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...恋ノ詩...  作者:
5/16

vol.5 夢への誘(イザナ)い

「話そうとしたら、逃げてくし…」

「ご…ごめんなさい…」


廻りのざわめきが一層大きくなった。


「えっ!?」

「嘘…」

「先輩が!?」


反応はそれぞれだけど、どれも“意外”って言葉が存外に表れてる。

…まぁ、かっけぇしね。この人。

苦労して彼女作んなくても、廻りの女が放って置く訳無いよね。

けど、何でこの人、私がこの学校だって…しかも、2年だって判ったんだろ…。


「お前、俺が何でお前の事判ったか考えてるだろ?」

「ふぇ?」


うわ、間抜けな声。

私、考えてる事が顔に出てんのかなー…。


「此処で話すのも、あれだしなー。帰んぞ」

「え?」

「ほら、行くぜ。鞄持てよ」

「あ、はいっ」


廻りの痛い視線を浴びながら、私はこの怖い人の後を追った。




「入れよ」

「え…でも…」


不思議そうな顔をして、私を見るこの人。

何で私が躊躇(タメラ)ってるかって?

そりゃ――………。


「遠慮してんの?別に誰も居ねぇし心配すんな?」

「や、だから、それが嫌なんですってば」


…なんて言える訳無いでしょうが。

私は、言葉を飲み込んだ。

私にだって、“知らない人について行っちゃいけません”て常識ぐらいある。


「早く入れって。…あ、もしかして怖がってる?」


その人は自分の荷物を置いて、私の所へ近付いて来た。

こ…怖いよぉ…。

何で私この人に声掛けたんだろう?

や、夢に出てきた人とそっくり…っていうか、同じ人だったからなんだけど。


「別に何もしねぇよ。ごめんな?怖がらせて」


軽く微笑んで、その人はすまなさそうに私の顔を見た。

あ…微笑うと結構優しいんだ…。

私はその笑顔を見て少し安堵した。

そして、その人の横に並んだ。


「お邪魔します」

「どぉぞ。何も無いけどな」


その人はまた笑って、私を部屋へ通した。


「これから変な事訊くけど、驚いたりすんの止めてな?」


そう念を押して、その人は喋り始めた。

この人も、もしかして私の事…知ってるんじゃ…?


「お前、俺の名前知ってるだろ?」


やっぱり…。

やっぱり、この人は『ハルカ』だ。


「…多分。知ってます」

「言ってみ?」

「『ハルカ』…」

「やっぱな…。お前は『マナ』?」

「や…。違います」

「え?(チゲ)ぇの?けど、俺の名前…あ、でも、学校の女は大概知ってるもんなぁ…」


髪にその長い指を通し、髪を掻き毟る眼の前の人。

何?“学校の女”って…この人、うちの学校の人なの!?


「え、うちの学校の人なんですか?」

「……………は?」


3秒ぐらい間が開いて、その人は反応した。

え?私、変な事言った?


「ふっ…あはははははっっ」

「え?え!?」

「はは…っあはは…ぎゃはははは!!!」

「え?何ですか…?」


ずっと笑い転げてるその人に、尋ねてみたけど返って来るのは笑い声だけだった。




「ぁー…笑った笑った。久しぶりにあんだけ笑ったわ…」


涙を拭きながら、漸くまともにその人は話し始めた。

涙まで流すなんて、酷くない?

殆ど初対面に近いのに…。


「あー、ごめんな?マナがあんまり面白(オモシレ)ぇ事言うから…」

「何か言いました?」

「うちの学校って…。当たり前じゃん。俺、同じ制服着てるっしょ」

「ぁ…」


ホントだ。

その人をまじまじと見て気が付いた。

私と同じブレザー、男子と同じズボンを履いてる。

ただ…ネクタイの色は違うけど。

私は水色。

だけど、この人は紺のネクタイをしていた。

うちの学校は学年によってネクタイの色が違う。

1年は紺に水色のストライプ。

2年は無地の水色。

3年は無地の紺。

…て事は、この人3年!?


「先輩だったんですか!?」

「だから、そう言ってんじゃん?マナ、天然だなー」

「でも、何で私の事…?」

「一緒だって。カラオケで、マナ制服だったろ?それで、同じ学校の2年て判った」

「そうだったんですか…」

「そうだったんだよ〜」

「真似しないで下さいよっ」

「や、マナ俺のツボだわ〜。面白ぇ!!」

「そんなん言われても、嬉しくないですって!!」


いつの間にか、『マナ』と呼ばれるのに慣れた自分が居た。

私は『マナ』じゃない。『アイ』なのに…。


「そんでな?俺がマナを呼んだ訳。判るか?」


先輩は、急に真剣な眼つきをして言った。

きっと…きっと、先輩も…。


「はい…判ります」

「マナ、俺と同じ夢見てる」

「先輩は…『ハルカ』なんですね…」

「そう。最近、その夢ばっか見んだよ。マナの夢ばっか…」

「私も、先輩が出て来る夢よく見ます。ここんとこずっと」

「俺ら、前世で何か関係あったのかもな?」

「前世?」

「輪廻転生の考え方だよ。人間は死んでも来世でまた人間として生まれてくるって奴」

「あー…何か聴いた覚えがあるかも…」

「古典で習わなかったか?社会でも良いけど」

「古典の時間は寝てますんで…」

「おま…寝んなよ、マナ」

「すいません…」

「まぁ、俺もマナの事言えねぇけど。でさ?1つ提案があるんだけど」

「何ですか?」

「俺ら、一緒に眠らねぇ?」

「……………………えぇぇぇ!!!???」

「反応、遅っ」


また笑った。

本当に、私は先輩のツボらしい。


「別に何もしねぇよ。一緒に寝たら同じ夢見るかもしんねぇじゃん?何であんな夢見るのか、知りたくねぇ?」

「…興味はあります」

「それだったら、決定な。放課後、迎えに行くから帰りにうち来て寝よ?」

「それで、どうするんですか?」

「お互いに見た夢話すんだよ。そうしたら、もっと2人の関係が判ってくるだろうし」

「そう…ですね」

「決まりな」


先輩は私の頭をぽんと(タタ)いて、にっこり笑った。



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