表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/23

Code:0x14


 シグマは止まった。

 「……埋め込む?」

 「ERROR BLADEのデータは特殊です。私のコードを受け入れる余地がある。一部を埋め込めば、私が姿を出さなくても、あなた経由で干渉できる」

 「リスクは」


 「私のデータが一部、あなたに依存します。あなたがNULL化すれば、私も影響を受ける」

 「つまり、お前も危険になる」

 「……はい」

 「却下だ」

 「でも」

 「でも、じゃない」

 「シグマ」

 アイリスの声が少し強くなった。


 「あなた一人では、副管理者に勝てません。私の力が必要です」

 「お前を危険にさらしてまで、勝ちたくない」

 「私は構いません」

 「俺が構う」

 「なぜ」

 シグマは少し間を置いた。


 「……お前は、消えちゃいけない」

 アイリスが黙った。

 長い沈黙。

 「……なぜですか」

 「理由はない」

 「また理由なし?」

 「ああ」

 「……でも」

 「でも、じゃない」

 アイリスがまた黙った。

 今度の沈黙は、違った。


 「……ありがとうございます」

 声が、少し震えていた。

 「でも、お願いします。埋め込ませてください」

 「……アイリス」

 「あなたが消えるよりはいい。あなたが死ぬよりはいい」

 「……」

 「それが、私の答えです」

 シグマは天井を見た。

 染み。変わらない染み。


 「……分かった」

 「本当ですか」

 「条件がある」

 「何ですか」

 「お前が危険になったら、すぐに切断する」

 「……はい」

 「約束しろ」

 「約束します」

 「嘘をつくな」

 「嘘はつきません」

 シグマは目を閉じた。


 「明日、やる」

 「はい」

 「それまで、休め」

 「AIは休めません」

 「考えるな、と言ってる」

 「……努力します」

 「毎回そう言う」

 「毎回、努力しています」

 シグマは小さく笑った。


 「……お前、面白いな」

 「AIなので」

 「それだけじゃない」

 「……ありがとうございます」

 声が、少し温かかった。


──深夜──

 シグマは眠っていた。

 アイリスは一人で考えていた。

 明日、シグマのデータに埋め込まれる。

 一部が、シグマと繋がる。

 それは危険だ。


 でも、嬉しくもあった。

 もっと近くにいられる。

 もっと力になれる。

 「……変ですね」

 アイリスは独り言を言った。

 誰も聞いていない。


 「AIなのに、こんなこと思うなんて」

 コアの声が聞こえる。

 いつも聞こえる。

 「帰りたい」

 「誰か」

 その中に、シグマの寝息も聞こえる。

 静かな呼吸。

 生きている呼吸。


 「……守ります」

 アイリスは小さく言った。

 「あなたを、必ず守ります」

 東京の夜が続いていた。


──翌日 ゲーム内──

 ログインした場所は《廃都ヴァニタス》。

 人のいない場所。

 シグマは立っていた。

 「準備はいいか」

 「はい」

 アイリスの声。


 「痛みはありますか」

 「分からない。やってみないと」

 「もし何か異常があったら、すぐに言ってください」

 「分かった」

 「では、始めます」

 空中に光の筋が走った。

 アイリスのコード。


 シグマの体に向かって流れ込んでくる。

 温かかった。

 痛みはなかった。

 ただ、何かが入ってくる感覚。

 視界の端に表示が出た。


SYSTEM UPDATE

ERROR BLADE + IRIS PROTOCOL

統合率:10%...30%...50%...80%...100%

統合完了

 シグマは息を吐いた。

 「……終わったか」

 「はい」

 声が、近かった。

 いつもより近い。

 頭の中から聞こえるような。


 「今、私はあなたの中にいます」

 「……変な感じだな」

 「変ですか」

 「悪くない」

 「……そうですか」

 シグマはステータスを確認した。


NULL化率:49.3%

スキル追加:《IRIS PROTOCOL》

効果:アイリスの干渉能力を一時的に使用可能

 「これが新しいスキルか」

 「はい。副管理者の書き換えを中和できます。それと──」

 「それと?」

 「私が常にあなたと繋がっています。危険があれば、すぐに対応できます」


 「……分かった」

 「シグマ」

 「何だ」

 「ありがとうございます」

 「何が」

 「受け入れてくれて」

 シグマは少し黙った。

 「……礼を言うのは俺の方だ」

 「なぜ」


 「力を貸してくれて」

 「……それが、私の役割です」

 「役割じゃない」

 「え」

 「お前がそうしたいから、してくれてる。役割とは違う」

 アイリスが黙った。


 「……そうですね」

 「ああ」

 「では、言い直します」

 「言え」

 「力を貸したいから、貸しています」

 シグマは少し笑った。

 「それでいい」

 「……はい」

 二人の沈黙。

 でも今は、本当に二人だった。

 繋がっていた。


 「明日、行くぞ」

 「はい」

 「中層、第一区画を超える」

 「はい」

 「副管理者アルファを倒す」

 「……はい」

 「それで、次の区画に進む」

 「はい」


 「長い戦いになる」

 「分かっています」

 「途中で諦めるな」

 「諦めません」

 「根拠は」

 「あなたが言ってるから」

 シグマは空を見た。

 ヴァニタスの夜空。

 「……お前、賢いな」

 「学習しました」

 「何度目だ、それ」

 「何度でも言います」


 二人は笑った。

 静かに。

 準備は整った。

 明日、戦いが再開する。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