きたかわからない、といった感じだ。見開かれた目玉が、ギョロリと斜め下――自身の頬を見ている。

 そこにあるのは、頬を抉る、斜め一文字の痛々しい傷。

 パルヴァティは頬へ手を伸ばす。口元まで伸びた黒い線を、彼は恐る恐るなぞっていく。頬をさする指はそのまま彼の右耳へ着く、はずだった。

 ただでさえ青白い顔が、みるみる青ざめていく。彼の指が、いや彼の腕がプルプルと小刻みに震えだす。

「……耳が、私の耳が」

 今にも消えそうな声を出しながら、パルヴァティは耳を探す。だが、指は虚しく空を撫でるだけ。

 耳は、無かった。

 代わりに耳が本来あるはずのところには、赤黒い何かがぽっかりと口を開けていた。

「私の耳があああああ!!」

 悲痛な叫び声を上げるパルヴァティ。直後、傷口から血飛沫が舞った。

 どうやら根元から抉り取られたらしい。見たところ、敵の耳は焼き切られたようだ。

 いったい何が……。

 と、その時、凛とした声が響き渡った。

「離れて。次は、外さない」

 敵の遥か向こうから聞こえた、彼女の声。

 マイティは目を少し横へずらす。

 茜色の夕陽が彼女の横顔を浮かび上がる。そよ風に髪が揺れ、射抜くような眼光が見え隠れする。そして右手に持った光線(レイ)ボウの銃口が、目と同様に敵へまっすぐと向けられていた。

「キール!」

 驚きと安堵、そして疑問がマイティの中に次々と浮かび上がる。

 彼女はどうやってあの拘束を抜け出したんだ?

「どうやって……」

「貴様、よくも私の耳を……」

 すぐ側から発せられた怨嗟の声に、マイティはハッとした。血滴る側頭部を押さえ、パルヴァティはキールを睨み付ける。

「この女狐が!」

 エアライドが上昇する。

 すかさず光線(レイ)ボウが火を吹き、獲物の耳を抉り取った光矢がパルヴァティへ向かう。だが、彼はこれをエアライドの腹で容易に防いだ。

「く……ッ!」

「二度目は、ありません!」

 空高く昇ったエアライドは宙で一回転し、キールへ腹を向けた体勢に。そのままパルヴァティは彼女へ急降下してきた。

 そうか、あれか。“あれ”にやられたのか! 施設内における戦闘の疑問がようやく解消された。と、同時にマイティは焦った。

 あの攻撃は、射撃主体のキールにはかなり分が悪い。しかも彼女の強化ギプスは「歩兵(トルーパー)」。跳躍力を極端に強化した「桂馬(ナイト)」と違って、常人の身体能力を底上げしたに過ぎない最下級ギプスでは、あの攻撃を避ける術がない。

 事実、彼女が動くとエアライドもそれに合わせて突進コースを修正している。

 どうする? このままでは先の戦闘の二の舞だ。また彼女がやられるのを、指をくわえて見ているのか?

 自分を助けてくれた部下を見殺しにするのか?

「そんなこと……」

 ドクン、とマイティの強化ギプスのケーブルが脈打つ。

「させる、ものか!」

 弾かれるように、彼は立ち上がった。

 身体が、動く!

 彼はショットガンを手にすると、引き金を引き絞る。二つの銃口に光が集まっていく。

 マイティは銃口をパルヴァティが来るであろう位置へと向けた。その射線上のすぐ側にはキールもいる。予測が外れた場合、彼女にも危害が及ぶが、そんなことを心配する時間など無い。

 今、敵の意識は彼女に向けられている。これはチャンスだ!

「チャージ、ショット!」

 引き金から人指し指を離した。

 一際大きく轟く銃声。反動ではね上がる銃身。通常の、数倍のエネルギーが蓄積された光弾が発射された。

 光弾は一直線に飛んでいき、そして――、

 マイティの予測通り、敵が光弾の前に現れた。

「死ね!」

 キールに止めを刺そうと、今、まさに射線上に飛び込んできたパルヴァティ。その彼のエアライドに、光弾が見事命中した。

「何!」

 チャージされた光弾の威力は通常の数倍。出力を抑えていようが、人の命を奪うには十分な威力になっている。その威力をもってしてもエアライドを破壊するには至らなかったが、敵のバランスを崩すには十分だった。

 再びパルヴァティはエアライドから叩き落とされた。エアライドは失速して、墜落する。だが、即座に自動運転に切り替わったそれは、先の戦闘のように不意討ちを仕掛けようと浮かび上がる。

 いや、浮かび上がろうとした。しかし行動に移そうとした瞬間、キールがそれをガンッ、と踏みつけた。

 これで敵の主兵装は封じられた。残るは強化ギプスによる肉弾戦くらいのものか。パルヴァティは反撃のため立ち上がろうとする。だが、後頭部に何かが当たると、瞬時に自身の状況を把握し、身体を硬直させた。

 その彼の後頭部には、二つの銃口が突き付けられている。

 詰みだ。

 毛一つ無いハゲ頭へ、マイティは言う。


「“王手”、だな」


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