第17話 愛を交わそう
「ちょっ……ちょっと、イーリスさま?」
ラファーガは、イーリスに組み敷かれてうろたえた。
低い声が妙に上ずっているのが自分でも分かる。
「私は全然、準備とかしていないのですが⁉」
「あ、準備が必要なのは分かってるんですね。それは良かった」
ラファーガの反応に満足そうな笑みを見せたイーリスは、上から彼の顔を眺めて微笑んだ。
そして右手の人差し指をラファーガに見せながら、魔法でピュンと水を飛ばして見せた。
「オレに任せておいてください」
「ぇ……」
ラファーガは、その用途に思い至って全身を赤く染めた。
湯あみ後でガウンを羽織っていた彼の体は、いつの間にか半分ほど裸体を晒している。
「その様子だと、何をするのかは分かっているみたいですね」
「ん……」
イーリスがクスクス笑いながら言うので、ラファーガは真っ赤になった顔を背けた。
「そ……そういう、イリーナさまは、経験がおありで?」
ラファーガは28歳だが、童貞処女だ。
(私はイーリスさまに片思いしたまま魔王軍との戦いに出向いてしまったから……でも、イーリスさまは30歳。過去に恋人の1人や2人いても不思議ないし……。そもそもイーリスさまはモテるから)
「ははっ。オレも経験はないですよ、ラファーガさま」
「え? だってイーリスさまはモテるのに……」
「ふふ。モテるのは否定しませんよ。モテ過ぎて老若男女問わず襲われることが多かったですね。逃げるのが精一杯で恋人を作る暇とかありませんでしたよ。それに……」
イーリスは意味ありげに言葉を切り、ラファーガを見下ろした。
「初恋の人は、戦地に行っちゃってましたからね」
「っ⁉」
ラファーガが何かを言う前に、その口はイーリスの唇に塞がれた。
そこからイーリスはノリノリでラファーガを抱いた。
◇◇◇
(凄かった……)
翌日、目が覚めたラファーガは自分の体調を確認しながら思った。
(なんだかとてもスッキリしている。しかしなんだかとっても筋肉が疲れている気もするな? 最近は鍛錬をサボりがちだったのは確かだが……私は体力自慢なのだか。なんだかあちこち痛いぞ?)
イーリスは、水の魔法でロマンチックナイトを演出しつつ実用としてもしっかり活用した。
恥ずかしがって声を上げないラファーガのために、室内は隠匿魔法で甘く隠された。
(私の腹あたりに魔王の刻んだ紋があったらしいが……イーリスさまのあ、愛を受けて消えたらしいし)
昨夜のことを思いだして、ラファーガは両手のひらで顔を隠し、ベッドの上でゴロゴロと転がった。
そして気付く。
(おや。体が綺麗になってる。ぁ……そうか、イーリスさまが水魔法で……)
昨夜のアレヤコレヤを鮮明に思い出したラファーガは、再び両手のひらで顔を覆ったまま、ベッドの上でゴロゴロと転がっていた。
「おや、ラファーガ。起きたんですね。体調はいかがですか?」
イーリスの声がして、ラファーガは両手のひらの間からそちらを見上げた。
「どうしました? どこか痛いところでも?」
イーリスはクスクスと笑いながらベッドの端に座わると、ラファーガを覗き込んだ。
「だっ、大丈夫です。イーリスさま」
「おや? 昨夜「イーリス」と呼び捨てにするとお約束したはずですが。忘れてしまわれましたか?」
イーリスの指がスゥーとラファーガの手の甲を撫でた。
(そうだった!)
「えっと……イーリス」
「はい。ラファーガ。イーリスは身も、心も、あなたの夫ですよ。ラファーガは、身も、心もオレの夫でしょ?」
「うっ……。も、もちろん」
恥ずかしそうに答えるラファーガの手を、イーリスはそっと握る。
そしてゆっくりラファーガの顔から外して、その顔を覗き込む。
ラファーガは、イーリスを見つめ返した。
(吸い込まれそうな青い瞳。この人が私の夫……夢みたいだ)
夢ではないことは、昨夜、散々体に教えられた。
この青い瞳が自分の体を見て、欲情に染まるところも見た。
(それでも夢みたいだ……)
イーリスがフッと笑いを漏らす気配がして、ジッと見つめている青い瞳が徐々にラファーガへと近付いて来た。
唇が唇に重なり、イーリスの白い手が、ラファーガの褐色の肌を意図をもって探り始める。
「ちょっ……イーリス⁉ そろそろエタンセルが来る頃だけど⁉」
「それは大丈夫。人払いをお願いしておいたからね。食事がしたければ、軽い物を用意してもらったから、オレが食べさせてあげる」
「えっ⁉」
ラファーガがよくよく室内を見れば、扉の前にワゴンが置かれていた。
ピクニックに持っていくような容器の隣に、空の皿やカップが置かれている。
「時間が経っても問題ないように、用意してもらったからさ。安心して?」
「えっ⁉ 何をどう安心すれば⁉」
ジタバタするラファーガの大きな体は起き上がることを許されず、イーリスの白くて思いのほか大きな体の下組み敷かれてしまった。
こうしてラファーガは見事に魔王の呪いから復活したのだった。




