vol.10 秘密の園にて。
更新が遅れてしまい、すみません。
読んでいただければ嬉しいです。
次の日。
私はいつものように、放課後までの詰まらない時間を適当にやり過ごしていた。
ホント、学校って詰まんない。
皆、何しに来てるんだろ…?
長かった午前の授業も終わり、今は昼休み。
あ、パン買って来なきゃ。
私は鞄から財布を取り出し、席を立った。
その時――………。
「姫っ」
「聖…先輩…?」
教室に黄色い悲鳴が上がる。
煩い。
やって来たのは、昨日貴兄ぃの部屋で逢った、聖先輩だった。
「敬語無しって言ったじゃーん。姫、昼は?」
私は心の中で溜息を吐いた。
はぁ〜…っ。
何か、この人苦手だな…。
けど、貴兄ぃの友達だし…悪い人じゃないよね…。
「今から買いに行くトコ」
私は右手に持った財布を聖せ…君に見せた。
途端に、聖君の顔が輝く。
「マジで!?良かった。俺も今日は購買だから。一緒に行こっ」
「え?何で…」
「良いから良いから〜」
半ば聖君に引き摺られるようにして、私は購買へと向かった。
「姫、何食べる?」
「…サンドウィッチ」
「それだけ?」
「うん」
「もっと食えよ〜。大っきくなれないぞ?」
聖君は私の頭をぽんぽんと叩いた。
いや…。
聖君が大きいだけだから。
「お姉さ〜んっ」
「褒めてもまけないよ」
「えー?…ま、良いや。サンドウィッチとチキンカツサンドと焼きソバパンと…あ、おさつ林檎パイ2つっ。後ー…」
「まだ食べるのっ!?」
「サンドウィッチとパイ1つは、姫の。飲み物何が良い?」
「え!?悪いよ、そんなの」
「良いからっ。俺が誘ったんだしぃ。払わせてくださいっ姫」
「聖君も『姫』?」
「え?」
「…ううん、何でもない。ありがと、聖君。じゃあ、カフェオレ頼んで良いかな?」
「?どういたしましてっ。じゃー、カフェオレ2つ追加なっ」
「850円。持てるかい?」
「お任せあれっ。はい、おばちゃん」
「…150円上乗せ」
「あー!!ごめんって!!お姉さん!!じゃ、行くか。姫」
「うん」
私は聖君と並んで歩き出した。
さっきの購買のおばさ…お姉さんとのやり取りで、私は聖君に対する警戒心を殆ど解いていた。
同時に、苦手意識も無くなった。
「聖君、何処行くの?」
「あ、やっと姫から話し掛けてくれたっ。今から行くトコは…俺のお気に入りの場所」
「ふーん………って、だから、何処!?」
「まぁ、黙ってついて来いって」
聖君は秘密基地に向かう子供のように、嬉しそうに歩いていった。
「此処っ」
聖君はある場所の前で立ち止まった。
え…?
此処って………。
「聖君?此処って入れないんじゃ…?」
「姫もそう思ってた?でもですねぇ…」
聖君はニコニコして、私に背を向けて、ドアを弄っている。
私達が今居る所は、特別棟。
音楽室、調理室、化学教室など、特別教室ばかりが入っている棟だ。
「………♪ほら、開いた」
「え?」
聖君を見ると、彼の手はドアの取っ手の上に。
そして、そのドアは………少し軋む音をたてて開いた。
「な?」
「うっそぉ〜…」
「入ろ。此処だったら、誰も来ねぇし。生徒は勿論、教師もなっ」
「何で開けれるの?」
「それは俺の企業秘密ですぅー」
「そうなんだ」
聖君の言い方に笑みを零しながら、私は教室の中へ足を踏み入れた。
この教室――生徒達の間では、こう呼ばれている。
通称『開かずの間』。
正確な…というか、本来の名前は、『視聴覚室』。
身体障害者の為の教室なんだけど、うちの学校には今現在そうした生徒は居ないので、常に閉められている。
その教室を、聖君は『何か』やって開けた。
凄い事だ。
何せ、この教室は夏休みに肝試しに使われるぐらい、色んな噂のある教室なのだから。
「うわ…すっごーい…」
「だろ?こんな良いトコ、他の奴には教えられねぇからなぁ」
なんと、教室の中は冷暖房完備。
床には絨毯。
所々に置かれた机の上には、パソコン。
この教室が、校内で1番お金かかってそう…。
「さ、食おかー。姫、はい」
「あ、ありがとぉ」
「…何か、初めの時とかなり態度違うな?」
「あ、ごめん…。私、人見知り激しいから…」
「そう?じゃ、俺の事正直引いてたり?」
「うん、実は」
「あはははははっ。マジかー。んじゃ、今は?」
「今は…全然。怖がってたのが、馬鹿みたい」
「そ、か。良かった」
それから暫らく、私達は食べるのに没頭した。
「…あ、これ美味しい」
「おさつ林檎パイ?美味いだろ?これ、俺ん中で今空前のブームなの」
「空前のブームなんだ」
「人気あるから、すぐ売り切れちまってさ?感謝しろよー?」
「そうなんだ?ありがとっ。私、初めて食べた…ってか、初めて名前聴いた」
「クラスの奴とか、食ってない?」
「んー…見た事無い…」
「じゃ、姫が1番じゃーん。やったな」
「あははっ。そうだね」
そのまま、私達は5時限目をサボった。
これだけ男の人と話をするのは、貴兄ぃ以外では初めてだった。
良ければ、ご感想などお願い致します。