Code:0x12
セラが間に入った。
「話は終わりだ。ERROR BLADE、あなたには選択肢を与える」
「選択肢?」
「我々に協力するか、それとも──」
セラが指を鳴らした。
部屋の奥から、人が現れた。
白いローブ。小柄。
フードを取った。
少年だった。
Hiroだった。
シグマの目が見開いた。
「……Hiro」
Hiroは目を閉じていた。
意識がない。
「彼を確保しました」
セラが言った。
「あなたが彼を《BLANK》から引き離した。だから我々が取り戻しました」
「……お前ら」
「協力すれば、彼は解放します。拒否すれば──」
セラがHiroの肩に手を置いた。
「彼を先に、コアに送ります」
シグマの手が震えた。
「……やめろ」
「では、協力しますか」
シグマは歯を食いしばった。
「アイリス」
「……聞いています」
「何とかしろ」
「やってみます」
セラが微笑んだ。
「答えを聞かせてください。ERROR BLADE」
シグマは――
その時、部屋の照明が消えた。
暗闇。
一瞬だった。
白い光が走った。
アイリスの声が響いた。
「シグマ、今です」
アイリスが姿を現した。
白い装甲の少女。
彼女がHiroを抱えた。
「走ってください」
シグマは反射で動いた。
アイリスの方へ走る。
《白使徒》たちが反応する。
武器を構える。
だが遅い。
アイリスが空間を割った。
《SYSTEM OVERRIDE》
扉が開く。
外への道。
「早く」
シグマがアイリスとHiroの元に辿り着く。
三人で扉を抜ける。
背後からセラの声。
「逃がすな!」
《白使徒》が追ってくる。
──廃墟の中──
走った。
アイリスがHiroを抱えたまま走っている。
シグマが後ろを確認する。
追手が来ている。
「アイリス」
「分かっています」
アイリスが立ち止まった。
空中に光の筋を描く。
《SYSTEM OVERRIDE》
廃墟の壁が崩れた。
追手の進路を塞ぐ。
「今のうちに」
再び走る。
廃墟を抜ける。
外に出た。
──ヴァニタスの外れ──
追手の気配が消えた。
シグマは立ち止まった。
アイリスがHiroを地面に降ろした。
Hiroは気を失ったままだった。
「生きてるか」
「生きています。ただ、強制的に眠らされているだけです」
アイリスがHiroの額に手を当てた。
光が走る。
Hiroが目を開けた。
「……あれ」
「大丈夫か」
シグマが言った。
Hiroがシグマを見た。
「……シグマさん」
「ああ」
「ここ、どこ……」
「安全な場所だ。もう大丈夫だ」
Hiroが少しずつ記憶を取り戻したようだった。
「……《BLANK》に、捕まった」
「ああ」
「ごめん……俺、また」
「謝るな」
「でも」
「でも、じゃない」
Hiroが少し笑った。
「……また、それ」
「何度でも言う」
アイリスが静かに言った。
「Hiroさん、今すぐログアウトしてください。《BLANK》がまた来る前に」
Hiroが頷いた。
「……うん」
ログアウトボタンを確認した。
青かった。
「ありがとう、シグマさん」
「礼はいい」
「アイリスさんも」
アイリスが少し驚いたようだった。
「……どういたしまして」
Hiroがログアウトした。
二人だけになった。
シグマはアイリスを見た。
「……お前、また姿を出した」
「必要だったので」
「管理者にバレる」
「バレます」
「それでも出た」
「あなたとHiroさんを助けるためなら、バレてもいい」
シグマは何も言わなかった。
アイリスの姿が薄くなっていく。
「……長くは保ちません」
「分かった」
「シグマ」
「何だ」
「カイトさんのこと」
「……」
「辛かったですか」
シグマは少し間を置いた。
「……辛くなかった、と言えば嘘になる」
「そうですか」
「でも、俺とあいつは違う」
「何が違いますか」
「あいつは諦めた。俺は諦めない。それだけだ」
アイリスが黙った。
「……はい」
アイリスの姿が消えた。
声だけが残った。
「今日は帰りましょう。NULL化率が上がっています」
シグマはステータスを確認した。
NULL化率:49.3%
1.5パーセント上がっていた。
「……ギリギリだな」
「はい」
「次は50を超える」
「おそらく」
「その時、どうなる」
「……分かりません」
「正直だな」
「正直に言った方がいいと──」
「そうだったな、ハハハ」
シグマはログアウトボタンを押した。
──現実──
接続シートの上で、シグマは天井を見た。
カイトが《白使徒》だった。
コウを見捨てた男が、今度は全員を救おうとしている。
間違った方法で。
「……複雑だな」
「何がですか」
アイリスが聞いた。
「カイトのことだ。あいつは、本気で全員を救おうとしてる」
「でも方法が間違っている」
「ああ。でも、あいつなりの答えなんだろう」
「許せますか」
シグマは少し考えた。
「……許せない。でも、理解はできる」
「理解?」
「無力だと思う気持ち。何もできないと思う気持ち。それは、分かる」
アイリスが静かになった。
「……あなたも、そう思ったことがありますか」
「ある。コウが消えた時。何もできなかった」
「でも今は」
「今は違う。今は動ける。だから動く」
「……はい」
シグマは目を閉じた。
「明日、準備する」
「何の準備ですか」
「中層への再突入だ。《白使徒》の妨害が入る前に、できるだけ先に進む」
「分かりました」
「それと」
「はい」
「田中奈緒に報告する。コウの居場所が分かった。助ける方法を探してる、と」
「……はい」
シグマは眠りに落ちた。
その夜、アイリスは一人でデータを処理し続けた。
カイトのデータ。
《白使徒》のデータ。
Void Systemsとの繋がり。
全てが、少しずつ見えてきていた。




