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...恋ノ詩...  作者:
7/16

vol.7 あなたからの贈り歌。

次の日から、私は生活は一変した。

って言っても、放課後だけだけど。

放課後は、いつもハルカが教室まで迎えに来てくれた。


「マナー帰るぞー」

「あ、ちょっと待って」

「何してんの?トロいなー…」

「そんな事言われてもぉ…」

「もー…鞄貸せっ」

「え?」

「これで持って帰んの全部?」

「う、うん」

「そっ。じゃ、帰ろー」

「わー待って!!鞄っ」

「俺が持ってやるよ。姫に鞄なんか持たす訳にはなぁ?」

「ちょ、ハルカ!!」

「手ぇ空いてるんだったら、これ持ったら良いんじゃん?」

「ふぇ?」


私の手には、大好きな人の手。

温かくて、しっかりと私の手を握ってくれる。


「帰りましょうか、姫」

「だから、姫は辞めてよぉ!!」

「だって、『マナ姫』じゃ〜ん」


これが、私の日常になった。

当たり前だけど、私とハルカが付き合ってるって噂が流れるまで、そう時間は掛からなかった。


「ねぇ、聴いたぁ?」

「悠先輩と愛でしょっ!?」

「あの2人って何か接点あったっけ〜?」

「悠先輩が、ナンパしたらしいよっ」

「マジでー?ショック〜…」

「けど、愛って悠先輩に興味無さそうだったのにね」

「だよねーっ。学校でも、全然話に乗って来なかったじゃん。まぁ、話した事無いけど」

「何で付き合ってんだろ、あの2人」

「けど、告ったのは悠先輩なんだよねぇ〜」


…違います。

皆、かなり誤解してる。

まず、私と先輩…あ、違うや。ハルカは付き合ってません。

ハルカが私をナンパした訳でもありません。

ただ、同じ夢を見てるから…。

それだけです。

そう…私とハルカはそれだけの関係…。

所詮、私とハルカは『夢物語』なの………。


「マナッ。マナッ」

「んー…?」

「起きろ。もう帰んねぇとダメだろ?」

「まだ寝る…」

「此処はお前んちじゃなくて、俺んちっ。そんな、ずっと居られたら困るし」


ハルカにとったら何気ない言葉でも、私には鋭いナイフのよう。

ハルカの知らない間に、私のココロは血を流す…。


「今日はどんな夢だった?」

「何か…歌貰った」

「歌?」

「うん…。短歌っていうの?」

「あー…短歌ね。覚えてる?」

「…多分」

「じゃ、今書いて…って無理か?今日はもう帰らねぇとヤバいし」

「…うん。じゃぁ家で書いてくる」

「サンキュ。送るわ」


ハルカは私の手をとり、いつものようにバイクに乗せた。

嬉しいけど。

すっごい嬉しいよ?

ハルカと一緒に居られて。

バイクに乗って。

恋人同士みたいじゃん?

…けど、私達は結局『みたい』で『恋人』にはなれないんだね…。


「えっと…つくばねの…」


私は家に帰って、今日見た夢の話を纏めていた。

纏めていたっていうか…ただ、憶えてる事をノートに書き出してるだけなんだけど。

今日は、歌が凄く印象的で。

1番強く残っていた。


『つくばねの 峰より落つる みなの川 恋ぞつもりて 淵となりぬる』


どういう意味だろう…。

“恋”って字があるくらいだから…恋の歌?

あー…誰か意味取れる人居ないかな…。


私はベッドに寝転び、暫らくその歌を見つめていた。

ふと、隣の家の窓の灯りが瞳に映った。


「居るじゃん。あそこに」


私はノートを持って、部屋を出よう…あ、忘れ物っ。

もう1冊のノートを掴んで、私は部屋を出た。


目的地はすぐ。

いつものように、挨拶をして2階に上がった。

私の眼の前にあるドアの内側から、笑い声が響く。

私は、あらかじめ打ってあったメールを『ある人』へ送信した。

すぐに、部屋の中から着信音の音が漏れる。

ゆっくり10秒数えてから、私は眼の前のドアを開けた。


「久しぶりー」


部屋の主――私のメールの受取人なんだけど――は、ふわりと笑って私を部屋へ招き入れた。

その隣には、ちょっと怖そうな男の人。

………あれ?

この人…見た事ある…。


「貴〜?誰、これ」


…はい、決定。

私この人無理。

初対面の人間に向かって指差すなよ。


「愛だよ。こっちの方が判る?悠の…」

「あー!!!姫!?」

「そう。で?愛、どうした?」


てか、姫って何。

てか、『ハルカ』って何よ。

私はさっぱり意味が判らなかった。


「…ちょっと、貴兄ぃに訊きたい事があって」


取り敢えず、この煩い男は無視。

私は、貴兄ぃに持っていたノートを見せた。

その間も、さっきの失礼な男は話し掛けて来る。


「へぇー…お前が、姫?俺、聖っていうの。悠の双子の兄貴ー…って知ってるか」


最後の言葉に、貴兄ぃ向いていた私の全神経が集中した。

は?

