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第五話




 突然私のことを「悪女」と言って不躾にも指を差し、敵意むき出しなご令嬢。留学生の方でしょうか。だとしても、留学先の国の皇族は分かるはずですが。


「どちら様でしょうか」

「惚けないでよ! あんたも転生者なんでしょ!」


 …………テンセイシャ? 新しい用語でしょうか。やはり、私がまだ知らない言葉などたくさんありますね。今度調べてみなければいけませんね。そう考えていると、無視されたと思ったのか顔を林檎のように真っ赤に染めてこちらに魔法を放ってきました。いくらなんでも、常識(マナー)と言うものがあるでしょう。いきなり魔法を放つなんてと思いながら、すぐさま防御魔法を発動し防ぎます。


「どうやら誤解があるようですが、私はテンセイシャと言うものは知りません」

「そんなはずないでしょ! じゃあなんで()()()()()が学院にいるのよ!」


 …………妹? 私に妹はいません。となると、まさかルーチェと勘違いをしている? 十分可能性はあります。瓜二つですし、私は右目を前髪で隠していますから、間違えていそうです。だとしても、これはないですが。


「一つお伺いいたしますが、貴女様は私が誰か分かっておりますか?」

「バカにしてるの? ルーチェ・スピカ・シュバルツでしょ」


 確定ですね。この方はルーチェと私の区別ができません。見た目でルーチェと勝手に判断しています。そして、名前をフルネームで呼べると言う事は、私がルーチェではなくとも身分を知っている。階級が下の者が上の者に許可なく話しかけるのは非常識(マナー違反)です。そして、敬称を付けず不躾。この方が何方かは存じませんが、売られた喧嘩は買います。相手はルーチェをご所望のようですし、ルーチェには後で謝りましょう。


「…………そう、知っててそれなのね」


 扇子を広げ、威圧的な態度を取る。ルーチェは敵と見なせば容赦なく相手を攻撃する。社交界で生き抜く方法だと言っていました。売られた喧嘩は買い、相手の出鼻を折り、心を砕いて二度と逆らう気が湧かぬよう徹底的に芽を摘む。


「ならば、私の身分も知っているわよね?」

「だから何よ!」

「私はこの国の皇族。貴女が見下し、不躾にも話しかけられる身分ではない。まさか、貴女の家ではそんな当たり前のこと(常識)すら教えてもらえないのかしら。言葉を理解できない家畜ですら分かることよ?」


そう言えば顔を更に赤らめ、激昂する。扇子で口元を隠し笑う真似をすれば、少しはルーチェに見えるでしょうか。効果は抜群のようで何も言えなくなっています。愉快ですね。


「イベリス!」


 突然後ろから声が聞こえたので振り返れば、そこにはあらあら、とてもお久しぶりなクリム様がいらっしゃいました。

 クリム・ストム・ヴェルメリオ様。ルーチェの婚約者でありヴェルメリオ侯爵家の子息。緋色の髪に深緋の瞳はとても似合っています。そして、彼がイベリスと呼んだこのご令嬢が、クリム様の浮気相手の男爵令嬢、イベリス・スィモス・ペルシクム様でしたか。


「ルーチェ、イベリスに何をした!」


 あらあら、こちらも分からないとは……。情けないですね。これでももう、三年はルーチェの婚約者だと言うのに、呆れてしまいます。状況を聞きもせず、こちらが悪者扱いとは。


「その方が私に名乗りもせず、不躾にも敬いもせずに呼び捨てしてくるから指摘しただけだけれど?」

「学院では身分は関係ない! そんなことも分からないのか!?」


 …………どうしましょうか。クリム様が予想以上におバカさんです。学院では確かに身分関係なく皆仲良くと謳ってはいますが、あくまでも建前。学院は社会の縮図なのですから、当然身分による上下関係がありますし、守らなければ罰せられます。まさか、それを侯爵子息であり皇族の婚約者が分からないなんて、前代未聞どころではありません。私の中のクリム様の株がみるみると下がっていきます。ルーチェの中の株は随分と前から大暴落していますけれども。


「身分は関係ないならば常識も関係ないと? そのご令嬢は名乗ると言う必要最低限のこともせず、私を悪女と言い、ルシアが学院にいることを否定したのよ?」


 嘘は言っていませんよ? ペルクシム男爵令嬢は名乗らず、私(あちらはルーチェだと思っている)を悪女と言い指を差し、私が学院にいるはずがないと言い切ったのですから。それがどのような身分であろうと、身分が関係なかろうと、どれほど非常識であるか、分かりますよね?

 それが理解できない程のグズではないだろうと圧をかければ、少しだけ後退りをします。クリム様、ルーチェ相手には弱いのですよね。私には強気に出ると言うのに。


「ねぇ、私の家族が学院に来てはいけない理由、教えてくださる?」


 扇子で口元を隠し、にこりと笑いかけてあげると、二人して怯えています。ルーチェが社交界で頂点に立っているのはこういう力があるからなのでしょうか。私には絶対無理ですね。表情筋が今にも死にそうです。笑うなんて行為をほとんどしない上に話す相手も基本的に家族やシグニなど周囲の方だけ。面倒だと魔法でペンを操り紙に書いて筆談することもありますし。

 お二人は「覚えていろよ!」と小説などに出てくる脇役、と言われる悪党が吐き捨てる言葉を言って逃げていきます。何がしたかったんでしょうかね。テンセイシャと言うものも、詳しく聞けませんでした。城の本は全て読破し記憶してあるので、書いていないはずです。となると、城にはない大変貴重な本にあるのでしょうか。気になります。研究者としての血が騒ぎます。調べなければ。しばらくは徹夜で本を漁りましょう。






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