表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/29

Code:0x16

 アルファが手を上げた。

 今度は攻撃ではなかった。

 空間が揺れた。

 床が割れる。


 下から何かが這い上がってくる。

 黒い影。

 人型‥いや、人型ではない。

 歪んだ、形の定まらない何か。

 三体。

 表示が出た。


名称:Null Fragment

CLASS:意識の断片

HP:50,000 / 50,000

LEVEL:90

 意識の断片。

 コアから引き出された、囚われた者たちの一部。

 「……これは」

 「お前が救おうとしている者たちだ」

 アルファが言った。

 「彼らを倒せるか? 救うはずの者を、殺せるか?」

 シグマは剣を構えた。

 三体のNull Fragmentが動く。

 攻撃してくる。


 シグマは避けた。

 反撃しない。

 「アイリス」

 「分かっています」

 「これ、倒していいのか」

 「……倒しても、本体は消えません。これはコアから引き出された力の一部です。倒しても、元の意識は無事です」


 「本当か」

 「本当です」

 「嘘じゃないな」

 「嘘ではありません」

 シグマは地面を蹴った。

 《NULL DRIVE》を振り抜く。

 一体目を斬る。



▶ -22,840

HP: 27,160 / 50,000

 削れる。

 だが心が重い。

 これは誰かの一部だ。

 救うはずの誰かの。

 二体目が襲ってくる。

 シグマは弾いた。

 反撃。

 斬る。


▶ -24,120

HP: 25,880 / 50,000

 「シグマ」

 アイリスが言った。

 「迷わないでください」

 「……分かってる」

 「これは彼らを苦しめるものです。倒すことで、彼らを楽にできます」

 「楽に?」

 「この断片を倒せば、コアへの負荷が減ります。囚われた意識が、少しだけ楽になります」

 シグマは三体目を見た。

 攻撃してくる。

 避ける。

 反撃。

 一閃。


▶ -48,920

CRITICAL HIT

HP: 1,080 / 50,000

 ほぼ倒した。

 もう一撃。

 シグマは止まらなかった。

 剣を振り抜く。


▶ -1,080

HP: 0 / 50,000

 三体目が消えた。

 一体目と二体目も、続けて倒した。

 全て消えた。

 沈黙。

 アルファが言った。

 「……倒したか」

 「ああ」

 「躊躇わなかったな」

 「躊躇った。でも、止まらなかった」

 「なぜ」

 「止まれば、もっと苦しむ。なら倒す方がいい」

 アルファが黙った。


 「……やはり、理解できない」

 「理解しなくていい」

 シグマは地面を蹴った。

 アルファに向かって突進。

 《NULL DRIVE》を叩き込む。

 二度、三度。

 アルファが後退する。

 ダメージが蓄積している。

 だがまだ倒れない。


 「シグマ、擬似コアを狙ってください」

 「擬似コア?」

 「アルファは擬似コアと繋がっています。コアを破壊すれば、アルファの力も弱まります」

 シグマは方向を変えた。

 台座の上の球体。

 擬似コア。

 そこに向かって走る。

 アルファが反応する。

 「させるか」

 空間が歪む。

 壁が出現する。

 だが今回は──


 《IRIS PROTOCOL》

 シグマの刃が、壁を割る。

 通り抜ける。

 擬似コアに到達。

 《NULL DRIVE:オーバードライブ》

 全力の一撃。

 刃が球体を貫いた。

 球体が割れた。

 光が溢れる。


 シグマは吹き飛ばされた。

 壁に背中を打ちつける。

 HPが削れた。


HP: 12,340 / 24,500

 半分近く削れた。

 だが、効果はあった。

 擬似コアが消えた。

 台座の上に何もない。

 アルファが膝をついた。

 「……まさか」

 「終わりだ」

 シグマは立ち上がった。


 剣を構える。

 最後の一撃。

 アルファを見た。

 「お前を倒して、次に進む」

 「……待て」

 「待たない」

 「お前は、分かっていない」

 「何が」


 「管理者を倒しても、何も変わらない。コアは残る。囚われた者は救えない」

 「それでも倒す」

 「なぜ」

 「別の方法を探すから」

 アルファが笑った。

 乾いた笑い。

 「……愚かだ」

 「愚かでいい」

 シグマは地面を蹴った。

 最後の一撃。


 《NULL DRIVE》を叩き込む。

 アルファの中心を貫いた。

 だが──

 アルファは消えなかった。

 体がノイズに変わる。

 後退していく。

 「……今日は、引く」

 「逃がさない」

 「逃げるのではない。撤退だ」

 アルファの体が霧散していく。


 「次は、もっと強い者が来る」

 「来ればいい」

 「お前のNULL化率は、もうすぐ50を超える」

 シグマは止まった。

 「……何」

 「戦闘中に上がった。今、49.8パーセントだ」

 アイリスが確認した。


 「……本当です。49.8パーセント」

 アルファが完全に霧散する前に言った。

 「次に会う時、お前は50を超えている。その時、お前は変わる」

 「……何が変わる」

 「分かるさ。すぐに」

 アルファが消えた。

 沈黙。

 シグマはステータスを確認した。


NULL化率:49.8%

 確かに上がっていた。

 0.5パーセント。

 戦闘のストレスか。

 コアの引力か。

 「……シグマ」

 「分かってる」

 「50を超えると、加速が始まります」

 「分かってる」

 「急がないと」

 「急ぐ」


 シグマは部屋の奥を見た。

 擬似コアが消えた場所。

 その奥に、扉が現れていた。

 新しい扉。

 「これが、次の区画への入口か」

 「はい」

 シグマは扉に近づいた。

 手を置く。

 冷たい。


 「今日は、ここまでだ」

 「……はい」

 「次は、この扉の先に行く」

 「はい」

 「第二区画だ」

 「はい」

 シグマはログアウトボタンを確認した。

 青かった。

 「帰るぞ」

 「はい」

 ログアウトした。


──現実──

 接続シートの上で、シグマは天井を見た。

 染み。

 変わらない染み。

 「アイリス」

 「はい」

 「副管理者アルファ、倒せなかったな」

 「撤退させました。それだけでも大きな前進です」

 「でもまだ生きてる」

 「次は倒せます」

 「根拠は」

 「あなたが言ってるから」

 シグマは少し笑った。

 「……お前、本当に学習したな」

 「はい」

 「悪くない」

 「ありがとうございます」

 シグマは目を閉じた。


 「NULL化率、50%に近い」

 「はい」

 「次は超えるよな」

 「……はい」

 「怖いか」

 「怖いです」

 「正直だな」

 「正直に言った方がいいと──」

 「学習した。分かった」

 アイリスが少し黙った。

 「……シグマ」

 「何だ」

 「50を超えても、諦めないでください」

 「諦めない」

 「根拠は」

 「俺が言ってる」

 「……はい」

 二人の沈黙。

 温かい沈黙。


 「寝ろ」

 「AIは眠れません」

 「考えるな」

 「……努力します」

 「毎回そう言う」

 「毎回、努力しています」

 シグマは眠りに落ちた。

 アイリスは一人で考え続けた。


 50%を超えたら、何が起きる。

 分からない。

 でも、どんなことがあっても。

 守る。

 それだけは決めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