今、何て言った…?


「あー…愛は初めてか。コイツ、聖ね。悠とは双子なんだ。学校同じだろ?」


私は首を振るのがやっとだった。

でも、見た事がある…?

そんな訳無いか。

いつも、すぐに部屋に通されて、暗くなるまで部屋から出ないんだから。

…あっ、でも、だから、どっかで見た事ある顔だと思ったんだ…。

瞳がちょっとハルカよりキツいけど…似てる…。


「初めまして〜。聖ですぅ。よろしくなぁ、姫」

「…何で、姫なんですか?」

「あ、敬語使わなくて良いって。俺も悠から話聴いてんから。夢に姫が出て来るーって」

「貴兄ぃとは…?高校、違いますよね…?」


聖君の制服は、ハルカと同じ。

やっぱり私の先輩なんだ…。


「だから、敬語使うなって。街で一緒に居るようになってさ。仲良くなった」

「愛、判ったよ」

「え?」


貴兄ぃは、掛けていた眼鏡を外してノートを私に戻した。

聖く…先輩が、ノートを取って読み始める。


「つくばねの…?み、ね、より…」

「『つくばねの 峰より落つる みなの川 恋ぞつもりて 淵となりぬる』。大体、こんな意味だと思うよ」


貴兄ぃは、聖先輩から「ちょっと貸して」と、ノートを受け取ると、慣れた手付きでさらさらと何か書き始めた。


ノートに書かれていた歌の大意は、私が思っていた通り、恋の歌だった。


『筑波山の峰から流れ落ちる男女川の水が積もり積もって淵となるように、私の恋心も積もり積もって、深い恋の淵となった事だ』


「筑波山の峰から流れ落ちる…」

「男女川の水が積もり積もって淵となるように…」

「私の恋心も積もり積もって、深い恋の淵となった事だ?」

「うん。聖、何で疑問系で読んでんの?」

「やー…。何か、こっちが恥ずかしくなる短歌だな」

「そりゃ、恋歌だもん」

「凄いね、貴兄ぃ。こんなの、すぐに判るなんて。流石某有名難関私立大付属高…」

「最後の方、漢字ばっかだよ」


貴兄ぃはふわりと笑って、ノートをくれた。


「これ、僕が意味取ったんじゃないよ?」

「え?違うの?」

「うん。てか、これ、どうしたの?」

「今日見た夢に出てきた。何か、この歌の印象が凄い強くて…」

「ふーん…。これがねぇ…」

「なぁ?これって、小倉?」

「うん、そう。聖、よく知ってんね」

「俺の学校、百人一首やるし。大体は覚えてる」

「凄いねー…」

「…うちの学校、百人一首なんかするんだ…」

「は!?知らねんだ?」

「学校行事には興味無いから…」

「あー…。姫、そんな感じだもんな。俺の事も知らなかっただろ?」

「うん」


聖先輩と貴兄ぃは、顔を見合わせて笑った。

へぇー…ホントに仲良いんだ…。


「愛、好きな人とか居ないの?」

「ぇ…」

「あ〜、その反応は居るんだぁ?」

「マジかよ!?誰々!?」

「〜〜〜〜〜〜っっ!!貴兄ぃ!!」

「あはは、ごめんごめん…」


貴兄ぃは、笑いながら私の頭に手をぽん、と乗せた。

むー…いつまで経っても妹扱いだなぁ…。

まぁ、いきなり女扱いされても困るんだけどさ。

………貴兄ぃ見てると、怒れなくなっちゃうんだよね。


「で、誰?」


…前言撤回。

反省の色無し。

絶対楽しんでる。


「当ててみようか?」

「え?」


本気とも冗談ともつかない瞳で、貴兄ぃは私を見た。

聖先輩も、私のほうを見てニヤニヤしてる。

もーっ!!

何なのよっ!!


「悠。でしょ?」

「ぁ……………ぅん………」

「マ〜ジかぁ!!悠ぁ!?姫、アイツの何処が良んだよ?」


聖君が嬉しそうに、ニコニコ笑いながら訊いて来た。

貴兄ぃも、相変わらず微笑んでるし。

…何か、完璧遊ばれてない?私。


「何処かな…。そんなの考えた事無いから…」


それでも、律儀に応えちゃう私って一体…。


「あ、それって本気で好きって事だよ」

「だなっ。気が付いたら好きになってたんだろ?」


私は黙って頷いた。

耳まで紅くなってるのが判る。


「姫、可愛い〜っ!!!食いたいっ」

「食うなよ」


すかさず貴兄ぃが突っ込んだ。

珍しいな、貴兄ぃが突っ込むの。


「まぁ、頑張りなよ。応援するから」

「おぅ。俺も応援するわ」

「ぁりがと…」

「じゃ、そろそろ帰りなよ?もう遅いし。あ、後、それは置いてって」


貴兄ぃは、私の持っていたもう1冊のノートを指差して言った。


「判った」



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