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第11話「蛇の尖兵」

 施設の中は、複数の部屋並んでいるというよりも一続きの長い通路のようだった。白色灯の冷たい光に照らされ、大小様々な装置が室内に設置されている。装置の耳障りな作動音を聞きながら、オルカを先頭に三人は奥へ奥へと進んでいった。

「機械類は問題なく作動しているみたいですね。従業員の姿が見えないところ以外は、平常通りってことでしょうか」

 キールの言う通りだった。

 マイティ達は潜入してから、一度も人影らしきものを見ていない。犯行声明では施設を“占拠”したと言っていたが、具体的にはどのようにしたのだろうか?

 ショットガンのグリップを強く握り締め、周囲を警戒するマイティ。辺りにはよくわからない装置しか見当たらない。

歩兵(トルーパー)・オルカに気を付けなさい。“内通者”の可能性があります』

 ふと、上司(メイヴィス)の言葉を思いだし、マイティはオルカの背へ視線を向ける。

「歩兵」と書かれた背部装甲。

 PNPにおける最低ランクを表すこの文字を見て、マイティは考える。

 こいつは果たしてPNPの「歩兵」なのか、それともMALUSの「歩兵」なのか。

 今のところ特に怪しい動きは見られないが、油断するわけにはいかない。上司に言われたから、というのもあるが、「歩兵」では知り得ない情報を知っていたことや、Oブロックの件を考えると警戒せざるを得ない。きっと上司サー・メイヴィスもカメラを通して、彼を見極めようとしているのだろう。

 マイティは首輪のバックルをさすった。


 装置の通路を進んでいく三人。だが、いつ襲ってくるかわからない敵に警戒し続けているせいか、彼らの顔には少しばかり疲労の色が浮かんでいた。キールだけは別だが。

 何も起こらず、無事に通路を抜けると今度は広い空間に出た。

「ここは……」

 マイティは息を呑む。

 そこにあるのは、身長の数倍はある大きなタンク。そのタンクが広間の向こうまで、縦四列に整然と並べられていた。タンクの上部は金属製のパイプで繋がれており、一目でそれが水をろ過するための装置であることがわかる。

 三人はタンクの林の中へ足を踏み入れる。言葉を交わすことなく、黙々と歩いていくマイティ達。聞こえるのは作動音と、互いの足音だけである。

 こうして中程まできたところ、不意に、キールの足音が途絶えた。

「キール、どうした?」

 振り返るマイティ。

 キールは光線(レイ)ボウを構え、辺りを見渡している。いつものほほんとしている彼女が、今は警戒の色を強めていた。

 さっさと進んでいくオルカに半ば苛つきつつも、マイティはキールの側へ寄る。

「どうしたんだ? 急に立ち止まったりして」

「……殺気がする」

 キールは呟いた。

「殺気?」

 一瞬、背筋に寒いものが走った。彼女に言われるまで、そんな事勘付きもしなかった。集中力が散漫になっていたかもしれない。

「いつからだ?」

「さっきから。この部屋に入ってから、ずっと――」

 パチン――。

 部屋の照明が一斉に消えた。タンクの林があっという間に暗闇に塗り潰される。

「何だ、停電か!?」

 パニックに陥るマイティ。

 それまで光に慣れていたせいもあって、彼の視界は完全に失われていた。今、彼の目に認知されるものはタンク上部にある装置のランプと、オルカのRS(ライオット・スタッフ)の蒼白い光だけ――

 のはずだった。

「あれ? オルカ?」

 見えるのは、装置の赤いランプだけ。まさかタンクの陰に隠れているのでは、と二、三度彼の名を呼んでみるが、返事はない。

 確かに先程までRS(ライオット・スタッフ)を両手に、自分の前を歩いていたというのに……。

 あの蒼い光が、見えない!

「あいつ、どこ行きやがったんだ!」

 裏切り、逃亡、内通者、……これらの言葉がマイティの頭の中を占めていく。

「隊長、気をつけてッ!」

 暗闇から聞こえてきたキールの声に、マイティはハッと気付いた。

 人の気配。いや、殺気。

 自分のすぐ側に、誰かが――敵がいる!

 直感的に敵の存在を察知したのと同時に、彼の耳に何かの起動音が聞こえた。高圧電流が流れるような音が。

 振り向いたマイティが見たのは、今、自分に振り下ろされようとする――白く輝く光の剣だった。

RS(ライオット・スタッフ)!」

 咄嗟にショットガンの銃身で敵の打撃を受け止めるマイティ。

 手に衝撃が響く。強化ギプスを身に付けているにも関わらず、これだけの衝撃が来るということは……。

 マイティは舌打ちをした。

 目の前の敵も、強化ギプスを着けている……!

