vol.13 優しい嘘。
聖君の行動に。
私が驚いた。
けど、聖君の腕の中は、温かくて…優しくて…。
正確に鼓動を刻む心音が、私を安心させた。
「ごめん…っ。俺、愛がそんな思い詰めてるって知らなくて…。すっげぇ、疵付けたよな…?ごめん…ごめんな…」
「ううん…」
聖君の腕の中に居るから?
聖君が優しいから?
それとも、気持ちを吐き出してすっきりしたから?
とにかく、私はさっきよりは落ち着いていた。
「私の方こそごめん…聖君を困らせるつもりじゃなかったんだ…」
「けど、俺が疵付けた事に変わりは無いだろ?」
「『マナ姫』っていうのは…確かに私かもしれない。顔は一緒らしいし。けど、私は『マナ姫』じゃない。『姫』じゃ…『マナ』じゃ無くて私を見て欲しかったの…」
「…俺、な?」
聖君は、まだ私を抱き締めてくれていた。
その上、優しく私の頭を撫でてくれている。
小さい子をあやすように…。
「愛ん事…前から知ってたんだよ」
「え?」
私の事を?
何で?
いつ?
何処で知ったの?
「貴んちに、遊びに行った時にな。見掛けたんだ。愛の事」
「嘘?」
「ホント。遠くからだけどな。貴の家の前で、2人が話してて」
「いつ…?判んない…」
「覚えてなくて、当たり前だって。愛、すぐ家に戻ったんだから」
「そっか…」
「だから、貴の部屋で顔見た時、『愛』って呼ぼうとしたんだけど。初対面だし…」
「馴れ馴れしい?」
「まぁ、そういう事かな。それに愛、悠が好きって言ってたし」
「?ハルカ先輩が好きだと、『姫』なの?」
「んー、ちょっと違うんだけど。名前ってな?好きな奴に呼ばれたいだろ?」
あぁ…うん。
確かに。
何か、漫画か本かで、“名前を呼ばれた分だけ傍に居る気になる”って読んだような、違うような。
「だから、俺が『愛』って呼んでもなぁ…と思ってな」
「そっか…。ありがと」
「や、けど、それで愛疵付けたしな…」
「けど、聖君は名前知っててくれたもん」
私は聖君の胸に顔を埋めた。
ハルカ先輩は居ない。
あの人は…こんなに優しくない…。
今だけ…ごめんね?
聖君に甘えさせて…。
「愛?」
「ハルカ先輩は、私の事1度も名前で呼んだ事が無くて…。多分、知らないんじゃないかなっ」
冗談っぽく、私は笑いながら言った。
ちゃんと笑えてるよね…?
「愛、無理すんなよ…」
聖君は、私を抱き締めている腕に、少し力を入れた。
「辛い時は辛いって言いな?女の子は、もっと甘えるもんなんだからさ」
「聖君に?」
「当たり前じゃん。俺だったら、世界一の愛情で包んでやるよ」
「あははっ。…私、聖君好きになれば良かったな…」
「…なったら良いじゃん?」
「え?」
私は、驚いて聖君の胸から顔を離した。
そして、聖君を見上げた。
その時。
聖君の部屋のドアが開いた。