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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

アイは勘違いから(笑)

作者: ラリクラリ

 物心付く前から、俺には自分の知らない記憶があった。まるで他人のホームビデオをみているような、そんな記憶が。実感の伴わないそれは、いっそ記録と言った方が正しいのかもしれない。そしてどうやら、その記録の本来の持ち主は前世の俺らしかった。

 前世の俺は女だった。一番よく見る記録の中での姿は、10代後半から20代半ばと言ったところ。一度も染めた事の無い髪を長く伸ばし、顔の造りは中の中、良く言って中の上。はっきり言って、何処にでもいそうな感じの平凡さだ。しかし、見る者が見れば同類だと解っただろう。その女が、腐女子と呼ばれる者だと。

 腐女子と言うのは、簡単に言うと男同士の恋愛を好む女の事だ。俺の前世はその中でもかなりマニアックだったらしく、守備範囲が異常に広かった。年齢なら下は法律に触れる少年から上は白髪の爺まで、ジャンルはまともな恋愛モノ―あくまで他に比べればの話だが―から鬼畜モノまでと、健全な青少年には全くもって相応しくない。幸か不幸か、記録であって記憶でないため俺が同性に興味を持つことは無かったが、同時に女性恐怖症にもなったのでちっとも救われない。なんでこんな事になったのかと、いるかどうかも解らない神を恨みたくなった俺だが、心当たりが一つだけあった。


『前世の記憶を持っていけたら良いのに』


 これは俺の前世ではなく、その友人の発言だ。大学時代からの友人で、卒業後は一緒に暮らしていた。ちなみにこの友人は、俺の前世の趣味を理解しつつも腐女子ではなく、ただ小説や漫画が好きなだけの女性だった。俺の前世からの熱烈な洗脳―多分語る相手が欲しかったのだと思われる―をのらりくらりと躱し続けていた猛者でもある。

 この友人は普段から俺の前世と他愛ない与太話をしていたのだが、ある日脈絡無く上記の発言を行い、俺の前世はそれに乗ってこう言った。


『記憶じゃなくて、記録が良い』


 その結果がこれだよ馬鹿女。来世が男になる可能性なんざ微塵も考えてなかったに違いない。お陰で俺の人生歪みまくりだ。過去に跳んで俺の前世をぶん殴ってやりたい。不可能だけどさ。がしかし、元を正せば友人の一言がこの流れを生み出した訳で、であるなら代わりに、いや、正統な恨みとして一発殴らせて貰おうか。何となく、本当に何となく、奴―前世では女だったが―も生まれ変わっている気がする。なら俺が取る選択肢はただ一つ。「探し出してぶん殴る」、これしかないだろ。八つ当たりなどでは全然全く決してない。そう、正義は我に有り。必ず、必ず見付け出してやるからな!





 ここに、このアパートにあいつがいる。苦節八年、漸く俺は生まれ変わったあいつを見付け出す事が出来たのだ。正直、俺自身がそうであるように、容姿は元より性別すら異なっている可能性が高かったので、三年目くらいでちょっと挫けそうになったが、そこは気力で持ち直した。思えばこの八年間、生まれ変わっているのは間違いないのだと、その想いだけが支えだったな。最初はただ漠然とした感覚だったそれは年を経る毎に強くなり、五年目くらいには確信へと変わっていた。今ではもう寝ても覚めてもあいつの存在を感じる。こんなのは初めてだが、前世の知識によりこの感情に何て名前を付ければ良いかは知っている。そう、これは、恋っ。同じ大学だったのはもう運命としか言い様がない。俺の前世があいつの前世と大学で初めて出逢ったように、俺もあいつと此処から一歩を踏み出すのだっ。

 落ち着かない胸に手を当てて深呼吸。震える指でチャイムを押す。鳴り響く無機質な電子音すら、俺には祝福のベルに聞こえた。そして待つこと数秒、扉が開かれる。顔を出したのは俺より少しばかり背の高い男。俺と同じく、こいつも男に転生していたのだ。こんな事にすら悦びを感じてしまうなんて、我ながらロマンチックな思考だよ。

 男の黒髪は前世と同じく艶やかで、触ればサラサラしているだろうと予想が付いた。垂れ気味な眦は色っぽく、誰が見ても文句無しの美形である。

 僅かコンマ一秒足らずでこれだけの思考を巡らせた俺は、あまりの良い男っぷりに用意していたセリフが全部すっぽ抜けてしまった。代わりに出たのはこれだけ。


「お前が好きだ!」


 自分でもやってしまったとしか思えない。もっと色々気の利いた言葉だって当たり障りの無い話題だって用意していたのにっ。悔やめども覆水盆に返らず、時間は巻き戻せないのだからこれから挽回するのみだ。とにかく今は相手の反応を窺う。俺の唐突な告白に、向こうはたっぷり三拍は間を置いてからこう答えた。


