vol.3 幻想夢。
部屋を出ると、当たり前だけどさっきの男の人に姿は無かった。
エレベーターの中にも、ロビーにも、あの人の姿は見当たらない。
きょろきょろと辺りを見回す私を見て、友達は例の悪戯っぽい瞳を私に向けて言った。
「どうしたの?好きな人でも居た?」
「馬………っ。んな訳無いじゃんっ。大体、私好きな人居ないし」
「や、だから、此処で格好良い人でも見て、一目惚れしたのかなーって」
「そんな事言ってると、私帰るよ?」
「あー、ごめんっ。嘘嘘っ。冗談だからっ」
「…ま、許してやるか」
「愛、何様よ」
「え?…女王様?」
「何言ってんのー」
私達は、支払いを済ませた後ファミレスに向かった。
遅めの夕食を食べて、別れた。
「ごめんっ。今からデートなんだよねぇ」
「そういうのは、先に言ってよ」
「だから、ごめんてばっ。お詫びに此処奢るから」
「ご馳走様っ。デート、楽しんできなよ」
「ありがとっ。じゃ、また学校でね」
要するに、私は時間潰しだった訳だ。
…ま、別に良いけど。
私はマンションの鍵を開けて、そのままベッドに倒れ込んだ。
眠いー…。
「遼榎様…」
「また…泣いていたのですね」
「お逢いしとうございました…」
「私もです…愛姫」
「今宵はずっと共に居られるのですね」
「そうですよ。さぁ、もう泣かないで。その美しい顔が涙で濡れるのは、私には耐えられない」
「遼榎様…。愛は…ずっとお慕い申し上げております」
「私もです。愛姫。貴女を、早く妻に迎えたい…」
「今宵、共に過ごし、次は…いつお逢い出来るのでしょう…」
「今、私が此処に居るのに、そんな話は止しましょう。愛姫…私から離れないで下さい…」
「私が貴方様から離れるなど…。御仏様の元に行かない限り、ございません」
「共に極楽まで参りましょう。さぁ、もう中に入りましょう。冬の空気は貴女には厳し過ぎます」
あ…あの人だ………。
今日見た、あの人…。
今度は、深い海の色の着物を着てる。
その人が、私のすぐ傍に居る…。
名前…ハルカ……って言ったよね?
私は、誰…?
「愛姫…私の想いを、どうすれば貴女に判って貰えるだろう…」
ハルカが、眠っている私の傍で囁いた。
…え?
『眠っている私の傍』?
じゃあ…私は………マナ姫?
「また…私の想いを文に託します…」
ハルカはそっと床を抜け出し、私の傍から消えた。
え?
ちょっと待って。
意味判んない…。
これ、どう見ても現代じゃないよね?
…てか、現実でもない。
多分…夢。
で、多分…これは、平安時代。
でも、ハルカは………。
pipipi...pipipi...
「ん…」
ケータイのアラームで眼を覚ました。
ぼーっとした頭で、今日の日付を確認する。
休みじゃん…。
もっかい寝る…。
私は、再び眠りの世界へ堕ちて行った。