 剣技でいうところの「鍔迫り合い」の状態。黒い銃身は、白いRS(ライオット・スタッフ)と切り結んでいた。

 この時、RS(ライオット・スタッフ)から発する白い光が相手の顔を照らしていた。敵は素顔を隠すためか、バイク用のヘルメットを着けている。だが、そのヘルメット、バイザー以外は、全てに蛇の鱗のような模様が彫りつけてあった。

 まさか、こいつが遣闘士(アンバサダー)なのか?

「悪趣味な野郎、だ!」

 マイティは強引に押し返す。相手は衝撃を受けきれずに、タンクに叩きつけられる。その隙を逃すマイティではない。マイティは相手のヘルメットへ、銃口を向けた。

 が、

「ぐあああっ!!」

 背中に強烈な痛みが走り、マイティは膝を着く。

「もう一人、だと……!?」

 振り返ると、先の奴と全く同じ格好をした人がそこにいた。ヘルメットと同じく、白いケープやズボンに身を包んでおり、いずれも蛇柄であった。

 驚いている暇は無かった。先程押し退けた敵が体勢を立て直し、再び襲い掛かってきた。

 マイティは「桂馬(ナイト)」の能力を使って、空中へ逃げる。

 そのままタンクの上へ避難し、敵を見下ろす。暗闇に目が慣れてきたせいもあって、今では二人が身構える姿がはっきりと見える。

 今度はキールの方を見る。

 彼女もまた敵と交戦していた。いや、交戦というよりは、一方的に逃げているようだ。しかも、彼女は素手だった。

「あいつ、武器どうしたんだ!」

 キールの専用武器である光線(レイ)ボウは、今彼女の手にはない。どこかに落としたのか?

 マイティは目を凝らし、彼女の周囲を見渡す。

 ……あった!

 キールから少し離れた所にあるタンクの根元。そこに転がっている。

 マイティはすぐにタンクから飛び降りる。踵のバーニアを上手く制御して、放物線を描きながら、光線(レイ)ボウの所へ。床に転がっていた光線(レイ)ボウを手に取る。

「キール!」

 キールは敵の一撃をギリギリ避け、マイティの方へやって来た。

 マイティは光線(レイ)ボウをキールに投げ渡す。

 キールがそれを受けとると、二人は互いに背中を向き合わせて、銃を構えた。

 その時、タンクの陰から白い影が次々と現れ、マイティ達を取り囲んだ。起動音と共に、彼らの持つRS(ライオット・スタッフ)が光輝く。その数、十七。

「キール、急所は外しておけよ」

「了解です」

 一斉に押し寄せる、白い蛇達。

 マイティは光弾を、キールは光矢を、彼らに射ち込む。

 キールの腕は正確だった。彼女の放った矢は敵の脚や腕を次々と射抜き、相手の戦意を喪失させていく。

 対してマイティの方は全然駄目だ。狙いは外れてはいないのだが、ほとんど敵に弾き返されていた。

「くそがぁッ!」

 このままでは押し負ける。

 マイティは撃つのを止めると、そのまま敵へ向かって駆け出した。そして、すぐ近くまで来ていた敵の一人に、ショットガンの銃身を叩き込んだ。

 ゴキリ、と鈍い感触が伝わる。銃身は相手の腕に直撃し、骨をへし折った。

 相手はあまりの痛さにRS(ライオット・スタッフ)を落とし、呻いた。

 まずは一人!

 マイティは床に落ちたRS(ライオット・スタッフ)を左手に持ち、次の敵へ。敵の一撃をRS(ライオット・スタッフ)で受け止めると、その敵の腹部へ銃口を押し付けた。

「吹っ飛べ」

 引き金を引く。

 敵の身体は文字通り吹っ飛んだ。無論出力は抑えてあるから、死ぬことはない。

 これで二人!

 マイティはRS(ライオット・スタッフ)を離れた敵へ投げつけた。敵はこれを難なく弾く。が、

「もらった!」

 バーニアで空中から急接近したマイティは、そのまま銃身を振り下ろした。落差を利用した強力な一撃を敵は何とか受け止める。しかし、RS(ライオット・スタッフ)の水晶部にピシリ、と亀裂が入った。

 直後、音を立てて砕け散るRS(ライオット・スタッフ)。銃身はそのまま敵のヘルメットに直撃。脳震盪でも起こしたのか、敵はどさりと床に倒れ込んだ。

 これで三人!

 マイティはまだ残っている敵達へ銃口を向ける。

「さあ、次はどいつだ! 遣闘士(アンバサダー)どもめ!」

 声を張り上げるマイティ。残っているのは、あと九人。敵はマイティとキールの戦闘力を目の当たりにしたためか、攻撃の続行をためらっているようだ。

 キールは彼らに銃口を向け、こう告げる。

「反政府組織MALUSとの共謀、及び浄水施設の占拠。あなた方を、国家反逆の容疑で逮捕します」


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