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──別室──

 集会場から離れた、小さな部屋。

 男と二人だった。


 「改めて、歓迎します。私はゼク。《BLANK》の案内人をしています」

 シグマは何も名乗らなかった。

 ゼクは気にしなかった。


 「《BLANK》に来る方はみんな、何かを抱えています。あなたは?」

 「……消えたくない、と思っていた」

 「過去形?」

 「今は、どちらでもいい、と思い始めている」

 嘘だった。


 でも自然に言えた。

 ゼクが頷いた。

 「分かります。NULL化が進むと、恐怖より先に、諦めが来る。それは自然なことです。でも我々はそれを、諦めとは呼ばない」

 「何と呼ぶ」


 「受容です。完全になることへの、受容」

 シグマは少し黙った。


 「……コアの中は、本当に楽園なのか」

 「楽園かどうかは、私にはまだ分かりません。でも、管理者はそう仰っている」

 「管理者に会ったのか」


 「直接ではない。でも言葉は届いています。《BLANK》の上の方の人たちには、もっと直接的な接触があるらしい」


 「上の方?」

 「《BLANK》には階層があります。私はまだ下の方です。上には──」


 ゼクが少し声を落とした。

 「──《白使徒》がいます」

 「白使徒?」

 「管理者に直接会ったことがある者たちです。数は少ない。でも強い。ゲームの中でも、現実でも」

 シグマは表情を変えなかった。


 「現実でも?」

 「《BLANK》はゲームの中だけじゃない。現実世界でも動いています。NULL化した者の現実の記録を消す。家族に知られないように。目撃者を消す。それが彼らの役割です」


 シグマの手が、一瞬だけ止まった。

 「……消えた奴の記録を、現実でも消してるのか」

 「管理者の意思です。この世界に痕跡を残さない。NULLになった者は、最初からいなかったことになる」

 「……」


 「あなたもそうなります。でも、それは悪いことじゃない。コアの中で永遠になれるなら、現実の記録なんて必要ない」

 シグマは立ち上がった。

 「……少し、考えさせてくれ」

 「もちろん。急がなくていい」

 ゼクが微笑んだ。


 「でも、あまり時間をかけすぎないで。NULL化率が高い状態は、不安定です。早いほどいい」

 「……分かった」

 シグマは部屋を出た。


──廃墟の外──

 外に出た。

 夜のヴァニタス。

 人がいない。

 シグマは廃墟の影で立ち止まった。


 「……聞いたか」

 「全部聞きました」

 アイリスの声は、少し固かった。

 「現実でも動いてる」

 「はい。《白使徒》。ゲーム外での活動部隊。消えたプレイヤーの痕跡を消している」


 「つまり、ログが消えるのはVoid Systemsだけじゃない」

 「《BLANK》も、現実側で動いていた。両側から痕跡を消している」

 シグマは空を見た。

 ヴァニタスの空。動かない雲。止まった世界。


 「ゼクという男。信用できると思うか」

 「……分かりません。でも、一つ気になることが」

 「何だ」

 「彼が《BLANK》の内情を話しすぎている。警戒心が薄すぎる」

 「罠か」


 「……可能性があります。シグマがERROR BLADEであることを、知っている上で近づいた可能性がある」

 シグマは少し考えた。

 「利用するつもりか、俺を」

 「《BLANK》も、シグマを欲しがっているかもしれない。NULL化率の高いERROR BLADE。管理者だけじゃなく、《BLANK》にとっても特別な存在」


 「……面倒だな」

 「はい」

 「でも、内側に潜り込めた。情報は取れる」

 「取れます。でも深入りは危険です」

 「分かってる」

 シグマはログアウトボタンを確認した。

 青かった。


 「明日も来る」

 「……はい」

 「《白使徒》まで辿り着きたい」

 「時間がかかります」

 「かけていい。焦らない」

 アイリスが少し黙った。


 「……珍しいですね。あなたが焦らないと言うのは」

 「急ぐと罠に落ちる」

 「学習しましたね」

 「うるさい」

 「……はい」


 声に笑いが混じっていた。

 シグマはログアウトした。


 地下集会場では、まだ集会が続いていた。

 白いローブの集団。

 静かな声。

 「消えることを恐れるな」

 「それは終わりではなく、始まりだ」

 誰かが頷いている。

 誰かが涙を流している。


 その涙が、救済なのか、絶望なのか。

 本人にも、分からないかもしれなかった。

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