表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/15

03【主役】中

 「なんでこんなことに?」


 一人の老婦人が台北の地図を見ながら、この街の道の複雑さに嘆息していた。一方通行ばかりで、行きと帰りの区別もつかない。十数年前に来たことはあるが、台北の変化は速すぎて、息子がくれた住所を頼りにしても、どうしても道が見つからない。


 台北は車も人も多く、通りはネオンサインの店で溢れている。誰もが忙しそうで、腕時計を見ているか、早足で歩いているかのどちらかだ。老婦人が道を尋ねようとしても、口を開いて台湾語(方言)が出た瞬間に首を振られるか、何か言われても老婦人には理解できなかった。


 この老婦人はシャオガンの母親(以下、剛ママ)である。荷物は多くないが、高齢の身で一、二時間も歩き回り、すでに汗だくで息も絶え絶えだった。


 剛ママは喉を潤そうと飲み物を買いに行ったが、メニューが多すぎて目が回った。適当にタピオカミルクティーを買ったが、飲んだ途端、タピオカで喉を詰まらせかけて死ぬ思いをした。こんなもの飲めないと、ゴミ箱に捨ててしまった。


 飲み物もなくなり、剛ママは座れる場所を探した。台北は都市計画で街路樹は多いが、涼める場所は少ない。アーケードの下を歩いて暑さを凌ぎながら、座る場所を探してキョロキョロしていた。ふと、一つのベンチが目に入った。それは砂漠でオアシスを見つけたというレベルではない、三日絶食した鷹がウサギを見つけたようなものだ。まず誰かに狙われていないか周囲を確認し、電光石火の速さで座り込んだ。


 そのプロセスは瞬きする間に完了したが、残りの体力を使い果たした。だが座った瞬間の、まるで仙果(不老長寿の実)を食べたような心地よさは、すべての苦労を報われるものにしてくれた。


 「何の字を測りますかな?」突然、低い声が剛ママの耳元で聞こえた。


 彼女は我に返り、ベンチの周囲を見回した。


 ベンチの前には赤い布を敷いた机があり、向かい側には武侠小説を慌てて背中に隠したおじさんが座っていた。明らかに、今の声はこのおじさんから出たものだ。


 剛ママは、ハイゼンベルクの測字屋台に座ってしまったのだ。


 ただ休憩しようとしただけなのに、店に入ってしまったらしい。これでは占ってもらわないと申し訳ないし、ついでに道を聞けるかもしれない。だが、急に何を測ればいいのか思いつかない。


 ハイゼンベルクは客を観察した。大小の荷物を抱え、簡易的な地図を持っている。この光景には既視感がある。顔には疲労の色が濃く、服は手作りの花柄の布地だ。来てすぐ座り込み、何も喋らない。こちらから声をかけても困った顔をしている。少しリラックスさせようと、彼は聞いた。「台北の方じゃありませんな? どちらから?」


 「台南です」


 「観光ですか?」


 「いいえ……息子がここで働いてるんですが、忙しくて長いこと帰ってこないんです。顔を見たくて、日帰りで来ました。息子もいい大人だし、迷惑はかけたくないんですけどねぇ」


 剛ママはため息をついた。久しぶりに会う息子は元気だろうか? ちゃんと仕事をしているだろうか? 彼女は**「門」**という字を書き、「息子の仕事について」と言った。


 剛ママは台湾語を話しており、息子のことを「囝仔ギンナ」と言った。そこでハイゼンベルクは閃き、即座に答えた。「囝仔(子供)という字は『耳』があって『口』がない(※陳情できない子供の意)。つまり『口』無しで『耳』有りだ。まさに『十年寒窗かんそう問う人無し、一挙成名天下に聞こゆ(十年苦学しても誰も問わないが、一度成功すれば天下に知れ渡る)』という言葉通りだ。この『門』という字を見なさい。『問う人無し』の『問』から『口』を取れば『門』になる。同様に『天下に聞こゆ(聞)』も、『門』に『耳』を足したものだ。つまり、あなたの息子さんは、世に出るまでもう少し辛抱が必要かもしれない、ということですな!」


 ハイゼンベルクの巧みな話術に、剛ママはぽかんとしていたが、理にかなっているとも思った。自分の息子の器量は自分が一番よく知っている。出世するには人の十倍は努力しなければならないだろう。


剛ママがハイゼンベルクを見ると、彼の目は自分を見ておらず、横の看板を凝視していた。そこには「一字三百元、三字二割引」と大きな文字があり、その横に小さな文字で移転の日時と住所が書かれていた。


 剛ママも世慣れた人だ。旅行には金がかかるものだし、この占い師も気に入った。いくつか占ってもらおう。だがすぐには思いつかず、そこでまた休憩することになった。


 すぐに字を書く人もいれば、半日考えてやっと一文字ひねり出す人もいる。この老婦人は明らかに後者だ。ハイゼンベルクは、もう少し話をして想像力を膨らませてやろうと考えた。


