第20話 妊娠発覚
「これは……妊娠されていますね」
ラファーガを診た老医師が驚きの表情で伝えると、周囲の者は更に驚いて声を上げた。
イーリスは「マジで孕んでしまいましたか」とニマニマしているし、イーリスの父であるストーム侯爵「妊娠ってどういうことですかっ⁉」と老医師に食って掛かった。
オラノスは「お前が孕む側だったの⁉」とラファーガを指さして目を丸くしている。
当のラファーガはソファに寝そべったまま、「妊娠……」と呟いて自分の腹を撫でた。
(魔王は私の体を、子を孕む体に変えた、といって言ったけれど。本当に子を孕むことができるとは……。ここにイーリスと私の子が? 不思議だ。不思議だが……嬉しい)
思わず口の端が緩むのを感じながら、ラファーガは周囲に視線を向けた。
休憩室にいるのは、ラファーガとイーリス、老医師にストーム侯爵。そして国王であるオラノスだけだ。
「イーリスじゃなくて、ラファーガが妊娠⁉」
オラノスは衝撃の事実に、思いっきり引いている。
「国王陛下。あなたが、私とラファーガを、結婚させたんですよ?」
イーリスはラファーガの妊娠に驚くよりも、驚いているオラノスに驚いていた。
「いや、だって。そりゃ、ラファーガが妊娠させる側だと……って、え? ということは……え⁉」
オラノスは、ソファに横たわるラファーガと、イーリスとを交互に指さして見比べながら、パニック状態になっている。
「はぁ……我が息子が【軍神】さまを妊娠させるとは! これは、どう責任をとれば……」
現宰相であるストーム侯爵は頭を抱えた。
「父上。責任を取るも何も、オレたちはもう結婚してますよ? 何の問題もないではありませんか」
「そういう問題じゃないんだっ!」
キョトンとしているイーリスに、ストーム侯爵は雷を落とした。
だがイーリスはノーダメージだ。
彼は平然として言う。
「そりゃ、やることやったら出来ることはあるでしょ?」
「君たち男同士だよね? 普通はやることやっても子どもは出来ないよ?」
オラノスがたまらず口を挟むのに、ラファーガは眉をひそめて口を開いた。
「でもオラノスは、私と魔王の話を聞いていたのでは?」
「それはっ……」
オラノスはラファーガに向かって言い訳するように言う。
「だから私はっ……「もしかして、ラファーガは男でも妊娠させられるかも?」とは思ったよ? とは思ったけどさ。本当に妊娠するとは思わないでしょ? それが実際に妊娠して……しかもラファーガが妊娠する側だなんてっ。こんなことになるとは思ってなかったんだっ!」
「なぜ逆切れ」
ラファーガは白い目でオラノスを見た。
オラノスはバツが悪そうに言う。
「いや、だってお前に死なれたら、国防上よくないからさぁ……。だからラファーガが死なないように、イーリスとくっつけて……」
「えっ⁉ なんですって、それは初耳ですぞ、国王陛下」
ストーム侯爵は驚いてオラノスを見た。
「ん。最後を悟った魔王が、イーリスとラファーガがくっつかないと死ぬ呪いをかけやがったんだ」
「なんとっ!」
驚くストーム侯爵にオラノスは頷きながら答える。
「驚くだろ? 私も驚いた」
オラノスはラファーガに顔を向けた。
「お前はお前で自分からは何も言わないし。お前、魔王に呪い殺される気でいただろう⁉」
「まぁ……そうだな?」
平然としているラファーガに、オラノスは怒鳴る。
「だからっ、なぜそんなに余裕があんだよっ、お前はっ!」
「んー……母だから?」
精悍な顔をコテッと傾けて言うラファーガを見ながら、オラノスはガクッと肩を落とす。
「母……なんつー似合わん言葉っ」
ラファーガはどこからどう見ても男だ。
鍛え上げた体には筋肉たっぷりで、アゴのあたりには薄っすらヒゲまで浮いている。
上から下までガッチリしていて男らしくない所が見つからない男の腹に子どもがいることに、オラノスたちは慄いた。
ストーム侯爵が「恐ろしい……」と呟けば、オラノスは「【軍神】が妊娠とは!」と頭を抱える。
「魔王……なんと恐ろしい……」
百戦錬磨の老医師までもが慄くなか、イーリスだけが(ラファーガは可愛いなぁ)と呑気に思っていた。




