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──中層 第二区画──

 空間の色が違った。

 第一区画は黒だった。

 第二区画は、赤い。

 床も、空気も、全てが赤く染まっている。

 血のような色。


 「……何だ、これ」

 「第二区画はコアにより近い場所です。色が変わるのは、コアの影響が強まっている証拠です」

 シグマは前に進んだ。

 足音が響く。


 第一区画より、音が大きい。

 空間が狭いのか。

 それとも、聴覚が鋭敏になっているのか。

 遠くに、構造物が見える。


 塔ではない。

 今度は、橋のような形。

 赤い橋が、空中に浮いている。


 「あれを渡る必要があります」

 「分かった」

 シグマは橋に向かって歩いた。

 だが、途中で止まった。

 目の前に、光があった。


 青白い光。

 意識の断片。

 第一区画にもあった。

 だが、今回は違う、形がある。

 人の形をしている。

 女性のシルエット。


 「……誰だ」

 光が揺れた。

 声が聞こえた。

 女性の声。

 「──助けて」


 シグマは一歩、前に出た。

 「聞こえるか」

 「──助けて」

 同じ言葉。

 繰り返している。

 「……これは」


 「意識の断片です。でも第一区画より鮮明になっています。NULL化率が上がると、こういう形で見えるようになります」

 シグマは光に手を伸ばした。

 触れた。


 声が聞こえた。

 鮮明に。

 「──娘に会いたい」

 「──まだ小さいから」

 「──一人にしたくなかった」

 これは、前に聞いた声だ。

 あの時の、遺留データ。


 「……お前、あの時の」

 「──ごめんね」

 最後の一言。

 それだけが、はっきりしていた。

 光が消えた。


 シグマは手を引いた。

 「……あれ、あの人の声だったか」

 「はい。コアに囚われた意識の一部です。NULL化率が上がると、過去に触れた意識をより鮮明に感じるようになります」


 「……辛いな」

 「はい」

 シグマは歩き始めた。

 橋に向かう。

 途中、いくつもの光がある。


 全部、意識の断片。

 シグマは触れなかった。

 触れれば、声が聞こえる。

 聞けば、心が重くなる。


 今は、進むことだけを考える。

 橋に到達した。

 赤い橋。幅は三メートルほど。


 両側に手すりはない。

 下を見ると、何もない。

 無限に続く暗闇。

 「……落ちたら」

 「戻れません」

 「そうか」

 「慎重に渡ってください」


 シグマは一歩、橋に足を置いた。

 安定している。

 もう一歩。

 問題ない。歩き始めた。

 橋は長い。百メートルはある。

 途中、風が吹いた。


 ゲームの風。だが今日は強い。

 体が揺れた。シグマは止まった。

 バランスを取る。

 「……風が強い」

 「NULL化率が上がると、環境エフェクトも強まります」

 「面倒だな」

 「はい」


 シグマは歩き続けた。

 風が何度も吹く。その度に止まる。

 時間がかかる。

 やがて、橋の中央に辿り着いた。

 そこで、止まった。

 目の前に、人影があった。

 黒いローブ。


 フードを被っている。

 「……誰だ」

 人影が顔を上げた。

 フードの奥に、赤い光が二つ。

 表示が出た。


名称:Guardian Beta

CLASS:門番

HP:420,000 / 420,000

LEVEL:135

 門番。


 第二区画の門番。

 「……また門番か」

 「第一区画より強いです」

 「分かってる」 


 Betaが武器を構えた。

 大剣。両手で持つ、巨大な刃。

 シグマは剣を抜いた。


 《NULL DRIVE》。

 黒が増えた刃。

 「来い」


 Betaが動いた。

 ‥速い。


 Guardian Alphaより速い。

 大剣が振り下ろされる。

 シグマは横に避けた。

 刃が橋を砕く。


 破片が飛ぶ。

 橋が揺れる。

 「……ここで戦うのか」

 「橋の上です。落ちないように」

 「分かってる」

 Betaが再び攻撃してくる。


 横薙ぎ。

 シグマは剣で受けた。

 金属が軋む。

 重い。


 力がある。押される。

 後退する。

 足が橋の端に近づく。

 「シグマ、危ない」

 「分かってる」


 シグマは体を捻った。Betaの剣を逸らす。

 反撃。

 《NULL DRIVE》を叩き込む。



▶ -12,340

HP: 407,660 / 420,000

 ダメージが入った。


 だが削りが浅い。

 Guardian Alphaより硬い。

 Betaが距離を詰める。

 連撃。


 シグマは避け続ける。

