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 「……正直だな」

 「隠しても意味がない。あなたは賢い。どうせ気づく」

 「つまり最初から、俺がERROR BLADEだと知っていたのか」

 「はい」

 「罠だったのか」

 「罠とは言いたくない。招待ですよ」

 ゼクが微笑んだ。

 「でも、それでもあなたに選択肢を与えています。来るかどうかは、あなたが決めていい」

 シグマは立ち上がった。

 結晶をポケットに入れた。

 「わかった、考える」

 「いつでも待っています」

 シグマは部屋を出た。


──廃墟の外──

 外に出た。

 夜のヴァニタス。

 シグマは廃墟の影で立ち止まった。

 「アイリス」

 「はい」

 「《白使徒》に別の方法で近づくとしたら」

 「一つ、あります」

 「言え」

 「ゼクではなく、あの少年を通じる」

 「少年?」

 「集会場にいた、十代の少年。NULL化率が12パーセントあった。ああいう子が《BLANK》に来る理由は限られています。孤独か、喪失か、絶望か」


 「それと《白使徒》がどう繋がる」

 「《BLANK》は傷ついた人間を狙って勧誘しています。でも逆に言えば、傷ついた人間に寄り添えば、信頼を得られる。少年があなたを信用してくれれば、《BLANK》の内側をもっと深く知れるかもしれない」

 「遠回りだな」

 「でも確実です」

 シグマは少し考えた。


 「……少年の情報は取れるか」

 「プレイヤーネームは《Hiro》。現実の情報は取れていませんが、ゲーム内の行動パターンから、かなり最近《BLANK》に接触したと思われます」

 「まだ深入りしていない」

 「おそらく」

 「なら、まだ間に合う」

 シグマはポケットの結晶を取り出した。

 見た。

 暗い色。不気味な光。


 「アイリス」

 「はい」

 「これ、解析できるか。中身を調べて、Void Systemsとの繋がりを証明できるか」

 「やってみます。データを転送してください」

 シグマは結晶を地面に置いた。

 《NULL DRIVE》の刃を出す。

 薄く、触れる程度に当てた。

 データが流れる感触。

 「……受け取りました。解析します」

 「使わなくていい方法があるなら、そっちがいい」


 「はい。私もそう思います」

 シグマは結晶を持ち上げた。

 まだポケットに戻した。

 証拠として持っておく。

 「明日、Hiroに接触する」

 「慎重に」

 「分かってる」

 「ゼクも、動くかもしれません。あなたがERROR BLADEだと確信した以上、早く上に報告するはずです」


 「時間がないな」

 「はい」

 「ならもっと急ぐ」

 「さっき、焦らないと言っていましたね」

 「状況が変わった」

 「……学習が早いですね」

 「うるさい」

 アイリスが小さく笑った。

 シグマはログアウトボタンを確認した。

 青かった。


 押す前に、もう一度集会場の方を見た。

 あの少年は、まだ中にいるだろうか。

 膝を抱えて座っているだろうか。

 「……急ぐが、あの子だけは丁寧にやる」

 「はい」

 「お前がそういう顔をするな」

 「声しか出していません」

 「声に出てる」

 アイリスが黙った。

 今度の沈黙は、温かかった。

 シグマはログアウトした。


──現実 深夜──

 シグマはスマホを見た。

 田中奈緒からメッセージが来ていた。


「今日も悠の様子を見に行きました。

変わらず眠っています。

でも顔は穏やかでした。

どこかで夢を見ているのかもしれない、と思いました。

……進捗があれば、教えてください」

 シグマは少し考えた。

 返信した。


「動いている。時間がかかるが、諦めていない」

 三分後、返信が来た。


「ありがとうございます。

信じています」


 シグマはスマホを置いた。

 「アイリス」

 「はい」

 「信じています、と言われた」

 「……読みました」

 「慣れないな」

 「信じられることが?」

 「……ああ」

 アイリスが少し黙った。


 「慣れなくていいと思います」

 「なぜ」

 「慣れたら、軽く扱うようになるかもしれないから」

 シグマは天井を見た。

 染み。変わらない染み。

 「……お前は賢いな」

 「AIなので」

 「それだけじゃない」

 アイリスが黙った。


 「……ありがとうございます」

 声が、少し違った。

 照れているような、でもAIに照れという概念があるのかどうか、シグマには分からなかった。

 「寝る」

 「おやすみなさい」

 「お前も考えるな。一晩だけ」

 「努力します」

 「毎回そう言う」

 「毎回、努力しています」

 シグマは目を閉じた。


 明日、Hiroに会う。

 《BLANK》の深部に近づく。

 《白使徒》を探す。

 やることは多い。

 でも今夜は眠る。

 それだけだ。


 深夜の東京。

 どこかの病院で田中悠が眠っている。

 どこかの家でレインが眠っている。

 どこかの廃墟でHiroが膝を抱えているかもしれない。


 コアの中で、何千人かが声を上げている。

 アイリスはその全部を、聞いていた。

 眠れない夜が、また続いていた。


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