vol.2 『再会』という名の出逢い。
オレンジから濃紺に変わる空の下。
いつものカラオケ屋に到着。
「お時間は?」
「時間…愛、何時間ー?」
「そっちが決めなよ。言い出しっぺじゃ〜ん」
「ん〜…じゃあ、フリータイムで」
「畏まりました。21号室にどうぞ」
マイクの入った籠を受け取り、私達はエレベーターで4階へ向かった。
「愛、何歌うー?」
「何で私が最初?」
「…ま、良いから良いから」
「はぁー…」
適当にリモコンを触りながら、新曲を入れた。
…てかさ、何で皆私とカラオケ来たら、私を1番に歌わせる訳?
意味判んないし。
そうこうする内に、私の入れた曲のイントロが流れ始めた。
「次、絶対曲入れてよっ」
「判ってるって〜」
「私、歌い終わったらトイレ行くから」
「えっ………」
「『えっ』じゃないから」
宣言通り、私は1曲目を歌い終わると席を立った。
「すぐ戻ってきてよー。1人で歌ってるの空しいんだからっ」
「…じゃ、私以外にも誘えば良かったのに」
「誘ったけど、都合つかなかったの!!とにかく、早くねっ」
「はーい」
私は部屋の外に出た。
外では、私がさっき歌った曲が掛かっていた。
「うわ、偶然…」
しかし、この後起こる偶然を、私は知らない。
カラオケかー…。
今日、もしかしなくてもオール?
…ま、明日休みだし。
てか、休みじゃなくても、学校なんか行ってらんないし。
詰まんない。学校って。
高校って、何の為に行くの?
トイレから出て、私の眼に飛び込んだ光景に、私はこの世の全てを疑った。
………は大袈裟か。
けど、それぐらい驚いた。
私の眼の前には、何故か記憶に残ってる男の人。
さっき、どんな夢を見てたのかは憶えてないけど、1つだけ憶えてる。
淡い、グリーンの着物を着た、男の人。
その人が、今。
私の眼の前に居る。
………流石に、着物は着てないけど。
「ぁの――………っ」
「あ?」
思わず声を掛けた。
………けど、後悔した。
怖っ。
すっごい、怖い。
もしかしなくても、私、睨まれてる…?
「お前…」
声も怖いよー……。
呼ばれた瞬間、私は踵を返して、部屋に戻っていた。
「あいつ…」
その男の人が、私の後を追っているとも知らないで………。
バンッ。
勢いよく扉を開けたせいで、中に居た友達の肩が、少し震えたのが判った。
TVから視線を外し、私に向き直る。
「び…っくりしたぁ。驚かさないでよ」
「あ、ごめん。ちょっと…」
「何?補導員にでも見つかった?」
「や、違うけど」
補導員て。
まだ深夜徘徊の時間でもないのに、驚くかっつーの。
てか、もし今が夜中で、補導員に見つかっても、あんなに驚かないし。
私はリモコンの画面を見つめた。
歌おう。
それで、忘れてしまえば良い。
私は知っている曲を適当に5〜6曲入れた。
当然、友達から文句が出る。
「ちょっと〜。愛、曲入れ過ぎ。続けて歌うと声潰れるよ」
「割り込み予約してくれて良いから」
「ねぇ。マジで何かあったの?」
「いや、別に…」
私はそれから帰るまで、入り口の扉を極力見ないようにした。
この部屋があの人にバレてるとは…思わないけど。
やっぱ、怖い。
扉を見て、あの人の姿があったら…。
私が部屋に戻ってすぐ、その部屋の外にさっきの男の人が立っているなんて、私は思いもしなかった。
………いや、思いたくなかった。
「おい、悠っ」
「あ?…んだよ、聖か」
「『あ?…んだよ、聖か』…じゃねぇよ、バカ。トイレ行くって言って、中々戻って来ねぇと思ったら…。何やってんだよ」
「…似てんな、俺の物真似」
「バカ言ってる場合かよ」
「あのな、お前が俺の事バカって言ったんだろ?」
「そういう意味じゃねぇっつーの…。良いわ、戻るぞ。貴、1人にして来ちまった」
「貴、1人で歌ってんの?うわ、可哀想ー。今頃泣いてるかもなー」
「…お前、自分のせいって思ってないだろ」
「貴が本気で泣く前に戻るぞ」
「…結局、お前は何なんだよっ」
「意味判んねぇー」
アイツ…。
どっかで見た気がする…。
あの声も…聴いた気がする…。
何処でだった…?
俺は、何処でアイツを見た…?
アイツも、俺の事知ってるみたいだった。
けど、断言しても良い。
俺は、アイツを知らない。
名前も、歳も、何もかも。
只…あの、声と顔は知ってる。
何で、俺はアイツを知ってんだ……?
外は、白く輝く星が見えていた。
傍には、天使と弓をそのまま空へ置いてきたような、上弦の月。
冬の、澄んだ冷たい空気が、月と星をより一層輝かせていた。