 橋の上を後退する。

 端が近い。

 「まずい」

 「スキルを使ってください」


 「分かってる」

 シグマはスキルゲージを確認した。

 まだ半分。

 溜まっていない。


 「……間に合わない」

 Betaが突進してくる。

 大剣を構えて。

 シグマは避けられなかった。

 防御を取る。

 剣で受ける。衝撃。

 吹き飛ばされた。

 橋の端、足が半分、外に出た。

 落ちる。

 その瞬間──

 白い光が走った。


 アイリスが姿を現した。

 彼女がシグマの手を掴んだ。

 「掴まってください」

 シグマは手を握った。


 アイリスが引き上げる。

 橋の上に戻った。

 「……助かった」

 「当然です」

 アイリスの姿が薄くなる。


 「長くは保ちません」

 「分かった」

 「Betaを倒してください。私がサポートします」


 アイリスが空中に光の筋を描く。

 《SYSTEM OVERRIDE》

 Betaの動きが止まった。

 一瞬だけ。


 「今です」

 シグマは地面を蹴った。

 Betaに向かって突進。

 《NULL DRIVE:オーバードライブ》

 全力の一撃。

 刃が装甲を貫いた。



▶ -98,760

CRITICAL HIT

HP: 308,900 / 420,000

 大きく削れた。

 だがまだ倒れない。

 Betaが動きを取り戻す。

 反撃してくる。

 大剣が来る。

 シグマは避けた。

 アイリスの姿が完全に消えた。


 声だけが残る。

 「私はもう出られません。後はお願いします」

 「分かった」

 シグマは剣を構え直した。


 Betaと向き合う。

 長い戦いになる。

 橋の上で。

 落ちれば終わり。

 「……やるしかない」

 地面を蹴った。


 それから十分が経った。BetaのHPは残り三割。

 シグマのHPは残り四割。


 互いに削り合っている。

 だがシグマの方が不利だ。

 橋という地形。

 動ける範囲が狭い。


 Betaが大剣を振り上げる。

 最後の攻撃。

 シグマはスキルゲージを確認した。

 満タンだった。

 「今だ」

 《NULL DRIVE:オーバードライブ》

 全力で走る。

 Betaの懐に入る。

 刃を叩き込む。

 一閃。

 Betaの中心を貫いた。



▶ -126,900

CRITICAL HIT

HP: 0 / 420,000


 Guardian Betaが崩れた。

 光になる。

 消えていく。


 シグマは膝をついた。

 息が上がっている。疲労が、いつもより重い。


 「……終わった、か」

 「はい。よく耐えました」

 「お前のおかげだ」

 「……いいえ」

 シグマは立ち上がった。

 橋の先を見た。

 まだ続いている。


 「先に進むか」

 「今日は、ここまでにしてください」

 「まだ動ける」

 「嘘です」

 「……お前には分かるんだったな」

 「統合しています。あなたの疲労は限界に近い」

 シグマは少し考えた。


 「……分かった」

 「本当ですか」

 「本当だ」

 シグマはログアウトボタンを確認した。

 青かった。

 「帰る」

 「はい」

 ログアウトした。


──現実──

 接続シートから起き上がった瞬間、倒れた。

 膝が折れた。力が入らない。

 「……何だ」

 「シグマ!」

 アイリスの声が響いた。

 スマホから。


 「体が、動かないのか」

 「……動かない」

 「NULL化の影響が、現実にも出ています」

 シグマは床に手をついた。

 這って、壁に背を預けた。

 息が荒い。


 心臓が早鐘を打っている。

 「……これが、50を超えた影響か」

 「はい。ゲーム内だけではありません。現実の体にも負荷がかかります」

 「……面倒だな」

 「休んでください」

 「分かってる」

 シグマは目を閉じた。


 疲労が、全身を支配している。

 「アイリス」

 「はい」

 「……ありがとう」

 「何が」

 「助けてくれて」

 「……当然です」

 「当然じゃない」

 「当然です」

 シグマは少し笑った。


 「……お前、頑固だな」

 「学習しました」

 「何度目だ、それ」

 「何度でも言います」

 シグマは眠りに落ちた。体が、限界だった。


 その夜。

 アイリスは一人で考えていた。

 50%を超えた、次は60%‥。

 時間がない。


 「……急がないと」

 でも急げば、シグマが壊れる。

 ゲームの中、現実の中で。


 「どうすればいい」

 答えは出なかった。

 でも、諦めない。

 それだけは決めていた。

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