「…………は?」


 いや、無理もない。俺だって玄関開けた次の瞬間、見覚えの無い奴に告白なんかされたらロクな反応が出来ないだろう。よし、なら取り敢えず、俺の事が解るか確認しないとな。何となく、大丈夫だろうと思ってるんだが。


「突然叫んで悪かった。あのさ、俺が誰だか解る?」


 未だ衝撃から立ち直れていないらしい男に声を掛けると、まじまじと俺を見詰めた後、ふと思い当たったように呟く。


「ひょっとして……?」


 やっぱ解るのかっ。思わず抱き着きたくなるのを、また驚かせてはいけないからと自制する。でもちょっと眼が熱い。視界が滲みそうになるのを瞬きで防ぐ。折角の出逢いのシーンをぼやけさせたら勿体無いからな。


「俺だよ、前世でお前の親友だったK.Y.の生まれ変わりだっ。お前はT.A.だろっ!?」


「そうだけど……本当にK.Y.なのか? お前も男に転生してたのか」


「ああ、今は拓哉って言うんだ。お前は?」


 名字は表札で解るんが、名前は解らない。もっと早く気が付いていれば大学で話し掛けられたんだがな。一度タイミングを逃したせいでストーカー紛いの行動を取る羽目になった。今思い出しても不覚だ。


「俺は真司だ。ところで、どうやって俺の家を?」


「大学で見付けてさ、でも話し掛けるタイミング逃しちゃって、それで追っ掛けてみた」


「へぇ、そうなんだ……。それで、拓哉は俺に何の用があってここまで来たんだ?」


 うぉっ、今名前呼ばれたよっ。やばい超嬉しいかもしれない。って、感動してる場合じゃないか、質問に答えないと。


「そりゃ決まってる。お前に、真司に告白するためだ」


「…………ちょっと良いか」


「何?」


「拓哉は前世の記憶を自分の物として持ってるのか?」


「いや、完全に他人事。でも自分の中に他人の一生分の記録があるって、かなり変な感じだよな」


 一生と言っても、最初と最後は無い。俺が引き継いだのは、前世の自我がハッキリしている間の記録だけなんだろう。


「俺は面白いと思うけど……じゃなくて、それで何で俺に告白なんてしようと考えるんだよ?」


 何故と言われても、答えようがない。ただひたすらT.A.の生まれ変わりを探して、探して、探し続けて、ふと気が付けば俺は最初に探そうと思った理由を忘れていた。それでも探さないといけないって想いだけは残ってて、T.A.の生まれ変わりに逢うこと自体が目的になったんだ。


「俺、理由は覚えて無いけどお前を探さないとって思いがあったんだ。その内、寝ても覚めてもお前の事考えるようになって、それで解ったんだ。これは、恋だっ! って」


「それは無い」


「即否定っ?! なんでだよ!?」


 あっさりと首を横に振られて大ショックだ。くっ、これがリアルツンデレと言うものか。想像以上のダメージだ。


「生まれ変わった今の俺を知らないのに、恋もへったくれもないから。前世の俺に恋したって訳でもないんだろう?」


「真司の前世に恋とか無いわー」


 俺の前世だって親友としてしか見ていなかった―寧ろ別の何かを持ってる方が問題だ―し、俺はそもそも女性恐怖症。ハッキリ言って有り得ない。


「大体、真司と前世は別人だろ。俺はそんなの関係なく真司が好きなんだよ」


「だからそこがおかしいんだってっ。なんで会った事もないのに好きだとか言えるんだっ。俺を探そうと思った理由をよく思い出してみろよっ」


「そんなの真司に逢うためだろ。俺、真司の存在をずっと感じてたんだ。なぁ、もっとお前の事が知りたいんだよ。教えてくれ、真司」


 押しに弱いのかして、詰め寄るとたじろいで後ずさる。よし、玄関の中まで侵入成功。これでよっぽどの事がない限り、締め出されるなんてことは無いだろう。本気で追い出しに掛かられたら抵抗するのは難しそうだが、何となくそれは無いと思うから大丈夫だ。


「ちょっ、待っ、落ち着けー!」


 さて、こっからどうやって落とすかな?


 これの友人サイドを友人が書くとか書かないとか……。読みたいと言う奇特な方がいらっしゃいましたら、友人の方へ催促のメッセージをどうぞ。お気に入りユーザーから行けますので。

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― 新着の感想 ―
[一言] おもしろかったっす!! ヤバい!!萌えた!! 押しの弱いとこに萌えた!!
[一言] どうも…。どっちサイドからも読ませていただきました。 面白いです。陳腐なほめ方で申し訳ないですが、これ以外に言葉が浮かばなかったのでこれにさせてもらいました。 ちなみにいまだニヤニヤが止まり…
2012/04/03 17:06 退会済み
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