vol.14 あっけないすれ違い。
「聖…?」
その声の主は、私達の光景を見て喋るのを止めた。
私は、その人を見れなかった。
誰だかなんて、聴いただけで判るよ………。
「悠。遅かったな」
聖君の声には、動揺は感じられなかった。
寧ろ普通。
到って普通。
私は、顔が紅くなるのを感じた。
同時に、ハルカ先輩に対する罪悪感が体中を襲った。
別に、付き合ってる訳でもないのに…。
「………っへぇー…。お前ら、そういう関係だったんだ…?」
「ハルカ、違う、これは…」
「何が違うんだよ?良かったじゃん、マナ。聖だぜ?絶対幸せにしてくれるから」
自分の過ちが招いた事だけど、私の心は悲鳴を上げた。
違う…違うのっ。
私が好きなのは――………っっ。
「じゃ、邪魔者は出ていくわ。ごゆっくり」
「待って、ハル…ッ」
ドアが閉まる音に、私の声は飲み込まれた。
「ハルカ…」
「…愛、賭けしようか?」
「え?」
「多分、アイツ、俺らの話聴いてた筈だよ。あんなタイミング良く入って来る訳無いし。第一、声に動揺が無かったからな」
聖君、あの状況でよくそこまで冷静に見てるよね…。
「もしかしたら、悠嫉妬してんのかも。俺に」
「え?」
「好きなんだろ?悠の事」
「好き………っめちゃくちゃ好きだよ…っ。けど、無理だよ…。ごめんっ、聖君。私、帰るね」
「は?ちょ、愛!?」
聖君の声が、小さくドアの向こうで聴こえた。
ごめん、聖君…。
けど、あんな言い方されたら………。
私は逃げるようにして聖君の部屋を後にした。
「あーっ!!!愛のバカ!!」
愛が悠の家の玄関を出た頃、聖は部屋で叫んでいた。
しかし、今は、そんな事よりしなきゃいけない事がある。
聖は自分の部屋を出ると、廊下からでも音楽が漏れて聴こえる、アイツの部屋に向かった。
「悠、入んぞ」
聴こえていないだろうが、一応マナーはマナーだ。
聖は、そう声を掛けてからドアを開けた。
コンポのボリュームをマックスにして、悠はベッドに寝転がっていた。
「悠、言っとくけどな…」
「っさい!!出て行け!!!」
「はぁ?お前のが煩いし。つーか、音楽止めろ」
「嫌だね。早く出て行けっ!!!!」
「はぁ!?意味判んねぇ」
聖は、煩く鼓膜に響く音を止める為、コンポの電源を切った。
「これで少しは静かんなる」
「………っ!!何だよ、お前!!」
「こっちの台詞だっつーの」
「はぁ!?意味判んねぇよ!!何々だよ!?」
「お前、愛の事好きだろ?」
「あぁ!?好きじゃねぇよ、あんな女っ」
「じゃあ、何で俺と愛の会話、立ち聴きしてたんだよ?」
「してねぇし。聴こえただけだし」
「だったら、何で部屋入って来んだよ?素通りすれば良いだろ」
「それは…っ」
「お前が愛の事嫌いだったら、俺奪るぜ」
「…あんな女、知らねぇよ…っ」
「ふーん…。ほんとに良いんだな?」
「勝手にしろっ。俺には関係無い!!」
「けど、お前、『あんな女』の為に女と別れて来たんじゃん?」
「違…っ」
「何が違うんだよ。だから、今日、愛と一緒に帰らなかったんだろ」
「違う…っ。愛は関係無いっ!!!」
「出たじゃん、本音」
「は?」
「自分の言った言葉、覚えてねぇの?お前、今『愛』って言った」
「言ってねぇよ…っ」
「良い加減認めろよ。好きなんだろ?愛」
「……………………っ好きだよ…。けど、愛は…」
「あれは誤解。愛が泣いてしまったから、俺が慰めてただけ」
「…けどっ」
「あー…愛が言ったの気にしてんの?俺の口からは言いたく無いんだけどなー…」
「俺、ちょっと出て来るっ」
「おぅ。行って来い」
悠は、上着を掴むと部屋から駆け出して行った。
きっと、悠の足なら、すぐに愛を捕まえられるだろう。
聖は、悠のベッドに横たわりながら呟いた。
「…結構、可愛かったんだけどなー…」
聖は、悠が完全に窓から見えなくなるまで悠の部屋で過ごした。
その後、聖も何を思ったか、上着を着込むと濃紺の空の下へ飛び出した。