帰り道、襲われる
「美味しいね」
彼女がジュースを飲みながら言ってくる。
今は下校途中だった。
陽が長いので、太陽は見守るように輝いている。
俺もジュースを一口飲んでから「ああ」と短く返す。
彼女はいちごミルクを可愛く飲み、俺はサイダーをごくごく飲んでいく。
まったりとした2人の空間。
ジュースを持っているので、手は繋げなかったが、俺が彼女に合わせて歩いていく。
しかし公園にさしかかった時、いきなり前から男達が現れた。
歳は10代後半から20代だろうか。
気配が全くしなかったので、俺は驚く。
突然、戦闘態勢に入ると、彼女を後ろに守る。
「…何の用ですか?」
ジュースを彼女に渡し、俺は構える。
相手は3人。
倒せるかどうか分からなかった。
「何か気に食わねえ」
「は? 何が?」
「うるせえ!! いちゃいちゃするんじゃねえよ!!」
いきなり鉄パイプが振るわれ、俺はやばいと察する。
偶然出会ったのだが、相手は誰か来るのを待っていたようだった。
アンラッキーかと心の中で舌打ちし、俺は彼女に言う。「お前、走って逃げろ!!」
「え!! そんなことはできないよ!!」
「いいから!!」
「嫌だ!!」
強情な彼女。
多分、自分がいなくなると、俺が囲まれて倒されると思っているのかもしれない。
目つきを鋭くすると、ライオンの本能を発揮する。
「俺が相手します」
丁寧に言うと、3人組はケラケラと笑う。
「俺達を誰だと思っているんだ? やれ」
命令がくだり、俺は左右を素早く見る。
「悪いな。今、俺達、機嫌が悪いんだよ」
「そうそう。仲良くデートなんて許せねえ」
じりじりと近づいて来る。
俺は怪我するのを覚悟して、立ち向かう。
「おりゃ!!」
手を出したのは、向こうからだった。
気配は今するが、足音が全くしない。
特殊な人間かと思い、こちらもやられないように、避けたりする。
「えい!!」
拳を食らわすと、相手の肩に当たった。
よし、と思い、また距離をはかる。
彼女は黙って見守っており、ジュースを抱きしめているようだった。
「痛っ!!」
すばしっこい相手に頭を殴られ、俺はよろける。
その隙に、もう1人が身体を狙ってきて、「う」と言葉を漏らす。
俺自身、弱いわけではないのだが、数が多すぎる。
やばいと思って、彼女を逃がそうと手を広げると、突然、スポーツカーが停まった。
「何している?」
声は低く、威圧感のあるものだった。
俺は「え」と思い、声の主を見る。
運転席から出て来て、仲間なのか、他の人達も降りてくる。
声の主は30代くらいだろうか。
男の色気とはこういうものかというモデルになりそうな感じで、堂々と一歩、一歩、進んでくる。
やはり足音がしないが、放つオーラが真っ黒で、巨大なものだった。
まるで存在自体が夜みたいな印象で、この人に逆らったらまずいと本能が教えてくれる。
「数が違うじゃねえか」
男性は俺と相手を見比べると、ペッと唾液を出す。
それから指を鳴らすと、首をこきこきと動かす。
「不公平だから俺らが相手になってやる。…お前は女の子を守れ」
指示され、俺は彼女の元に痛みをこらえながら、近づく。
すると彼女は離さまいと、服を引っ張ってくる。
俺はうなずくと、戦いに集中する。
男性達のほうがオーラを抑えているようだが、喧嘩の相手を飲み込みそうだった。
「よし、やるか」
その言葉を合図に、仲間が動き出す。
俊敏な動きに、俺は熱中する。
鉄パイプの連中も弱くはないのだろうが、あっという間におされ、片付いたのだった。
「く、くそ…!!」
連中は吐き捨てると、肩を抱きながら去っていく。
男性はばんぱんと手を払うと、俺と彼女を見てくる。
「大丈夫か?」
「は、はい…!!」
お礼を言わなければと思うのだが、口が乾いて上手くいかない。
「彼女を守ろうとしたのは褒めてやるが、ちゃんと相手を確認してから喧嘩しろ。そうじゃないと、後悔するぞ」
「すみません」
俺は先輩に怒られたように、しゅんと身体を縮める。
男性は彼女を見ると、少しだけ穏やかに言ってくる。
「彼氏の勇気に感謝しろよ。分かったか?」
「は、はい!! ありがとうございました」
「どういたしまして」
男性は手を上げると、仲間に車に乗れと命じ、自分が最後に車に乗り込む。
かっこいい人だなと見惚れていると、窓ガラスが開き、男性が言ってくる。
「お前が悪いわけじゃないからな。思いつめるなよ」
「も、もちろんです…!!」
「それならいい。暑くて頭のおかしな連中が山程いるから気をつけろ」
男性は忠告してくると、車が走り去っていく。
まるで映画のワンシーンのようだと、俺は感動した。
「大丈夫?」
彼女の言葉に、俺は平気なふりをしてうなずく。
「助けてもらって、お礼が何もできなかった」
「そうだね。何か龍みたいな、尊い存在のような人達だったね」
「そうだな。龍か…」
俺は走り去ったほうを見送り、頭を下げたのだった。




