表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/23

Code:0x0E

──ゲーム内 《廃都ヴァニタス》地下集会場──

 二度目の潜入だった。

 前回と同じ入口。同じ廊下。同じ階段。

 だが今日は集会がなかった。

 人が少ない。数人のプレイヤーが思い思いに座っているだけだ。白いローブを纏って、静かに。


 シグマは入口近くの壁に寄りかかった。

 自然に見えるように。ここに慣れた人間のように。

 「ゼクはいますか」

 アイリスが小声で言った。

 「見当たらない」

 「奥の部屋にいるかもしれません。前回、別室に案内されましたよね」

 「ああ」

 シグマは集会場を見回した。

 プレイヤーたちは誰も喋っていない。目を閉じている者もいる。瞑想でもしているのか。


 一人、目が合った。

 十代の少年だった。

 細い体。レベルは低い。装備も貧弱だ。始めたばかりのプレイヤーに見える。

 なぜここにいる。

 少年がシグマから目を逸らした。

 シグマは視線を外した。


 「シグマ」

 「何だ」

 「あの少年のデータが少し気になります」

 「どう気になる」

 「NULL化率が、12パーセントあります。ゲームを始めて日が浅いはずなのに」

 「早すぎる」

 「はい。自然な進行ではない。何か、外部から促されている可能性がある」


 シグマは少年を横目で見た。

 膝を抱えて座っている。

 ここに来るような年齢じゃない。

 「ゼクを探す。あとで」

 「はい」

 シグマは奥に向かった。


 廊下を進んだ。

 いくつかの部屋がある。前回、ゼクと話した部屋。その奥。

 別の声が聞こえた。

 部屋の中から。

 シグマは足を止めた。

 扉の前。

 隙間から声が漏れている。


 「……進捗はどうだ」

 低い声。ゼクではない。

 「予定通りです。新しい候補が三名。NULL化率の高い順に、準備を進めています」

 別の声。女性。

 「《白使徒》への推薦は」

 「二名、通りました。残り一名は、もう少し時間が必要です」

 「急げ。管理者が待っている」

 「……はい」

 「それと、新入りがいると聞いた。NULL化率が高い男」

 シグマは息を止めた。


 「はい。昨日接触しました。47パーセント前後かと」

 「それは本物か」

 「確認中です。ただ、データの質が普通じゃない。ERROR BLADEかもしれない」

 沈黙。

 「……ERROR BLADEなら、すぐに上に報告しろ。管理者が直接欲しがっている」

 「分かりました」

 「急げ。時間がない」

 足音が聞こえた。

 シグマは素早く廊下の影に入った。

 扉が開く。


 女性が出てきた。白いローブ。フードを被っている。顔が見えない。

 そのまま奥に歩いていく。

 シグマは動かなかった。

 「……聞きましたか」

 アイリスが小さく言った。

 「聞いた」

 「ゼクは、あなたをERROR BLADEだと疑っています」

 「分かった」

 「どうしますか」

 「もう少し、引っ張る」

 「危険です」

 「分かってる」

 シグマは廊下に戻った。

 何事もなかったように歩く。


 ゼクは集会場にいた。

 いつの間に来たのか。

 台座の前に立って、何かのデータを確認している。

 シグマが近づくと、顔を上げた。

 「来てくれましたね」

 笑顔だった。

 前回と同じ笑顔。


 何も知らないような、穏やかな笑顔。

 「……また来た」

 「よかった。少し話しましょうか」

 また別室に案内された。


──別室──

 前回と同じ部屋。

 ゼクが向かいに座った。

 「考えてくれましたか。《BLANK》について」

 「……ああ。いくつか聞きたいことがある」

 「どうぞ」

 「《白使徒》に会うには、どうすればいい」

 ゼクの表情が少し変わった。

 一瞬だけ。すぐに戻った。


 「急ですね。理由は」

 「管理者に、直接会いたい」

 「管理者に?」

 「《白使徒》は管理者と接触できると言っていた。なら、そこに繋いでもらえれば早い」

 「……なぜ管理者に会いたいんですか」

 シグマは少し間を置いた。


 「確かめたいことがある。コアは本当に楽園なのか。消えることは本当に救済なのか。管理者から直接聞きたい」

 ゼクが微笑んだ。


 「信心深い‥でも《白使徒》への推薦には、条件があります」

 「何だ」

 「NULL化率が60パーセントを超えること。そして、自らの意思でNULL化を望んでいると証明すること」

 「証明?」

 「はい。具体的には──」

 ゼクが懐から小さなアイテムを取り出した。

 前回、集会で配っていたものと同じだ。

 暗い色の、小さな結晶。


 「これを使えば、NULL化が加速します。自らの意思で、完全に向かっていると示せる」

 シグマはその結晶を見た。

 「……それを使えば、どのくらい上がる」

 「個人差がありますが、一度で5から10パーセントほど」

 「副作用は」

 「ありません。ただ、引き返せなくなります。60パーセントを超えると、自然には戻らない」

 「……少し考えさせてくれ」

 「もちろん」

 ゼクが結晶をテーブルの上に置いた。

 「持っていていいですよ。使うかどうかは、あなたが決める」


 シグマは結晶を手に取った。

 「アイリス」

 声に出さず、口だけ動かした。

 スマホのマイクが拾えるギリギリの音量。

 「……分析しています」

 「これは何だ」

 「Void Systemsの内部コードが使われています。外部から作れるものじゃない。やはりVoid Systemsと《BLANK》は繋がっている」

 シグマは結晶を握った。


 「使えるか、俺に」

 「……危険です。NULL化が本当に加速する」

 「でも証拠になる」

 「証拠は別の方法で」

 「どんな方法だ」

 「今の会話は全部記録しています。結晶のコードも解析しました。これで十分です」

 「《白使徒》に辿り着けるか、それだけで」

 アイリスが少し黙った。


 「……辿り着けません。60パーセントを超えないと、推薦してもらえない」

 「なら」

 「別の方法を探します」

 「時間がかかる」

 「シグマ」

 アイリスの声が少し固くなった。

 「その結晶を使うことは、認めません」

 「お前が決めることじゃない」

 「でも」

 「でも、じゃない」

 ゼクが首を傾けた。


 「誰かと話していますか」

 「……独り言だ」

 「そうですか」

 ゼクが立ち上がった。

 「急がなくていいですよ。でも、一つだけ言わせてください」

 「何だ」

 「あなたのデータは特別です。NULL化率が高いだけじゃない。データの質が違う。管理者も、あなたを待っています」

 「……それを、どうやって知った」

 「管理者からのメッセージです。ERROR BLADEが来たら、丁寧に扱え、と」

 シグマは表情を変えなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