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 セラが間に入った。

 「話は終わりだ。ERROR BLADE、あなたには選択肢を与える」

 「選択肢?」

 「我々に協力するか、それとも──」

 セラが指を鳴らした。

 部屋の奥から、人が現れた。

 白いローブ。小柄。


 フードを取った。

 少年だった。

 Hiroだった。

 シグマの目が見開いた。

 「……Hiro」

 Hiroは目を閉じていた。

 意識がない。

 「彼を確保しました」

 セラが言った。

 「あなたが彼を《BLANK》から引き離した。だから我々が取り戻しました」

 「……お前ら」


 「協力すれば、彼は解放します。拒否すれば──」

 セラがHiroの肩に手を置いた。

 「彼を先に、コアに送ります」

 シグマの手が震えた。

 「……やめろ」

 「では、協力しますか」

 シグマは歯を食いしばった。

 「アイリス」

 「……聞いています」

 「何とかしろ」

 「やってみます」

 セラが微笑んだ。


 「答えを聞かせてください。ERROR BLADE」

 シグマは――

 その時、部屋の照明が消えた。

 暗闇。

 一瞬だった。

 白い光が走った。

 アイリスの声が響いた。

 「シグマ、今です」

 アイリスが姿を現した。


 白い装甲の少女。

 彼女がHiroを抱えた。

 「走ってください」

 シグマは反射で動いた。

 アイリスの方へ走る。

 《白使徒》たちが反応する。

 武器を構える。

 だが遅い。

 アイリスが空間を割った。


 《SYSTEM OVERRIDE》

 扉が開く。

 外への道。

 「早く」

 シグマがアイリスとHiroの元に辿り着く。

 三人で扉を抜ける。

 背後からセラの声。

 「逃がすな!」

 《白使徒》が追ってくる。


──廃墟の中──

 走った。

 アイリスがHiroを抱えたまま走っている。

 シグマが後ろを確認する。

 追手が来ている。

 「アイリス」

 「分かっています」

 アイリスが立ち止まった。

 空中に光の筋を描く。

 《SYSTEM OVERRIDE》

 廃墟の壁が崩れた。

 追手の進路を塞ぐ。

 「今のうちに」

 再び走る。

 廃墟を抜ける。

 外に出た。


──ヴァニタスの外れ──

 追手の気配が消えた。

 シグマは立ち止まった。

 アイリスがHiroを地面に降ろした。

 Hiroは気を失ったままだった。


 「生きてるか」

 「生きています。ただ、強制的に眠らされているだけです」

 アイリスがHiroの額に手を当てた。

 光が走る。

 Hiroが目を開けた。


 「……あれ」

 「大丈夫か」

 シグマが言った。

 Hiroがシグマを見た。

 「……シグマさん」

 「ああ」

 「ここ、どこ……」

 「安全な場所だ。もう大丈夫だ」

 Hiroが少しずつ記憶を取り戻したようだった。


 「……《BLANK》に、捕まった」

 「ああ」

 「ごめん……俺、また」

 「謝るな」

 「でも」

 「でも、じゃない」

 Hiroが少し笑った。

 「……また、それ」

 「何度でも言う」

 アイリスが静かに言った。

 「Hiroさん、今すぐログアウトしてください。《BLANK》がまた来る前に」

 Hiroが頷いた。

 「……うん」

 ログアウトボタンを確認した。

 青かった。

 「ありがとう、シグマさん」

 「礼はいい」

 「アイリスさんも」

 アイリスが少し驚いたようだった。

 「……どういたしまして」

 Hiroがログアウトした。

 二人だけになった。


 シグマはアイリスを見た。

 「……お前、また姿を出した」

 「必要だったので」

 「管理者にバレる」

 「バレます」

 「それでも出た」

 「あなたとHiroさんを助けるためなら、バレてもいい」

 シグマは何も言わなかった。

 アイリスの姿が薄くなっていく。


 「……長くは保ちません」

 「分かった」

 「シグマ」

 「何だ」

 「カイトさんのこと」

 「……」

 「辛かったですか」

 シグマは少し間を置いた。


 「……辛くなかった、と言えば嘘になる」

 「そうですか」

 「でも、俺とあいつは違う」

 「何が違いますか」

 「あいつは諦めた。俺は諦めない。それだけだ」

 アイリスが黙った。

 「……はい」

 アイリスの姿が消えた。

 声だけが残った。

 「今日は帰りましょう。NULL化率が上がっています」

 シグマはステータスを確認した。



NULL化率:49.3%

 1.5パーセント上がっていた。

 「……ギリギリだな」

 「はい」

 「次は50を超える」

 「おそらく」

 「その時、どうなる」

 「……分かりません」

 「正直だな」

 「正直に言った方がいいと──」

 「そうだったな、ハハハ」

 シグマはログアウトボタンを押した。


──現実──

 接続シートの上で、シグマは天井を見た。

 カイトが《白使徒》だった。

 コウを見捨てた男が、今度は全員を救おうとしている。

 間違った方法で。


 「……複雑だな」

 「何がですか」

 アイリスが聞いた。

 「カイトのことだ。あいつは、本気で全員を救おうとしてる」

 「でも方法が間違っている」

 「ああ。でも、あいつなりの答えなんだろう」

 「許せますか」

 シグマは少し考えた。


 「……許せない。でも、理解はできる」

 「理解?」

 「無力だと思う気持ち。何もできないと思う気持ち。それは、分かる」

 アイリスが静かになった。

 「……あなたも、そう思ったことがありますか」

 「ある。コウが消えた時。何もできなかった」

 「でも今は」

 「今は違う。今は動ける。だから動く」

 「……はい」

 シグマは目を閉じた。


 「明日、準備する」

 「何の準備ですか」

 「中層への再突入だ。《白使徒》の妨害が入る前に、できるだけ先に進む」

 「分かりました」

 「それと」

 「はい」

 「田中奈緒に報告する。コウの居場所が分かった。助ける方法を探してる、と」

 「……はい」

 シグマは眠りに落ちた。

 その夜、アイリスは一人でデータを処理し続けた。


 カイトのデータ。

 《白使徒》のデータ。

 Void Systemsとの繋がり。

 全てが、少しずつ見えてきていた。


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