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教誨師

亜駆男から手紙が届いた。内容はひでえもんだった。

「七瀬!脱獄失敗ご苦労さん!ザマアミロ!毎度毎度笑かせてくれんぜ!オレを笑い死にさせようって魂胆か?てめえは一生刑務所で過ごす!そこから出られない!オレは毎日、美女とセックスざんまいでごちそうを食べカジノで遊びまくる!オレがじじいから引き継いだ遺産は50兆円だ!永遠に遊んで暮らせる!オレは死ぬまで遊び尽くしてこの世の快楽をしゃぶり尽くす!てめえは何にもできねえ!オレはなんでも手に入るしなんでもできる!悔しすぎて親指を食いちぎるんじゃねぇぞ!てめえの体をもてあそべねえことだけが残念だ!」

手紙にはあっかんべーのらくがきも描いてある。検閲はお金の力で潜り抜けたんだろうな。あたいを侮辱する言葉の羅列が書き連ねてある。屈辱だが、怒る気力もない。あたいにはもう打つ手がない。もうどうしようもないんだ。

ここで、こんなところで一生を終えるしかない。無実なのに罪を犯した人間どもに囲まれて狭い檻の中で暮らすのだ。

ひどく落ち込んでいることを察して他の囚人たちは最近、あたいに話しかけてこない。気を遣ってくれているのか陰気が移るのかが嫌なのかはわからない。両方か。ぼっちになって1週間後、暗いトンネルから抜けられないままあたいは刑務作業を終えてとぼとぼ歩いていた。ふと廊下に少し空いてる扉を発見した。なんとなくのぞいてみる。

「そこの少女、こちらに来なさい」

あたいはビクッとなった。狭い部屋の中には椅子と机が置いてありハゲた坊さんが奥の椅子に座っていた。オレンジの袈裟をまとっている。肌がきれいだからまだ青年のようだ。窓から夕陽が差し込んで後光が差しているように見える。あたいは吸い寄せられるように部屋に入って椅子に座る。

「あんた教誨師かい?あたいに何のよう?」

「暗い目をしているね。何か悩みを抱えているのか?」

「冤罪なのに刑務所にぶち込まれたんだ。あたしの一生は台無しさ。終身刑だから一生ここから出られねえんだ。人生オワター」

「くわしくはなしてみなさい」

あたいは退屈だったので洗いざらい全部しゃべった。聞き終えた坊主は透き通った瞳であたいを見つめる。

「それは本当に気の毒に思う。かわいそうだ。しかし、私にはきみをここから出してあげる力はない」

「気にすんな。期待してねぇよ」

「しかし、きみにはまだここでできることがある」

「脱走計画は全部潰された。もうムリだね。刑務官でも惚れさせろってか?できるけどなるべく巻き込みたくねぇんだ。クビにされたら気の毒だし」

「ちがう。無財むざい七施しちせだ」

「むざいのしちせ?なんだそりゃ?あたいは無罪の七瀬だぜ?」

おどけて見せる。

「この世に罪を犯さぬ人間はいない。きみが軽蔑する罪人たちにもやさしくしてあげなさい。それがきみを解放に導く」

坊さんは手を合わせる。

「なんのこっちゃわかんねぇ」

「七瀬。きみの幸運を祈る」

名前を呼ばれてドキッとする。けっこう顔立ちのいい品のある男だしな。坊さんは立ち上がり部屋を出ていった。ミッション完了ってか。それにしても良い声をしていた。優しくて柔らかくて温かくて癒されるようなホッとするような温泉に浸かっているような気持ちになる声だった。身の回りの空気も澄んでた。あんな人間もいるんだな。

さすが坊さん。厳しい修行してるんだろう。

 あたいも部屋を出て雑居房に戻った。体育座りで部屋の隅に座る。最近の定位置だ。子分どもは雑誌や本を読んだりおしゃべりしてそれぞれくつろいでいる。坊さんに言われたことを考える。罪ねぇ。確かに子供の頃一回だけ弱いものいじめしたことあったっけ。あとで聞いたら軽い障害持ってたって言うから反省したね。その償いで正義感発揮してる部分もある。

こいつらのことも心の弱い悪人だと馬鹿にしてたけど、あたい自身も心に弱さはある。強弱はあれど同じだ。これからは同じ人間として扱おう。心の中でメスブタ呼びもやめだ。あたいは強いせいか他人を見下すクセがある。気をつけないとな。

「むざいのしちせ。しらべてみっか」

あたいは膝を抱えてボソリとつぶやいた。




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