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...恋ノ詩...  作者:
8/16

vol.8 君からの贈り歌。

「なぁ、何?それ」


愛が帰った後、貴は愛が置いて帰ったノートを読んでいた。

聖が指差したのは、その貴が読んでいたノート。


「あー…これは…」


貴が言い掛けた途端、携帯の着信音が言葉を遮った。


「誰だよ?またメール?」

「いや。電話」


「ごめん」と言って、貴は携帯の通話ボタンを押した。

聖は、所在無さ気に貴の部屋の本棚に視線を走らせた。

医学と宇宙、ドイツの哲学史、戦争に見るヒトの欲望…。

難しそうな書名が所狭しと並べられている。


相変わらず訳判んねぇ本ばっか…。


聖は、本棚の隅まで視線をやった。

そこで、右典の視線は一時停止した。

…というより、フリーズした。


“夢物語”。

そう記された本が、他の本に混ざって並べられていた。

聖がそれに手を伸ばした時、貴の電話が終わった。


「聖」


貴の声に、聖は伸ばしていた手を止めた。

今日はよく動きが止められる日だ…。


「外見て」

「外ぉ?何で…」


ぶつぶつ言いながらも、聖は貴の言葉に従い、窓を開けた。

外に立っていたのは――………自分の弟だった。


1分後。

悠は貴の部屋に居た。


「やれやれ。今日は突撃お宅訪問の日なの?」


頭の良い割りに、少し他人とずれている貴が、2人は好きだった。

聖は悠に意味深な顔を向けて笑い、貴は溜息を吐いた。


「…意味判んねぇ。んな事より。貴、これ」


悠は、ポケットから8ツ折にしたルーズリーフを取り出し、貴に渡した。

聖も、渡されたルーズリーフを横から覗き込んだ。


「これ…」

「またか…」


聖は息を呑み、貴は再び溜息を吐いた。

悠にルーズリーフを返しながら、貴は言う。


「で?これがどうかした?まさか、悠も意味が判んないとか言わないよね?」

「『悠も』?」


貴の質問には応えず、悠は疑問に思った事を口にした。


…やれやれ。

いつもの事だけど。


貴は心の中で呟いて、悠の質問に応えた。


「さっき、悠の『姫』が来たんだよ。同じように、夢で見た短歌持ってね」

「は?マナ、貴と知り合い?…あ、でも、家隣か…」


悠は貴の家の前に来た時の事を思い出した。

最近も見た景色だ、と思っていたら、着いた所はマナの家の隣。

不思議な偶然もあるものだ。


「愛とは幼馴染なんだ。今は、突発的に家庭教師やってる」

「「突発的?」」


聖と悠が声を揃えて言った。

…流石双子。


「聖は見たと思うけど。愛は、あぁやって急に来るんだよ。一応、部屋に入る直前にメールくれるけど」

「ふーん…」

「てか、ちょっと待って。アイツ、『アイ』っていうの?」

「「はぁ?」」


今度は、貴と聖が声を揃えた。

この3人、余程気が合うらしい。


「知らなかったの?」


と、貴が呆れ顔で問えば。


「あーあー、姫可哀想ー」


聖が大きな声で悠を(ナジ)る。

仲が良いのか悪いのか。


「知らねぇよっ。『アイ』って『愛』?」

「うん、そう。『愛』」

「あ…だから、『マナ』なのか…」

「どういう意味?」

「アイツ…夢の中だったら『マナ』って名前なんだよ。多分『愛』って書くんだろうな」

「あー…そうかもね」

「てか、姫の事は良いわ。お前、何しに来たんだ?」


聖が、やっと話を元に戻した。

悠は、忘れていた、とでも言うように、もう1度さっきの紙片を出して言った。


「これな、さっき寝てたら夢に出て来たんだよ。で、意味は判るんだけど、作者が判んなくてさ…」

「悠も、小倉百人一首知ってるんだ?」

「知ってるも何も…。毎年毎年、冬期休暇明けてすぐ百人一首やらされたらなぁ?覚えるわ」

「けど、姫は知らなかったよなぁ?」


聖が貴に振ると、貴も頷いた。


「はぁ?マナ、知らねぇの?」

「知らなかったぜ?さっき、訊きに来てた時も俺が言って初めて気が付いたみたいだし」

「へー」

「何だよ、その気のない返事」

「だって、俺、聖が知らねぇマナ知ってんもん」

「あー、自慢のしあいなら家でやって。てか、そんな勝ち誇ってるけど、僕、悠より愛の事知ってる自信あるから」

「や、俺のが知ってる!!」

「どっちが付き合い長いと思ってんの」

「だー!!!どっちでも良いわ!!話戻そうぜ」

「そうだね。悠、もう1回紙見せて」

「ん。ちょぉ、本貸して」

「どーぞ」


貴は再び歌を読み始めた。


「有馬山…」

「『猪名の笹原 風吹けば いでそよ人を 忘れやはする』」

「聖、覚えてんの?」

「これはなっ。俺が最初に覚えた歌だから」

「へぇー…」


『有馬山 猪名の笹原 風吹けば いでそよ人を 忘れやはする』。

意味は…

『有馬山から猪名の笹原に風が吹くと、そよそよと笹がそよぐが、さあそのことだ、私は決して貴方を忘れはしない』。

その後に、こういった文が続く。

『貴方の心変わりこそ心配なのだ』。


貴は、それを悠の持って来た紙に書き始めた。

それを横で見ていた聖が、悠に聴こえないようにそっと呟く。


「これ、まんま姫の歌じゃん…」

「そうだね…」


その時、悠は嬉しそうに声を上げた。


「あーこれだっ。第弐三位?紫式部の娘かっ」

「へぇ…この歌の作者、紫式部の娘なんだ?」

「みたいだぜ。ほら」


欲しがっていたおもちゃを手に入れた子供のように、悠は開いているページを聖に見せた。

貴は、そんな2人を微笑みながら見つめ、読みかけていた愛のノートを手に取った。

その貴の様子に気付いた聖が、貴に言った。


「あー貴っ。それ、何なの?さっきも訊いたけど」

「あ、そうだったね。誰かさんのせいで、応えられなかったけど」


貴はちらっと悠を見た。

何も知らない悠は、きょとんとして貴を見る。


「で、何?」


聖が、興味津々で尋ねてくる。


「これはね…愛の(ウタ)

「歌?」

「違うよ。『詩』。愛、詩ぃ書くの趣味なんだよね」

「へぇー…そうなんだ。俺にも見…」

「駄目っ」


聖が言い終わる前に、貴が拒絶した。


「えー?何でよ?」

「愛に了承得てないし、これを見て良いのは、僕だけなのっ」


貴は可愛らしく膨れると、机の引き出しにそのノートを仕舞い、鍵を架けた。



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