第2話 戦勝パレード
暑い夏の日。降り注ぐ太陽のもと戦勝パレードは行われた。
王国の人々は勝利の喜びに酔いしれていた。
「来たわ!」
「英雄たちよ!」
生き残った兵士たちが隊列を組み王城へと向かうのを、沿道に押し寄せた国民たちは歓声を上げて迎えた。
魔族にとって人間は人間であり、激しい攻撃は、身分も、場所も関係なく襲い掛かった。
攻撃は、王都全土に激しいダメージを与えたのだ。
住む家を焼かれ、長年手を入れてきた畑を台無しにされて人々は疲れ切っていたが、降り注ぐ明るい陽射しのもと行進していく兵士たちの姿彼らの姿は、苦難を強いられている国民に希望を与えた。
白馬に乗ったオラノスと、黒馬に乗ったラファーガが現れると沿道を埋める人々からひと際大きな歓喜が上がる。
「ラファーガさま! 軍神さまがいらしたぞ!」
「あの方が、魔王を打ち取られた!」
「オラノスさまもいらっしゃるわっ!」
「オラノスさまとラファーガさまがいらっしゃれば、王国は安泰だっ!」
歓声を浴びながら、ラファーガは黒い馬に乗って進んでいく。
褐色の肌の上にはピカピカに磨き上げられた銀色の鎧。
神々しいほどの姿をしたラファーガは、キリッとした表情を浮かべてパレードの先頭にいた。
彼の隣で白馬にまたがる金髪碧眼のガッシリした美丈夫が、笑いながら揶揄うように言う。
「ラファーガ、愛想よく手を振ってやれ」
「それは……私らしくないだろう、オラノス」
ラファーガは照れたように赤らめた頬をポリポリと掻きながら、隣にいる次期国王へ言った。
「ははは。それはそうだな。だが魔王を倒した今くらいなら、笑顔を見せても不自然ではない。お前の笑顔に少しは周りを慣らしておかないと、急に笑ったときに怯えられるぞ」
「そんなことを言われても……」
オラノスは、困ったように眉を下げるラファーガを見て、声を上げて笑った。
魔王に攻め込まれて3年。
王国が受けたダメージは計り知れない。
それでも新国王となるオラノスと、軍神と称えられるラファーガの姿を見れば、傷だらけの王国の民たちの瞳に輝きが戻るようだ。
「我々は王国の希望なのだ。国土は傷付き、沢山の命が失われた。民たちは疲れ果てている。だが希望があれば、再び立ち上がることができる。この王国を建て直すことができるのだ」
「そうだな、オラノス。我が王よ」
「はははっ。ラファーガは気が早い」
ラファーガの言葉にオラノスは声を立てて笑ったが、まんざらでもなさそうだ。
(オラノスは鷹揚な性格をしている。よい国王になるだろう)
ラファーガはオラノスへ笑顔を向けた。
金髪碧眼で色白なオラノスは整った顔をしているが、ガッシリとした体格をしているので女性的には見えない。
ラファーガとは同い年で、幼少時から切磋琢磨してきた仲だ。
(この戦いで国王陛下も、王妃殿下も亡くなられてしまった。一刻でも早くオラノスに国王の座に就いてもらい、王国を建て直してもらわなければ)
「おい、ラファーガ」
「なんだ?」
「ほら、あそこ。お前の想い人がいるぞ」
ラファーガは、ニヤつくオラノスがアゴで差し示した方角を見た。
パレードの終着地点、王城の入り口に、長い銀髪を風になびかせる美しい人の姿があった。
(イーリスさま!)
ラファーガの胸はドキンと大きく高鳴った。
身長が高いが細身のイーリスは、ぱっと見、女性に見えるほど雄々しさから遠い。
鼻筋の通った整った顔に色白の肌。
少し憂いを帯びた青い瞳。
知的な表情と、少々貴族らしからぬ乱暴な所作がなければ男性にすら見えない。
「お、想い人というわけでは……」
ラファーガが頬を赤く染め、モゴモゴと口ごもりながら反論するのを、オラノスはニヤニヤと楽しそうに眺めていた。
「戦いは終わったんだ、ラファーガ。次は幸せになることを考えなきゃ」
オラノスは青い瞳をラファーガに向けて問う。
「今だったら、褒賞として誰でもあてがってやるぞ」
「ちょっ……なんてことをっ!」
ラファーガはオラノスの言葉に怒りと羞恥の両方で全身を赤く染めた。
「ふふ、冗談だよ」
「冗談でもやめてくれ。人間を褒賞にするなんてとんでもない」
ラファーガの想い人であるイーリス・ストームは侯爵の令息であり、宰相の次男である。
彼の隣には、宰相であるストーム侯爵が立っていた。
(イーリスさまは、今日も光り輝いている)
イーリスは美しく賢い男性だ。
しかしラファーガにイーリスが光り輝いて見える理由はそこではない。
(私の憧れの……優しくて頼りになる先輩。私が恋した男性……)
イーリスを見ればラファーガの胸は高鳴る。
何時見ても、どんな状態のイーリスでも、キラキラと輝いて見えるのだ。
(だが私は……幼くて頼りない少年のままではいられなかった)
澄んだ青い瞳が、ラファーガを真っ直ぐに見ている。
その視線は憧れの戦士を見る目。
軍神を称える目だ。
だがひとたび恋慕の色を帯びた目で見れば、イーリスは侮蔑に満ちた一瞥を最後に顔をそむけるだろう。
(イーリスさまにとって私は……恋の相手にはなりえない……)
ラファーガは唇をクッと噛むと正面に視線を移した。
(彼を手に入れることなど、私には無理なんだ)
ラファーガにとって、イーリスはキラキラと七色の虹だ。
輝いていてしっかりと目には映るのに、手に入れることは出来ない光だ。
(このパレードが終わったら、私は領地に引きこもって……大人しく死を受け入れよう)
城のなかへと向かいながら、ラファーガは初恋に別れを告げた。




