vol.9 隠者あるいは揺れる想い。
「用事済んだんだったら、帰ってよ?僕、そろそろ塾だから」
「そっか…。じゃ、悠帰るかー?」
「あ、あぁ…だな…」
2人は重い腰を上げて、貴の家を後にした。
「後少しだよ…愛…」
2人を見送った後、貴は妖しく呟いた。
「つーか、マジでお前何しに来たの?」
帰り道、聖が悠に尋ねた。
悠は面倒くさそうに聖を見ると、口を開いた。
「別に。聖こそ何してたんだよ?」
「俺?俺はゲーム借りに行ってたんだよ」
「で、ゲームは?」
「っ!忘れた…」
「お前、ほんとバカな」
「悠に言われたくねーよっ」
2人はそんな事を言いながら家への道を歩いていた。
聖は、貴が愛から受け取っていたノートの事は忘れていた。
しかし、悠は聖と軽口を叩き合いながらもあのノートの事を考えていた。
俺、マナが詩なんて書いてるの知らなかったな…。
漠然と、マナの事は俺が1番知ってるって思ってたの、間違いだったのかもな…。
貴に言われた一言が、心に重く残っていた。
「僕、悠より愛の事知ってる自信あるから」。
自分の知らないマナが、そこには描かれているような気がした。
「悠?入んねーの?」
聖に声を掛けられ、悠は我に返った。
いつの間にか、自宅の前に居た。
どれだけマナの事を考えていたのだろう…。
「あ、悪ぃ…」
聖は素直に謝る悠を不思議に思いながらも、後を追って家に入った。
真っ白な月が出ていた。