第13話 お誘い
春の空は薄っすらと霞んではいるが晴れている。
朝の陽ざしは柔らかく、気温もほどよく暖かい。
執務室の扉をバンッと開けて銀髪をなびかせながら入ってきたイーリスは開口一番こう言った。
「鍛錬に行かないか?」
執務に追われるラファーガに対し、イーリスは暇だった。
だから朝食後、執務机にかじりついて仕事をしているラファーガのもとへイーリスがやってきたのは必然ともいえた。
「忙しいところ悪いが、オレは結婚による長期休暇というものを与えられてしまったので、暇だ」
結婚式も終えて屋敷での生活にも慣れてきたイーリスは、周りの状況をキチンと把握していた。
不作法に見える行動も受け狙いだ。
実際、執務室に突然現れたイーリスを見て、ラファーガは笑っている。
「ふふ。休暇という名の私の監視だろう?」
ラファーガの反応に、イーリスは秀麗な眉毛を情けなくフニョリと下げた。
「まーそうだけど、そう言わないでくださいよー、ラファーガさま。最近のあなたは、仕事してばかりで体を動かしていないでしょ? 今日は天気もいいし、暖かい。どうです? 鍛錬でもしませんか?」
「ん~。鍛錬ですか?」
(呪いで体力が落ちているから、あまり激しく動くのはちょっと無理があるな。でも久しぶりのイーリスさまとの鍛錬は魅力的だ……困ったな)
ラファーガは、太くて精悍な眉毛を情けなく下げた。
「でも私には仕事が……」
イーリスはニカッと笑って爽やかに誘う。
「いいじゃないですかー。ラファーガさま。オレたちは新婚ですよ(?)」
笑いながら食い下がるイーリスに、執事エタンセルも助け舟を出す。
「旦那さま、そうなさってはいかがですか? あまりこもりきりではお体にさわりますし、仕事はちょうどキリのよいところになりました」
エタンセルの言葉に、イーリスはパァァァァァッと顔を輝かせた。
「ほら、お許しもでた。忙しいところ悪いが、オレをかまえ。ほらほら」
「ふふふ。なんですか、それは。犬みたいな」
「犬がよければ犬になるが。」
「ハハハ。……ん、鍛錬かぁ……」
(最近、体力が落ちてきたけど……鍛錬くらいなら大丈夫だろう)
ラファーガは笑いながら椅子から立ち上がった。
「そうですね。イーリスさまに、我が家の鍛錬場を体験していただきますか」
「よろしくおねがいしまーす、軍神さま」
お茶目に言うイーリスを見て、ラファーガは噴き出した。
「では、鍛錬着をご用意しますね」
エタンセルの合図で使用人たちがササッと素早く動いた。
2人はそれぞれの部屋で鍛錬着に着替えると玄関ホールで待ち合わせ、笑いながら鍛錬場へと向かった。




