vol.1 儚い夢。
詰まんない。
詰まんない詰まんない詰まんない。
はー…っ。
何で学校ってこんなに退屈なのかな?
とある高校のとある教室。
1番日当たりが良くて、見晴らしの良い席。
私の…教室で唯一落ち着く場所。
前では、教師が何だか訳の判らない物語の説明をしている。
「この源氏物語は光源氏とその廻りを取り巻く美しい女性の物語で………」
眠い。
何で、古典の授業ってこうも眠気を誘うのかな。
射し込んでくる日光も手伝って、私は眠りの世界へ意識を手放した。
「ま…待って下さい」
「もう…夜が明けます。宿直に戻らなければ…」
「いつ…今度はいついらして下さるのですか……?」
「貴女の涙が乾かぬうちに…。きっと…」
何だ、これ。
夢…?
私の目の前で、重そうな着物を着た男が去って行く。
淡い、グリーンの着物。
知らない間に、頬を涙が伝っていた。
「………ぃ、……ぁ………ぃっ……………ぃってば!!」
「ん…」
友達の声で眼が醒めた。
あれ…?
私、何の夢見てたんだっけ…?
「もー…っ。いつまで寝てんの!!もうホーム終わったよっ」
「嘘。マジ?」
廻りを見渡すと、明らかに生徒の人数が少ない。
教室に居るのは、5〜6人だった。
けど…何か、変な感じ。
淋しい…?辛い…?哀しい…?
何ともいえない感情が、私の胸を締め付ける。
「愛、怖い夢でも見てたんじゃないの〜?」
悪戯っぽい笑顔を浮かべて、友達は私を覗き込んだ。
「憶えてない…。何の夢見てたんだろ…」
まだ眠気から醒めない身体を動かして、私は鞄を持った。
確か、今日はこのコとカラオケ行く約束して…。
「絶対怖い夢だよー」
「何で」
「だって、愛泣いてるもん」
え………?
私は自分の頬を指でなぞった。
確かに指につく、生暖かい水滴。
「珍しいね、愛が泣くなんて」
「こんなの、泣いた内に入んないでしょ。行こ。カラオケ行くんでしょ?」
「そうっ。今日は歌いまくるぞー!!」
「…良いけど、声潰さないでね」
一瞬、頭を掠めたあの着物の人を振り払って、私は教室を出た。
オレンジの優しい色が、教室を包んでいた。