 「私の占いはいかがでしたか?」


 「ええ! なかなかです」


 「ご子息はどちらにお勤めで?」


 「……………………」


 話を広げようとした質問は沈黙で返され、ハイゼンベルクは地雷を踏んだかと思った。


 ここ数年の息子の手紙には、仕事は順調で、まさに明日のスターだと書かれていた。だがテレビをつけても彼の姿はない。後ろ姿が似ていると思って見ても、数カット後には別人だと分かる。「暗闇で影を見て発砲する(疑心暗鬼)」ようなもので、次第に探すのも億劫になっていた。


 剛ママはパソコンも使えないし、携帯も持っていない。何度か固定電話から息子の携帯にかけたが、請求額に腰を抜かしてからは滅多にかけなくなった。お互いの安否は手紙で知るのみ。「息子が元気ならそれでいい」


 息子はどうしているのか? それを知りたくて台北に来たのではないか? なぜ最初に仕事を占ったのだろう。心の中では健康でさえあれば、仕事なんてどうでもいいと思っているのに。やはり親として、望子成龍(子の出世を望む)の心があるのだろうか。


 剛ママは少し考え、息子の名前から**「ジェ」**という字を書き、近況を聞こうとした。字は少し走り書き(崩し字)になってしまった。


 「この『捷』という字は、左は『手』、右は『急』の右側(倢)に似ている。『手急(手っ取り早い/慌ただしい)』ですな! おそらく彼は今、何かを急いでやっている最中でしょう。会いに行くのが適切かどうか……。またこの字の右側、上半分は『母』に似ており、下半分は『走』に似ている。左の『手』が引き止めているのか、押しているのかは分かりませんが、まあ、こんなところでしょう!」 (※注:この『捷』の字の崩し方は、台北捷運(MRT)の駅周辺のバス停の書き方を参照)


 剛ママはそれを聞いて少し落ち込んだが、答えは答えだ。


 「もう一文字どうです?」ハイゼンベルクが勧めた。


 仕事、近況は分かった。剛ママは息子の縁談が知りたくなったが、適当な字が思いつかない。さっきは走り書きで微妙な答えになったので、今回は一筆一画丁寧に**「ユー」**という字を書いた。


 剛ママは向かいに座っているので、ハイゼンベルクには字が逆さまに見えた。最初は別の字かと思ったが、剛ママが紙を回して渡してくれたので気づいた。


 「この『昱』という字は! いいですぞ、とてもいい! **『日』と『立』**でできている。同じ構成の字がもう一つある。そう! **『音』**だ。明らかでしょう! 良い知らせ(佳音)を待っていればいい。『佳音』が『倒立(到来)』したのですから」


 この答えに剛ママは上機嫌になり、居ても立ってもいられず、住所のメモをハイゼンベルクに渡して聞いた。「この場所まで連れて行ってくれませんかね?」


 「それはちょっと……」


 「一千元あげるわ、お釣りはいらない」


 「喜んでお供します」ハイゼンベルクは現金を嬉々として受け取り、机と椅子と看板を片付け、チラシの束をポケットにねじ込むと、二人で出発した。


 八徳路バーダロードの撮影所に着いたものの、スタジオ番号の並びがデタラメで、二人は三十分も迷った挙句、通りがかりの人を捕まえて聞くことにした。


 「十七番スタジオはどこですか?」ハイゼンベルクが代わりに聞いた。


 「あの角を左に曲がったところだと思うわ」呼び止められたのは、コンビニ弁当を持った長髪の美女だった。誰かに差し入れに行くらしい。


 「なんと不思議な答えだ(思う、とは?)」ハイゼンベルクは感心した。


 「彼氏が今日そこで撮影してるんですけど、大体の場所しか教えてくれなくて。着いたら電話すれば迎えに来てくれるって」


 「なら一緒に行きましょう!」ハイゼンベルクは誘った。


 「十七番スタジオはどこですか?」三人連れになっても、まだ道を聞かなければならなかった。


 「この道の突き当たりを左に行けばあるかもしれんのう!」今度は老人が答えた。彼も十七番スタジオについてあやふやだったが、理由は誰も聞かなかった。ハイゼンベルクは笑顔で彼も誘った。


 道を尋ねるという行為を通じて、最初は二人だった一行は、いつしか「お伊勢参りの団体様」並みの規模に膨れ上がった。最初は関係者やその家族だったが、最後には謎の「十七番スタジオ」に興味を持った野次馬まで加わった。


 あそこで何をしている? なぜこんなに人が集まる? 誰がいるんだ? 疑問は尽きないが、あらゆる憶測が人々の脳内を浮遊し、雪だるま式に人数が増えていった。


 警察官の制服を着た男も混ざっていたが、ここは撮影所だ、役者だろうと思われて誰も気にしなかった。この規模の巡礼ツアーでは、先頭の人間が後ろの状況を把握することなど不可能なのだ。


 衆人の助けを借りて、大群衆は重厚な大扉の前に立った。扉には大きく「17」と書かれていた。  ここだ。扉を開ければ全ての謎が解ける。


 ハイゼンベルクはいつの間にかツアーコンダクターになっていたので、代表して扉を開けることになった。彼は両手で力いっぱい押した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